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消費の二極化をタイパの視点で考える
4月13日の日経新聞で、「タイパ(タイムパフォーマンス)」に関する記事が掲載されました。長時間の動画ではなく、1分以内といった短時間の動画を投稿するTikTokの利用が支持されるなど、時間当たりの効率性を求めるトレンドは続きそうです。
「夢の国開業40年(上)東京ディズニー「タイパ」重視」の記事を一部抜粋してみます。
「開園時から格段に魅力が高まっている。課題はWi-Fiとかネット環境ですかね」。こう笑うのは吉田よしかさん。1983年4月15日、東京ディズニーランド(TDL)の開業日に訪れてから40年間、足を運んでいる熱烈なファンだ。
東京ディズニーの集客力は世界有数だ。"本家"に迫る背景には40年間、拡張を追求してきた歴史がある。「永遠に完成しない」という拡大戦略を歩んできたが、3つのブレーキがかかる。
1つ目は"夢の国"の用地に限りがあることだ。OLC(運営するオリエンタルランド)は千葉県浦安市の舞浜地区の7割超にあたる約200万平方メートルを保有する。残りの敷地には商業施設やホテル、駐車場などが並び「遊休地はほぼない。40年続けてきた拡張は24年で、一区切りになる」(同社)。
2つ目は値上げの余地だ。現在、大人の1日券は繁閑に応じて7900~9400円と開業時の2倍超になった。「値決め」のコンサルを手掛けるプライシングスタジオの高橋嘉尋社長は「今後、大幅な値上げの余地は少ない」とみる。物価上昇で、レジャーは節約対象になりやすい。オールアバウトの22年の調査ではTDRの入園料に対し、回答者の7割が「高い」とした。
3つ目は新型コロナの影響がある。長期休園や来場制限で、20年度は上場以来初の最終赤字に。40年前、日本の人口に占める65歳以上の比率は1割だったが、22年は3割近くになった。コロナ対策は緩むが、シニア層は混雑するレジャーへの回帰が若年層より遅い。
今後、どう成長していくのか。新型コロナは「混雑への不満」という構造問題にメスを入れる機会にもなった。混雑を抑え、滞在の質向上にシフトする。OLCが22年に公にした中期経営計画は"異例"だった。TDSのエリア拡張やインバウンド(訪日客)の回復が見込まれるなか、24年度の入園者の目標を2600万人とピーク時より2割も抑えた。
すでに布石も打つ。21年3月から繁閑に応じた変動価格制を導入。10月には1日券の価格設定を2段階から4段階にし、休日に偏りやすい入園者の分散を促す。さらに22年5月、アトラクションを時間指定で予約できる有料サービスも始めた。
繁忙期は2時間程度並ぶTDLの人気アトラクション「美女と野獣」。2千円の同サービスを使うと、待ち時間が10分ほどになるケースが多い。22年度の客単価は1万5759円と、新型コロナ前より4割近くも上昇する見通しだ。岩井コスモ証券の川崎朝映シニアアナリストは「園内で過ごす時間の質、『タイパ』重視の方向は成長につながる」とみる。
世界観を演じ切る精緻な接客マニュアル、施設をあえて古めかしく見せる「エイジング」の技術――。レジャー産業に詳しい桜美林大学の山口有次教授は「TDRが日本にテーマパークを生み、サービス業の水準を高めた影響は大きい」と評価する。一方、エリア拡張の余地が狭まる今後は「消費者の『飽き』との戦いになる」と指摘する。
TDRといえば、「待ち時間が長いと感じさせない」仕掛けが強みのひとつでした。2時間並ぶアトラクションも、行列を待ちながら目にするアトラクションに関連した説明の掲示からTDRの世界観に触れたり、通過するパレードを楽しんだりすることで、「待ち時間でさえエンターテイメント」としたわけです。
個人的には、こうした時間・空間の使い方に共感するのですが、求めるものは人それぞれで、かつトレンドは時短など別のところにもあるのだろうというのを、同記事からは感じます。
同記事を手がかりにすると、今後の消費のカギは「多様性の受け入れ」にあるのかもしれないと考えます。(多様性の受け入れがブランド毀損につながるような商品・サービスの場合は当てはまりませんが。)
両極端に例えると、一方はタイパの追求タイプです。待ち時間が10分で済む特別チケットなどを使って滞在時間で最大限アトラクションの数を効率的に楽しむ。待ち時間もWi-Fiでスマホを忙しく操作し、本人にとって「何かを具体的にできている時間」を追い求めていく楽しみ方です。
もう一方は、タイパをまったく度外視した楽しみ方です。時間に追われない非日常空間を求め、スマホもほとんど操作しない。上記で私が例えた「待ち時間でさえエンターテイメント」的な過ごし方をします。
自ずと、前者はお金がかかり、後者はお金がかかりません。同記事では「家族4人で飲食も含めると、1日で4万円以上の出費。昔のようにフラッとは遊びづらい」という声も紹介されていました。クリスマスなど繁忙期に前者の楽しみ方をすれば、今後はもっと高額な出費になっていくでしょう。閑散期に後者の楽しみ方なら、そこそこリーズナブルな値段で抑えられるかもしれません。
あまり予算を充てられない利用者も確保しながら、思い切って予算を投入する利用者も受け入れ拡大していく。利用者それぞれで多様な楽しみ方があるが、ディズニーという世界観に共感していることは共通している。例えるなら、ファーストクラス利用者の高額な支出が、エコノミークラス利用者を含めたフライトサービス全体を支えていくようなモデルになるのかもしれません。
同日付で、「カット野菜市場、高値でも伸びる コロナ前比3%高 彩り・栄養、巣ごもりで注目」という記事もありました。(一部抜粋)
あらかじめ調理しやすいサイズに切ったカット野菜の単価が上がっている。家庭で料理する機会が増えた新型コロナウイルス下で便利さを知り、手放せなくなった消費者が多い。栄養価が高い野菜を入れたり、彩りを考えたりした高価格のパックも登場。タイムパフォーマンス(時間対効果)を高めたい時代のニーズを捉えている。
全国の小売店データを集計した日経POS情報によると、カット野菜の平均単価は上昇傾向にある。2023年1~3月の「野菜ミックス(カット野菜、加熱用)」は110.6円と、前年同期を1.7%上回る。コロナ前の19年1~3月比では3%高い。生鮮なので季節や天候によるブレはあるが、前年比の価格はおおむねプラスが続く。
キユーピー系列でカット野菜を製造・販売するサラダクラブ(東京都調布市)によると22年の「パッケージサラダ」の市場規模は1969億円。コロナ前の19年比で26%伸びた。使い切りが主流だったカット野菜にも数日間に分けて使う商品が登場している。
ここでも、1円でも安い野菜を求めて購入先のスーパーを使い分ける利用者がいる一方で、より高いお金の支払いと引き換えに時間短縮を手に入れようとする利用者がいることがうかがえます。
利用者にとっての選択肢が増えるのは、基本的に良いことだと思います。自社の商品・サービスの中核的な価値を維持しながら、いかに多様なお客さまを受け入れることができるかが、今後の各社のテーマになるのではないかと考えます。そして、この視点は、「お客さま」を「従業員」に置き換えても、成立するのではないでしょうか。自社に共鳴するという点では共通しながらも、多様な働き方を求める従業員を受け入れる視点です。
先日、「スペパ」という言葉を初めて聞きました。「スペースパフォーマンス」、場所の効率的な使い方を追求するという意味合いのようです。
企業や個人が使える資源は、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」「時間」という切り口で説明されることがあります。「カネ」に焦点を当てた「コスパ」、「時間」に焦点を当てた「タイパ」、「モノ」の一部である場所に焦点を当てた「スペパ」。この先、「ヒトパ」なども出てくるのでしょうか。
<まとめ>
多様な利用者を受け入れながら、高額消費者のニーズも積極的に取り入れる。