【カオス病院 #6】潔癖翔子の異常な生活
同期入社である潔癖さんは、美人で有名だ。彼氏はずっといない。理由は単純明快で、高嶺の花だからである。
クールに仕事をこなし、いつも手作りのお弁当を持ってきている。そんな一見非の打ちどころがなさそうな彼女にも欠点がある。
潔癖翔子は、潔癖症である。
他人のパソコンは触りたがらないし、私が潔癖さんのパソコンを使おうとしたら「まぁ、いいけど」と明らかに不服そうな顔で言う。
最初はめちゃくちゃ几帳面な人、くらいにしか思っていなかったが、しばらく一緒にいることで彼女が潔癖症だという疑惑は確信へと変わった。
まず、社員食堂のご飯を頑として食べない(手作り感が嫌らしい)。
あと、やたらと手洗いをしているせいか、いつも手が荒れていて私にハンドクリームをせびってくる。しかも、ハンドクリームの容器には触れたくないらしく、わざわざハンドクリームを直接手に出してあげないといけない。
極め付けは、通勤中に通行人とぶつかってしまった時、ぶつかった場所をさりげなく手で払っているのを目撃してしまった。
これは……重症、だと思う。
もはや確認するまでもないとは思ったが、一応本人に聞いてみることにした。
「潔癖さんってさー、潔癖症だよね」
「潔癖症?」
「うん、だって汚れとか菌に対する嫌悪感、半端なくない?」
「えー? 普通でしょ」
「いやいやいやいや……」
信じられないことに、自覚はないようだ。
「じゃあさ、今度おうち遊びに行っていい? 宅飲みしようよ」
「え、やだ」
即答。
「なんで?」
「汚い」
さすがに悲しくなってきた。
「汚くないよ……」
「実家では自分の部屋には親も入れないし」
「逆にそれ誰だったら入れるの……絶対それ潔癖症だよ」
「えぇ……!?」
「そんな顔するほど自覚がないとは……普通は人を汚物扱いしません」
「んんん……そうかな……」
「じゃあさ、彼氏は? 彼氏ができたら部屋には入れるでしょ?」
「……うーん」
「待って、そこ悩むとこ!?」
「綺麗そうな人で……それでいて、二年付き合ったら入れてもいいかな」
「結婚くらいのハードルだよ、それ」
潔癖さんに彼氏ができない本当の理由が分かった気がした。
著者:藤見葉月
イラスト・編集協力:つかもとかずき