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リバースメンタリングという取り組み(2)

7月6日の日経新聞で、「役員の悩み、新人が解決 先生役で年配者研修 NEC、若い世代の働きがい向上」というタイトルの記事が掲載されました。経験年数の長い人が新人などのメンターになる一般的なメンター制度の逆で、若い世代が年配者のメンターとなる「リバースメンタリング(RM)」について取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

NECは5日、若い世代が年配者の先生役となる研修「リバースメンタリング(RM)」を初めて実施した。新入社員が役員から職場の悩みを聞き出し、それを解決するアプリケーションを1時間半で作り上げた。上意下達でない組織文化を醸成するとともに、若い世代の働きがいを高める狙いがある。

「社内コミュニケーションを活性化させたいんだけど、どうすればいいかな?」。5日午後、NEC本社の研修会場でこう尋ねた役員に対し、新入社員が「上司とのチャットは句読点が多くて怖いんです」と応じた。話し合いの結果、絵文字を入れないと投稿できない社内チャットアプリを作った。

今回のRM研修はデジタル人材育成のライフイズテック(東京・港)のプログラムを使い、役員35人と新入社員35人の計70人が3~5人ずつのチームに分かれて参加した。新入社員はプログラミング不要の「ノーコード」ソフトを駆使して役員の悩みを解決した。

新入社員は幼いころからインターネットが身近にある「デジタルネーティブ」世代。グローバル企画部門長の室岡光浩役員は「ソフトにとても慣れている。自身の部署には新入社員がいないため、刺激的な体験だった」と笑顔を浮かべた。

NECは終身雇用や年功序列といった旧来型の人事制度からの脱却に力を入れてきた。仕事内容と求められる成果を明確にするジョブ型雇用に順次移行し、4月には新卒を含む全社員が対象になった。

ただ、制度改革を進めても、フラットな組織文化を醸成するのは簡単でない。年齢差はその要因の一つとなり得る。NECの社員の平均年齢は3月時点で43.3歳。東京商工リサーチが2021年に国内157万社を対象に実施した調査では平均年齢は34.1歳だ。

そこで導入したのが今回のRM研修だった。企画したNECの森田健・カルチャー変革エバンジェリストは「職場に配属されると部門ごとの縦社会に疲れ、数年後に離職してしまう新入社員も少なくない。挑戦できる場を作りたかった」と狙いを語る。

最近は幹部層が若手の柔軟な発想や知見に触れられ、若手は幹部から教訓を得られるといった利点も評価されている。日本企業でも資生堂や住友化学、三菱マテリアルなどが導入済みだ。

NECは25年以降も年1回以上のペースでRM研修の開催を検討する。新入社員の田辺広大氏は「役員の方をあだ名で呼ばせてもらって話しやすかった。普段の職場でも上司に率直に意見を言っていいんだという意識を大切にしたい」と手応えを得た様子だった。

RMについては、以前の投稿でも取り上げたことがあります。若手人材と先輩社員との関係性の一部を、RMという仕組みでつくることについて、以下の効果について主に考えました。

・「年上に指導する/年上に教える」「年下に指導される/年下から学ぶ」ことに慣れる

・ルールにすることで、若手から積極的に学び交流するという行動が促される

ここでは、メンターとなる若手人材にとっての意味について、2つの面で考えてみたいと思います。ひとつは、会社に貢献できているという実感が得られることです。

若手人材の早期離職対策などに取り組まれている株式会社カイラボ様の定義によると、早期離職の要因 は「存在承認の不足」「貢献実感の不足」「成長予感の不足」の3 つです。そして、この三大要因が複合的に作用して離職に至るとしています。(早期離職白書2022より引用)

存在承認:社内で自分のことを受け入れてもらえている感覚
貢献実感:社会、顧客、チームなどの役に立っていると感じること
成長予感:この仕事を続けることでなりたい自分に近づけると思えること

逆に言うと、これら三大要因を抑えることができれば、望まない人事流出が発生する可能性を減らすことができるということになります。

新入社員は、社会人として実務で求められる知識も技能も、当然ながらまだ身につけていません。仕事ですぐには思うような成果が出せず、厳しい指摘を受ける場面も多いはずです。「私はお客さまや会社のために役に立っていけるのだろうか」という不安も感じやすいものです。

RMによって、自分がだれかの役に立てていると明確に実感できるのは、その職場で努力を続けていこうという気持ちを維持・向上することにつながります。(もちろん、存在承認や成長予感を高めることにもつながると思います)

もうひとつは、精神的な支柱となりえる有力者とパイプができる安心感です。

直属の指導者や上司以外に、「右斜め上」の位置関係にあるメンターとつながる意義が時々指摘されます。直属の指揮命令系統にある目上の人だと、どうしても相談しにくいことがあります。業務で直接の報連相が発生しない位置関係ならではの関係だから話しやすい、業務上の悩みや葛藤が聞いてもらえるというわけです。

役員とのRMを通した関係構築は、そうした関係性の極みである、その社内で大きな権限を持つ者とのつながりができることになります。何かを教えるという場面をつくることで、その役員とは明らかにその後相談しやすい環境になるはずです。組織内の有力者と、いざとなったら何か話せるきっかけがつくれることは、新入社員にとって安心材料のひとつになりそうです。

RMに臨むうえでの役員側の注意点として、真摯に新入社員メンターの言うことを受け止めるのはもちろん、「安易にリスケをしない」ことが挙げられるのではないかと思います。(同記事の例は、一時的な研修という機会のようなので当てはまりませんが、継続的に何度も行う一般的なメンタリングの場合です)

もちろん、職位の高い人ほど緊急事態も発生しやすい立場にあります。RMの予定だった時間で緊急対応しなければならなくなるという状況もあると思います。そのうえで、仮にそれほど緊急の要件がない状況で、安易にRMの予定をリスケするような場面が続くと、新入社員の立場としては「自分とのセッションはあまりお役に立てていないのかも」「見下されている」などの印象になりかねません。先ほど挙げた三大要因を助長する可能性もあります。

このような取り組みを進める場合は、せっかくの機会ですので、しっかりと貢献実感をもってもらえるような進め方ができるとよいと思います。

<まとめ>
新入社員が役員に教える場を、構造的につくるという発想もあり。

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