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定年制度の原点に目を向ける

これからの企業経営において、定年制度にどう向き合うべきかという話を聞く機会が増えています。先日、ある経営者様の勧めで「指導者として成功するための13の条件」(染谷和巳氏著)という本を手に取ったのですが、同書の中に定年制度について考えるヒントがありました。

同書の中に、次のような内容があります。

~~戦前の平均寿命は50歳程度であり、60歳は長生きの部類に入り、呼称はまさしくおじいさんおばあさんだった。よって60歳の人が現役で働いていることは稀であった。

長い間日本の会社の定年制度は55歳であった。定年制度は明治時代に軍需工場や商船会社で始められた。それは「社員は55歳まで働いてもらわなくては困る」という規程であった。

当時の平均寿命は45歳ぐらいで、55歳まで働いてくれというのは死ぬまでと同義であり、仕事に習熟した熟練工員や社員の「隠居」したがる気持ちを抑えるのが目的であった。定年制はやめたがる熟練社員を囲い込む策として広がっていったのである。それが足切り策、つまり本人がまだ仕事をする気があるのに強制退場させる規制に変わったのはここ数十年のことである。~~

定年制度については、本コラムでもこれまでに何度か取り上げました。世界には定年制度が存在しない国もたくさんあります。また、雇用で年齢を理由に差別することを禁じている国もあります。日本においても、農業従事者などは一般的に定年がありません。
https://note.com/fujimotomasao/n/n3c85fe47dfee

つまりは、ある程度の年齢になったら引退するという概念自体が成立したのは、歴史的にみてごく最近ということです。そして、定年制度も元々は終生仕事につなぎとめるための制度だったというわけです。私も同書でこのことを初めて知りました。

もちろん、時代と共に制度やルールは環境に合わせて変化していくべきものでしょう。その意味では、
・ベビーブームを受けて若手社員が会社に大量に入社し始めた
・それらの人材が活発に仕事をし会社を支える存在となっていった
・シニア社員の中で高給に甘んじ若手社員に負の影響を与える人が出てきた
といった環境下では、定年制度の目的を職場からの強制退場に変えて運用したのは、もしかしたら一定の合理性があったのかもしれません。

しかし、今ではまた環境が変わっています。
・平均寿命は80歳を超えて、健康寿命も延び続けている
・仕事を単なる生きる手段ではなく、生きる目的と捉えようとするキャリアの考え方も、従来以上に広がってきた
・若手社員が減少し続ける
・テレワーク等の発達で体に負担のかからない働き方も選びやすくなった
・これから高齢者になる人材は、テレワーク等のやり方に対応できる人が増える

こうした更なる環境変化を受けて、成立当初とは真逆の目的で運用されている定年制度については、この先本当に維持が必要かどうかを議論してもよいのではないでしょうか。

年を重ねてくると、意欲・気力・体力・能力の面で個人差が大きくなるのは事実です。一律に正社員雇用を続けるのが理に適っているわけでもないでしょう。しかし、それであれば、例えばある年齢以上の人材については、本人の申し出と会社の処遇判断に応じて、各人個別にそれぞれの年齢で正社員雇用から嘱託雇用などに切り替える制度にすることもできるでしょう。一律の年齢で正社員引退を決める必要はないわけです。定年制度の理想としては、その存在がないことではないかと考えます。

コロナ禍が現状以上の収束状態に向かえば、どこかのタイミングで外国人雇用は再開されるでしょう。しかし、どの程度戻るのか予測がつきません。コロナ禍がどのような形でどの程度収束に向かうのかも読めませんし、仮に完全に収束したとして日本が就労先としてどの程度選ばれ続けるのかも読めません。これからの人材難を乗り切る上では、さらなる高齢者活用が有力な選択肢でしょう。

高齢者層は、一定の経済的役割を終え、ある意味最も私心なく純粋によい仕事をしようとする可能性の高い層だとも言えます。この人材層を活用しない手はないでしょう。

<まとめ>
ある年齢で雇用から強制退場させる定年制度は、当初の制度導入根拠を失っている。


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