組織・人材のビジョンを考える
9月9日号のThe Economistで、「懸念呼ぶ米CEO在任長期化」というタイトルの記事が掲載されました。企業の最高経営責任者(CEO)には様々な困難な問題があるが、「後継者問題以上の難題はそう多くない」とし、多くの企業が後継者問題を先送りする結果CEOの在任期間が長期化する傾向にあるとしています。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事が指摘するように、経営者や役員が一定の年齢や一定の在任期間になったからといって、それ自体がただちに悪いわけでありません。ウォーレン・バフェット氏のように、長きにわたって成果を出し続ける経営者も存在します。この傾向は、創業経営者や同族企業の後継者に多く見られます。
創業経営者や同族企業の後継者にとって、おそらく会社は自らがつくった(あるいはそれに準じる)我が子のような存在でしょう。我が子には自分が高齢になっても熱意を注ぎ続けるものです。よって年齢に関係なく、会社のことを考え抜いて成果を出し続けるケースが見かけられます。雇われCEOでももちろん同様のケースがあるわけですが、我が子同様とまではいかない分、難しいかもしれません。
他方で、創業経営者や同族企業の後継者の場合、老害にもなりやすいと言えます。創業や承継した当時と環境が変わっていて、当時の考え方ややり方では明日の環境に通用しなくなっていたとしても、我が子のような存在であるがゆえにいつまでも介入が続く可能性が高まります。その点をよく自覚し、適切な手腕を振るうことが求められるわけですが、同記事いわくなかなか難しいということなのだと思います。
普段いろいろな企業と関わる中で、経営者や経営幹部の方にお勧めしているのは、「組織や人材のビジョンをつくる」ことです。すなわち、5年後や10年後に、自社がどんな組織になっていたい・いるべきで、どんな人材の体制になっていたい・いるべきかを可視化するものです。
中長期の経営・事業のビジョンや戦略、それに伴う会社全体・各事業の売上や利益の目標は、多くの会社で策定されています。一方で、組織や人に関するビジョンや戦略、目標を可視化している会社は、普段見聞きする企業でもあまりつくられていません。人に関する目標としては、「従業員数〇人」ぐらいにとどまっていることが多いものです。
例えば、今の組織体制について、社長以下全従業員を年齢、所属部署、業務内容など担っている主な役割を表形式でリスト化してみる。5年後の組織体制の表を作って自動計算で+5歳の値が出るようにし、60歳を超えたらセルの色が自動的に変わるようにする。これをするだけでも、結構な人数の色が変わってしまうものです。
60歳を過ぎたらすぐに引退というわけでもありませんが、後任の育成や引き継ぎなどについて考えていかなければならないのは明確です。社内調達であればどういう人材が候補なのか、社外調達であればいつまでにどんなスペックの人材を何人引き込むのか、そうした人材をどのような計画で育成するのか。
加えて、5年後に既存事業の拡大や新規事業への取り組み、それに合わせて組織・従業員規模を拡大させるとなると、現状の体制を維持するだけでは足らず、人材を新たに確保する必要があります。採用して増員するのか、外部パートナーを増やすのか。このような情報を可視化するだけでも、自社の考えるべき組織・人材の課題や論点が見えてきます。
同記事の言うところであるCEOの後任の任命、育成も、この組織・人材ビジョンの中で検討され、「計画的に」取り組まれるべきことです。しかしながら、有力企業でもなかなか取り組み切れていないことが分かります。CEOの退任時期を明確に設定することも、計画に含まれるべきかもしれません。
9月21日の日経新聞記事「日立、CEO候補30代から育成 累計140人を選抜 子会社で経営力鍛える」によると、日立製作所は冒頭の記事の懸念に対して計画的な手を打った事例だと言えるかもしれません。(一部抜粋)
「取締役会が現職のCEOに匹敵する経験を持つ候補者をみつけるまで交代を待つなど、先送りするほど適任者を見つけるのは困難になる」とも冒頭の記事は指摘しています。CEOに限らず社内で希少な技術を持つ人材なども含め、将来の経営・執行体制を計画的に見据えて確保していくことが必要です。
<まとめ>
事業に関するビジョン・実行計画同様、組織・人材に関するビジョン・実行計画も策定する。