仕入れコントロールの重要性
先日、ある社長から仕入れコントロールの重要性についてお話を聞く機会がありました。過去に同社様の事業計画で、仕入れに関する見通しが甘かったために苦労した経験がある、というお話でした。
話の概要としては、以下の通りです。
・お客様に商品を提供するサイクル(回転率)を上げれば、全体の収益性は向上できると思っていた。しかし、その前提となる仕入れのコントロールができなかったため、仕入れにかかる費用を制御できなかった。その結果、仕入れ値が上がり、気がついたら「利益を生まない販売活動をひたすら繰り返す」状態に陥っていた。強い会社は、仕入れコントロールができている。
・固定費の見通しも甘かった。回転率を上げても固定費はほぼ横ばいと想定していたが、商品出荷準備のための整備場の拡張、社員の労働時間増加が想定以上で、固定費が上がってしまった(厳密には、社員の労働時間増加に伴う超過勤務手当は、変動費とも言えますが、考え方として)。
事業の利益は、利益率×回転率で決まります。1回あたりの販売による利益をいかに増やすかと、仕入れ~販売のサイクルをいかに増やすかです。そのいずれか、あるいは両方を実現させることを目指します。
中小企業は、基本的に利益率重視のほうで臨むべきでしょう。回転率で勝負しようとすると、生産・販売ボリュームで規模の経済が働きやすい大手に比べて、力負けしやすいからです。よって、商品・サービスの中身として大手とは別の自社ならではの付加価値と値付けで勝負する利益率の確保が、基本戦略になるべきでしょう。
仕入れコントロールは、売る側と買う側のどちらに交渉力があるかが影響を与える、難しい問題です。自動車業界では、これまで買う側である完成車メーカーが圧倒的に強い力を持っていました。しかし最近では、売る側である半導体メーカーが完成車メーカーに値上げを要求するなど、従来の力関係では考えられなかった事象が起きています。交渉力も常に流動的だというわけです。この観点からも、外部環境の動きには敏感になっておくべきだと言えます。
同社様では、自社のほうから単価の維持(あるいは切り下げ)や仕入れ量の調整・交渉が、当時まったくできない状況に置かれていたということのようです。その後、異なる事業モデルに転換したことで、仕入れ問題を改善させ、収益性を取り戻していったそうです。このことからは、固定費と同様、仕入れに関する的確な将来見通しの必要性も感じます。
例えば、1月27日の新聞紙上では、給与のデジタル払いを今春に解禁するという国策が取り上げられていました。銀行口座を介さず決済アプリなどに給与を直接振り込む方式を認めるということです。このことにより、当然従来の金融機関は国民から預金を集めにくくなります。これも、従来の金融機関にとって「仕入れコントロール弱体化の影響」という観点から、収益性低下の懸念につながると整理することができます。
ちなみに、ポーターの「ファイブ・フォース」で考えると、上記は収益性低下を招く5つの要因のうち、「代替品の脅威」が高まることで、「売り手の交渉力」も高めてしまうと言えます。給与の振込先の強力な代替品が登場することで、供給者(預金者)の金融機関に対する無言の交渉力が強くなり、預金を集める際のコストが業界横断的に上がっていくでしょう。
類似の業界他社と比べて収益性が高いとされている企業は、仕入れを自社のコントロール下においているところが少なくありません。代表格は、ファーストリテイリングやニトリです。製品を自社開発・製造しており、他社から製品を買い付けるビジネスモデルに比べ、非常に安定した仕入れコントロールが可能と指摘できます。
過去最高利益を更新し続ける企業について、その強さの要因を考察すると、仕入れコントロールが挙げられるという企業は多いことでしょう。
<まとめ>
仕入れコントロールができる状態づくりを目指す。