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定住する前提に立つ

10月25日の日経新聞で、「ノーベル経済学賞にアセモグル氏ら 国の豊かさ 制度の影響解明」というタイトルの記事が掲載されました。記事の内容は国がテーマではありますが、私たちの組織活動に置き換えて考えることもできる、示唆的な内容だと思います。

同記事の一部を抜粋してみます。

スウェーデン王立科学アカデミーは14日、2024年のノーベル経済学賞を米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授、サイモン・ジョンソン教授、米シカゴ大学のジェイムズ・ロビンソン教授に授与すると発表した。制度と経済発展の関係を示し、また制度がなぜ持続し、制度がどのように変化するかを説明する理論的ツールを開発したことを授賞理由として挙げている。

「なぜある国は豊かで、他の国は貧しいのか」という問いに関する研究に、3人の研究者は大きな前進をもたらした。右の問いは社会科学にとって本質的なもので、数百年にわたり多くの研究者が取り組んできた。

膨大な先行研究の中で、アセモグル氏らの研究に直接つながるのは、1993年にノーベル経済学賞を受賞した米ワシントン大学のダグラス・ノース教授の研究である。

ノース氏らによれば、人々に経済活動のインセンティブを与える制度が近代の西欧で形成されたことが経済活動を活発化させ、経済発展をもたらした。その制度とは所有権を保護する制度を指す。治安を維持し契約執行を国家(裁判所)が担保すること、そして国家自体が恣意的な課税などを通じて人々の財産を収奪しないことが要件である。

アセモグル氏ら3氏の2001年の論文はノース氏らが試みた、制度の経済発展への影響に関する実証研究を大きく前進させた。アセモグル氏らは、17世紀以降、欧州諸国が世界のさまざまな地域を植民地化した際の「植民者の死亡率」を操作変数として提案した。アイデアは次の通りである。

第1に、風土病などによって欧州人植民者の死亡率が高かった地域(アフリカ、南米など)では欧州人は定住を前提とせず、天然資源などを短期的に搾取することを植民化の主な目的とした。このため所有権を保護し、政治権力をけん制する仕組みを組み込んだ制度ではなく、略奪的な制度を導入した。

一方で植民者の死亡率が低かった地域(北米、オーストラリアなど)では、植民者の定住を前提に欧州の制度が移植され、所有権の保護と政治権力のけん制が機能する制度が実現した。

第2に、こうして植民地化当時に形成された制度には持続性があり、現代の制度に反映されている。第3に植民地化当時の欧州人の死亡率は、地理的な位置など地域の属性をコントロール(制御)すれば、現代の各地域の豊かさに直接影響を与えるとは考えにくい。したがって植民地化当時の欧州人の死亡率は、現代の制度に関する操作変数に用いることができる。

彼らの推定結果によると、仮説どおり、植民地化当時の欧州人の死亡率が高い地域ほど、現代においても所有権保護の程度が低かった。この結果を用いた第2段階の推定では、収奪リスクに対する権利保護の程度(の第1段階推定値)の係数はプラスで、統計的に有意であり、しかもその値は大きい。

すなわち、権利保護の程度が1ポイント高いと、1人当たりGDPが約2.6倍大きくなる。この結果は、制度の質が国の豊かさに影響を与えるという因果的な関係を示している。

右の論文では、制度に持続性があり、過去の制度の質が現在の制度の質に反映されるということが前提となっている。アセモグル氏らは後に、こうした制度の持続性のメカニズムに関する研究も発表している。その成果が3人の受賞のもう一つの理由となった。

同記事の内容は、大きな原理原則を示唆しているのでないかと感じます。それは、「自分自身が、相手のコミュニティに身を置き続けるつもりでなければ、物事はうまくいかない」です。

同記事の示唆を、私なりの言葉でまとめてみます。

・人々に経済活動のインセンティブを与える制度(所有権を保護する制度)が経済活動を活発化させ、経済発展をもたらす。そして、治安を維持し契約執行が守られることの保障が必要。

・植民者が定住を前提とせず、植民地で短期的搾取を前提に略奪的な制度を導入した国は、経済発展度合いが高まらない。植民者も長期的な利益を享受し続けることはできない。

・植民地で定住を前提とし、所有権の保護や政治権力のけん制が機能する制度を導入した国は、経済発展度合いが高まる。植民者は長期的な利益を享受できる可能性がある。

・そうした制度の影響は長く続く。

植民者が出身国をモデルとする制度を適用し自らも定住を前提としたほうが、定住先の国の経済発展につながったというわけです。(植民地化するという行動自体を肯定する意図はありません。また、植民者側が考える制度を相手に適用させたほうがいいとも限らないと思います)

同記事は国同士の事象について取り上げています。

私は研究の細部まで理解できていませんし、やや飛躍するかもしれませんが、この視点は組織同士の合併、あるいは個人が新しい組織に入っていくケースに置き換えても共通するのではないかと推察します。すなわち下記です。

・組織に入っていく人材やチームが定住を前提とせず、入っていく先の組織から短期的搾取を前提とした戦略の実行に走ってもその組織は発展せず、入っていった側の人材やチームも長期的に豊かにならない。

・組織に入っていく人材やチームが定住を前提とし、入っていく先の組織で自らと共に、構成メンバーにインセンティブを与えたり、成果によって得た報酬を認めたりすることを約束する仕組みが、事業を活性化させ組織の発展をもたらす。入っていった側の人材やチームも長期的に豊かになる。

・そうした制度の影響は長く続く。

「定住」といっても必ずしも永住ではないでしょうし、どのぐらいの時間軸で見るのが適切かはわかりません。そのうえで、少なくとも「近視眼的な腰かけのつもりでは、入っていった先の組織でうまくいかない。一定期間以上定住するつもりで入っていき、自身が定住先の一員としても納得できる制度を構築しようとすることが、うまくいくことの必要条件(十分条件ではないが)である」と言えるのではないでしょうか。

上記は、私たちが普段行動したりいろいろな事例を目にしたりすることで、感覚的にわかることではあります。

そのうえで、類似の事象に関して学術的な研究で裏付けされたということ、そのことが2024年のノーベル経済学賞の理由の一角をしめているということは、日々の活動を考える際の参考になり、知っておくことで有益だと考えます。

<まとめ>
定住する前提に立たないと、うまくいかない。


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