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海外での保育園事情を考える

日経新聞で9月16日から4回にわたって、「保育園「大閉鎖」の波」というタイトルの記事が掲載されました。各地の保育園事情や保育園の取り組みを取材し、今後の保育事業について考察した内容で、たいへん示唆的でした。

9月19日の記事「保育園「大閉鎖」の波3 日本の集団保育、世界へ」から一部抜粋してみます。

「日本の保育は海外でも通用する」。首都圏を中心に認可保育園などを運営するヒューマンスターチャイルド(横浜市)の社長、川下裕左(64)は自信をのぞかせる。

2018年にインドネシアで保育園を開設した。現在はマレーシアでも運営する。世界銀行によれば、22年のインドネシアの合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)は2.15、マレーシアは1.79だった。1.20(23年)の日本に比べるとまだまだ子だくさんの社会で、伸びしろがある。

自宅で一対一の保育を受ける「ナニー」文化が主流だった現地では、日本式の集団保育が新鮮なものと受け止められている。保育士や友達と一緒に過ごすことで社会性が身につき、あいさつや食事中のマナーといった基本的な生活習慣を学べる。

インドネシアの保育園は開設7年目の今年、定員を超える61人が入園を希望した。月額料金は日本円で約6万6千円。英語保育を取り入れる他の施設より1万円ほど高いが、教育熱心な家庭から人気を集める。

日本での勤務経験があるインドネシア人保育士が現地の保育資格を持つスタッフを育成する。年に2回、スタッフを日本に招き、保育園での実習も経験させている。「新事業として、経営にもプラスに働くと期待している」(川下)。日本で培ったノウハウを武器に、海外でのフランチャイズチェーン展開も視野に入れている。

保育士養成課程でも、海外での活躍を見据えた取り組みが始まっている。こども教育宝仙大学(東京・中野)は25年春に保育留学コースを開設する。在学中にオーストラリアで約1年間、保育園での実習経験などを積む。卒業時には日本の保育士資格に加え、現地施設で働く際に必要となる資格も取得できる。

同記事からは、主に3つのことを考えてみました。ひとつは、普段何気なくやっていることに強みが見出せるかもしれないということです。

保育園での集団保育は、日本では見慣れた景色ですが、他国では必ずしもそうではないというわけです。逆に、「ナニー」や「ベビーシッター」という言葉が日本ではまだあまり聞き慣れない通り、家庭訪問型の保育や子守りサービスは日本でまだそれほど一般的ではありません。

しかし、家事代行サービスと合わせて、日本でも訪問型の保育や子守りが広まりつつあります。これと同じようなイメージで、インドネシアでも日本式の集団保育が目にとまりつつあるのかもしれません。

ある国や文化圏で定着していることは、それなりのニーズに基づいているはずです。別の国や文化圏では相容れないこともありますが、潜在的に共通するニーズがありながらも知る機会がなかったため採用されていなかった、という状況もありえます。私たちが、自分自身や自分の周囲に関して普通に感じていることも、場所や関わる相手が違えば普通でないかもしれない、そこには大きな可能性もあるかもしれない、と改めて感じます。

その強みに気づき、いち早くアクションに移すことができれば、先行者利益もついてきます。

2つ目は、他国や世界経済の動向を把握することの大切さです。

同記事を参照すると、東南アジアの人口大国であるインドネシアでも、人口置換水準(現在の人口を維持するのに必要な出生率。2.07~2.1と言われている)を下回るのは時間の問題だと想定されます。経済発展に合わせて人口減少が進むという大きな流れは、東南アジアでも例外なく当てはまっているようです。

そして、インドネシアで月額料金が6万6千円の保育園が人気だとあります。日本では、幼児教育・保育の無償化をはじめとした補助金の支給があります。仮に保育園に月額6万6千円の利用者負担が発生するとなると、家計にとっては大きな負担となります。

インドネシアにおいても月額6万6千円を払えるのは限られた世帯だろうと想像しますが、それでも一定の利用者が見られるわけです。少し前ではあまり考えられなかった状況ではないでしょうか。

同記事では、「国内の保育施設に比べ、現地の賃金水準は高い。保育者を目指す学生の就職先として、海外の園で働くことも選択肢の一つになっていく」という指摘もありました。今の日本国内に比べて、国外の経済動向のほうが変化のスピードが速く、その動向をとらえておくことの必要性を改めて感じます。

3つ目は、既存の資産を新事業に活用するということです。

9月20日の記事「保育園「大閉鎖」の波4 「おとぎの国」は介護の園へ」から一部抜粋してみます。

ソウルに次ぐ韓国第2の都市・釜山市中心部から車で約1時間。田園風景の中に「おとぎの国」をイメージしたような建物が目に入る。温かみのあるピンクと黄色で彩られているのは「現代ダサラン老人介護施設」だ。かつては最大約400人の子どもが通う幼稚園だった。

院長の李基仲(61)は約20年間、この幼稚園を運営してきた。数年前に改修し、2023年に介護施設を開設。「少子高齢化で幼稚園がなくなることを意識した」と話す。

施設では高齢者が談笑したり、絵を描いたりしていた。クレヨンは幼稚園で使っていたものと同じ。パズルやブロックなども当時のままだ。「子どもと高齢者は思考も身体機能も似ている。共通して使えるものばかり」。孫が通っていたが、今は自身が世話になっているという高齢者も多い。

釜山市の23年の出生率は0.66と国の平均(0.72)を下回った。韓国雇用情報院が分析したところ、65歳以上の人口割合が23%に上り、人口減でなくなる恐れがある「消滅危険地域」に初めて分類された。

韓国では幼稚園だけでなく、保育園の運営も厳しくなっている。社会保障情報院によると、保育園は23年12月末時点で計2万8954。前年同月の3万923から2千近く減少した。毎日、5.3園が廃業した計算になる。日本は足元ではまだ保育園が増えているものの、超少子化が進む韓国は逆を行く。

日本も淘汰はもはや避けられない。新たな役割を見いだせるかが生き残りを左右する。保育大手のJPホールディングスは23年からグループ傘下で「バイリンガル保育園」の運営を始めた。英語を母語とする講師が常駐し、挨拶や歌に英語を交える。散歩や給食でも講師が日本人保育士を補助し、見つけた草花や食材を英語で教える。

教育熱心な家庭の需要に応えるためだけではない。社長の坂井徹(50)は「保育は社会のインフラ。どの先進国よりも外国人労働者を必要とする日本で、海外の人たちを受け入れる体制を先陣を切って作る」と力を込める。現在は約200園あるうち9園のみだが、いずれ全ての園で対応を目指す考えだ。

釜山といえば「釜山港へ帰れ」の楽曲が印象的で、存在感のある韓国第2の都市というイメージがありますが、出生率0.66ということで急速に少子化が進んでいるようです。

幼保施設を介護施設に転用できるという視点は、個人的に持ち合わせていませんでしたので、同記事の内容は新鮮に感じます。

少子高齢化、人口減少などの外部環境は、個人では直接変えることはできません。既存の資産で既存のお客さまに向けた既存事業で先行きが成り立たないのであれば、外部環境の変化に合わせて、新たに価値を発揮できる事業を探すしかありません。少子高齢化が日本以上に進む韓国などで見られる取り組みからは、日本で転用できるヒントがあるのかもしれないと思います。

環境変化に強みを掛けあわせて機会を見出す。上記の記事からは、そのことを感じた次第です。

<まとめ>
環境変化に強みを掛けあわせて機会を見出す。

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