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上司ガチャを考える
11月22日の日経新聞で、「〈YOUTH FINANCE〉(8)配属ガチャ→上司ガチャ 変わる新入社員の不安」というタイトルの記事が掲載されました。いろいろなことへのガチャガチャの物言いは、少し前から見られるようになっていましたが、同記事は上司ガチャについて取り上げた内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
「配属ガチャよりも上司ガチャの方が大きい」。2024年4月に国内の大手金融機関に新卒で入社した岡部司さん(仮名)はこう話す。部下の立場から上司を選べない上司ガチャを「みんな感じている。『○○支店の支店長は外れだ』などの噂が絶えない」と語る。
複数の金融機関の新入社員に聞くと「自分の若い頃はこうだったと昔話をする」「感情の起伏が激しい」「正当な評価をしてくれない」上司などが挙がった。
全国転勤型の総合職で入社した岡部さんは第1希望だった都内の支店で働くことになった。「多くの人は第1希望がかなっていた。第2希望までに入らなかった人はほぼいなかった」と語る。
実際、企業側は配属に気を使っている。勤務する地域の希望がかなっても、やりたい仕事ができない「部署のミスマッチ」があると新入社員は見切りをつけかねない。そこで企業が増やしているのが部門別採用だ。
大和証券グループ本社は語学力や会計知識などの専門性を条件に、全国転勤型の総合職と同額の初任給で配属部門を確約する採用を取り入れている。
損害保険ジャパンは25年入社の新入社員から最初の配属先を公募で決める制度を始める。希望者は営業や保険金支払部門など、自分の行きたい部署に手を挙げられる。11月中に募集を開始し、書類や面接の選考を経て入社前に配属先を決める。
「就職活動時に自分のキャリアビジョンを話す機会が多かった。それを実現できるチャンスができたのは良かった」。ある内定者はこう明かす。
損保ジャパンの採用担当者は人材の獲得が年々難しくなっているなかで「企業優位の採用では確保できない」と漏らす。
リクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長は「企業と学生のパワーバランスが変化した」とみる。企業はこれまでは学生本人の意向を気にせずに人材を確保できていたと分析する。
変化の裏にあるのは深刻さが増す人手不足だ。売り手市場になり、部署や地域のミスマッチが起きたときにすぐに辞め、次を探しやすくなった。
企業側もそうしたリスクを減らそうと動いた結果、同研究所の「就職プロセス調査」によると、配属先が応募時に確約されていた25年卒の学生の割合は全体の19.7%と、24年卒の12.9%から一気に高まった。
栗田所長は「企業と学生、従業員が対等な立場でコミュニケーションできる場をつくることが配属・上司ガチャを生まないために必要」と語る。
予想外の配属でも思いがけない楽しみややりがいを見つけ、目指す将来像が変わるケースも多い。苦手な上司が貴重な助言をくれることもある。大事なのは「運任せのガチャ」のように映る人事制度から社員が感じる不安を取り除いていくことにある。
たしかに、新卒で初めて働き始める環境で初めてつく上司は、本人のキャリアにおいて多大な影響を与えます。素晴らしい上司の場合、本人にとって生涯のお手本、生涯のモデルとして刻まれ、プラスの行動変容に大きく寄与します。そうでないなら、そうでないなりの結果になります。
当然、(変な言いがかりではなく、れっきとした)ハラスメント行為が見られたり、法令やモラルに触れたりするような上司は論外です。配属先の環境や上司がそうでない場合という前提で、同記事のテーマであるガチャに関連して、新卒社員に必要な視点として3つのことを考えました。ひとつは、十分な判断材料がない中で特定の選択肢に過度に執着することへの危うさです。
特に新卒人材は、まだ就業経験がありません。よほど中身のあるインターン活動などを経験していれば、自分の職業人生で成し遂げたいミッションやキャリアビジョン、適性、強みのスキルなど、キャリアの選択をするうえでの判断材料がある程度見えているのかもしれませんが、それでも職業生活に対して限定的な視点にとどまると思います。まだエントリーフェーズです。
キャリアに関する希望を持つこと自体は望ましいことですが、職業生活の何が幸いするかわかりません。思わぬ経験が後で活きる強みスキルや新たな自己発見につながることもあります。
また、エントリーフェーズの自己認識が、本来ありたい自分の姿などからずれている場合もあります。ですので、「この選択が叶わなかったらダメ、絶望」などと、エントリーフェーズの自己認識にあまりに固執すると、選択が偏ったり、自分にとってのよい可能性を狭める選択をし続けたりする可能性もあると思います。
2つ目は、(上司が最低限のモラルをクリアしているという前提のうえで)どんな上司からも何らか学べるものがあるはずということです。
たとえきめ細かい評価や人事制度がなくても、組織図を決めた際に、その人材を配置するのが組織を良くするうえで最も良い形だろうと、会社は何か考えたうえで人材配置を行っているはずです。配置する前から無駄とわかりきっているような人選をわざわざすることはありません。(結果的にうまくいかなかった、はありますが)
ですので、上司のポジションを務めている人材は、そのポジションを任命されたなんらかの経緯や理由があるわけです。例えば、結果的にマネジメントとしては今ひとつの現状でも、プレイヤーとしては卓越した何かを持っているなど。そのように考えれば、何らかの学びの素材が存在しているわけです。
上司⇔部下のラインは、永遠に続くものではなく、いずれどこかのタイミングで終わります。その時までに何かの学びの一助になると捉えるのもよいと思います。
3つ目は、職業生活ではあらゆることがガチャで、お互い様の面もあるということです。
上司もガチャなら、部下もガチャです。向こうは向こうで、部下に対して当たり・ハズレなどといった目線で見ているかもしれません。
最終的な人選の組み合わせは、自分ではコントロールできないことです。採用する側、される側が、相手を見極めるためのプロセスに工夫し取り組むことができますが、意思決定した後に実際にどんな実情なのかは、協業が始まった後に初めてわかる部分が大半です。
もちろん、マッチングとしてあまりに不成立だとなれば、そのマッチングを解消させるという結論もあり得るわけですが、逆に100%理想的な人材というのも存在しません。どんな人材にも、なんらか強み弱みの凸凹は存在します。
それらとどう折り合いをつけながら、お互いの強み部分を活かしあうかという視点は、会社組織に属している社員であっても独立したフリーランサーであっても、必ずついて回ります。むしろ、フリーランサーのほうが、この視点は切実になるとも言えます。
相手の中身を自分が直接変えることはできません。ガチャの環境下で、自分でコントロールできることに集中し、自分の行動をどう変えるかという視点は、持っておくべきだと言えます。
これら3つのことは、新卒社員の側に必要なことではないかと思います。
<まとめ>
人生や職業生活で起こるすべてのことは、なんらかのガチャ。