ペルソナの設定はどこまで有効か
ペルソナを設定し、マーケティングに活用するという考え方があります。ペルソナとは、直訳すると「人格」という意味です。マーケティングでは、ペルソナは商品やサービスを利用する典型的な顧客モデルのことです。実際にその人物がいるかのように、顧客像を想定します。
「ターゲット」よりもイメージを詳細に深掘りするという意味合いで、ターゲットと区別されることも多いようです。以下は適当な例です。
ターゲット:20~30代、女性、共働きで子育て中、料理好き
ペルソナ:佐藤花子、35歳、都内在住、IT関連企業に勤務、長女4歳、長男2歳の育児中、世帯年収800 万円以上、食事に気を遣っている、こだわった食材(自然、オーガニック)で料理をつくる
年齢、性別、居住地、職業、職種、収入、家族構成、趣味、特技、価値観、ライフスタイルなど、リアリティのある仮想顧客のプロフィールを作ります。そして、その人物の具体的な立場に立って、この商品を受け入れそうか、この広告に反応しそうかなどを考えます。このことによって顧客視点が高まり、お客さまに対する商品開発やwebサービスの設計が、顧客ニーズに合った、より的を射たものになるというわけです。
また、この過程によって、プロジェクトに関わるメンバー間で共通認識を持てるという効果もあります。開発過程で何かが議論になった時に、顧客像が具体的になっていることで、論点がぶれにくくなります。
一方で、ペルソナマーケティングにはデメリットもあります。
電通マクロミルインサイトのコラム「ペルソナマーケティングとは?古いと言われる理由や具体的な手順」を参照すると、クリエイティブな発想が出づらくなるというデメリットが挙げられています。具体的な人物像に沿って考えることで、まったく別の視点や新しい顧客ニーズはイメージしづらく、大胆な発想が必要な場合には向いていないと説明しています。
また、顧客と商品・サービスとのタッチポイントも多様化しています。いろいろなタイミングやツールで商品・サービスを知る機会も増え、従来のような代表的な人物像の設定では、すべてのケースを想定するのは無理があるというわけです。
12月16日の日経新聞で、「「ウーバー」的な家事代行 最低1時間、財布に優しく」という記事が掲載されました。(一部抜粋)
CaSyが想定顧客をどこに置いていたかは存じませんが、家事代行を使いそうな人の一般的なイメージは、30代以降の子育て中の女性ではないでしょうか。しかし、メインの利用者層はそれとは異なるというわけです。ペルソナマーケティングの限界を示しているのかもしれません。
そのうえで、詳細な顧客プロフィール想像してペルソナ設定するのは、一定の意味があると考えます。
上記CaSyの例が仮に、当初の想定ペルソナが20代後半以降の単身者ではなく30代以降の子育て中の女性だったとします。そのうえで、「何を求めているだろうか。何があれば喜ぶだろうか」と当初ペルソナについて考え抜いたり近しい属性の人に実際に聞いたりする、作り込みの過程があったからこそ、そこから派生した層にも受け入れられる完成度になるのではないかと考えます。
(記憶があやふやで不正確かもしれませんが)たしか、若手世代に車に興味を持ってもらおうと、ある車種のスポーツカーを、若者向けを意識して打ち出したところ、若い頃スポーツカーがほしかったものの買えなかった中高年にヒットした。その後購買者の年齢層が下がっていった、というような話を以前聞いた覚えがあります。これなども、ペルソナマーケティングによる効用なのだと思います。
この視点は、法人向けビジネスにも当てはまります。自社の商品・サービスをお買い求めいただくメインの顧客層も、例えば、A業界・売上高1000億円・従業員1000人・上場企業なのか、A業界・売上高10億円・従業員30人・非上場・オーナー経営企業・業容ますます拡大中なのか、B業界・売上高10億円・従業員30人・非上場・オーナー経営企業・業績安定維持なのかで、ニーズはまったく変わってくるはずです。
先週ある企業様の管理職研修で、自社の商品・サービス別にメインの法人顧客をペルソナのように設定し、「想定されるニーズ」「ニーズに応えることができている点」「ニーズに応えることができていない点」などのディスカッションを行いました。典型的な法人顧客を詳細に想定することで、関係者間の認識が共有され論点がぶれにくくなり、どうやったら喜ばれるのか自社の商品・サービスの課題感を磨き上げることにつながる実感が持てたようです。
仮の想定顧客を具体的に設定してみる。そして、何をするべきか・したいかを考え抜いてみる。そのことが支持される商品・サービスの原点になり得るのではないかと思います。
<まとめ>
仮の想定顧客を具体的に設定してみる。