食料安全保障を考える
7月5日の日経新聞で、「食料安全保障の論点(下) 農地規制撤廃で効率向上へ」というタイトルの記事が掲載されました。農業をテーマにした内容なのですが、農業以外の事業にとっても参考になる示唆があふれる記事だと感じます。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事の示唆する通り、私たちは「食料安全保障」と聞くと、「食料自給率」を連想します。自給率の高い状態の実現が、食料安全保障の決定的な要因だと認識しているからです。そして、日本は自給率が低い、よって食料安全保障が確立されていない、と連想します。
しかし、(英エコノミスト誌という民間組織による格付けではありますが)食料安全保障の格付けでは、日本は世界の最上位に位置するということです。上記の連想から、このことに対して意外な印象を持つ人も多いのではないでしょうか。
同記事を、私たちの身の回りにおける事業活動に置き換えて、2つの視点でとらえてみます。ひとつは、適切な指標の選定です。
自給率が高ければ高いほどよい、と私たちはイメージしがちです。理想は100%とイメージするかもしれません。しかし、同記事の示唆のとおり、(もちろん自給率が高いことは悪いことではないものの)改めて考えてみると平時の自給率100%は理想の状態では必ずしもないことに気づきます。
自給率100%は、国境を閉じて国内でとれる農産物だけで無理くり賄っている場合です。あるいは、国内の農業生産力が驚異的に高く、私たちが食べたいありとあらゆるものを生産しても食べきれず、他国に輸出できている状態です。前者は論外だとして、後者も必ずしも望めない状態のはずです。すべての食材や原材料を国内だけで生産・調達するのは、無理があるからです。
もしこれを無視して食料自給率を高めようとするならば、同記事の示唆のとおり、私たちが食料生活で大幅な不利益と負担増を受け入れなければならなくなります。それは目指すべき状態でもないでしょう。
同記事は、「食料自給率はあくまで経済活動の結果であって、分析対象ではあるが、それ自体を目標とすべきではない」と説明しています。食料自給率は重要な指標ではありながらも、最終目的地として適した指標にはならないのではないかということです。
2つ目は、ボトルネックの特定です。
目指すべきは、自給率の向上よりも、食料の「手頃な価格」「入手可能性」「品質と安全性」「持続可能性と適応」を広く安定させることにつながる、エネルギーなど含めた国際供給網の構築、有事の際には限られた食料の選択肢で生命を維持するための自給を可能にできるセーフティーネットの構築、と考えられます。
貿易相手国との友好関係の維持、国際輸送網の拡充、国際機関での旗振りや貿易交渉の底上げなど、取り組むべき課題はいろいろありそうです。そのうえで、どこが今最も優先順位が高く、(現在の日本は良好な状態ながら)将来の食料安全保障を脅かすボトルネックとなり、それに関連する課題感が大きいのか。同記事を手がかりにすると、次のように想定されるのかもしれません。
ボトルネック:今ある有効な農地が活用・維持できておらず、有事の際の十分な食料生産基地になり得るポテンシャルとして成立していないこと
対応する課題:新たな生産の担い手への農地解放(規制緩和)と、農地面積:生産者の比率をより効率化させ限られた生産者で成り立たせるようにすること
私たちの事業活動でも、同様の視点は当てはまると思います。
直接追うべき指標としてずれたものを採用したり、ボトルネックの領域を認識違いしたりしてしまうと、効果があまり出ない、あるいは目指すべき状態から離れてしまうと活動を追うことにもなりかねません。
目指すべき状態、追うべき指標、それらの実現を遠ざけているボトルネック。それぞれ、適切に見出していくことを求めたいところです。
<まとめ>
活動の拠り所とするべき指標、最も問題となるボトルネックを、適切に見出す。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?