
井上道義×野田秀樹 歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~ 出演の覚書
今日は東京芸術劇場にて,井上道義×野田秀樹の,歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~ 千秋楽だったそうで。2週間前になるが,この舞台の北九州公演に合唱エキストラで出演させていただいたことを紡いでいなかったと,慌てて筆をはしらせているわけである。
学生時代「オペラ実習」で研鑽を積んでいたころ,野田秀樹氏によるえらく斬新な演出のフィガロがあると噂をきき,観劇したいと思ったものの中国地方への公演もなく遠方は日程が合わず…まさか5年越しの再演に際して,舞台側にいさせていただけることになるとは夢にも思っていなかった。
クラシック音楽は基本的に再現芸術とされているわけだが,オペラにおいては「指揮者の時代」から「演出家の時代」へとシフトチェンジしていると言われている。この度の演出は,日本人設定であったり文楽の要素が入っているなど,いわゆるオーソドックスなものからはかなりかけ離れていたものの,紛れもなく本質はモーツァルト作曲の『フィガロの結婚』であった。再現芸術の“再現”たるや如何なるものか。野田秀樹氏によるこの演出は,その点を再考させられるものであった。
しかしキャストさんをはじめ,アンサンブルの方も,制作の方も,「舞台人」は凛としていて美しい。とりわけ音楽という「消えてしまうもの」を扱っている繊細さ,それでいて表現に必要な大胆さを併せ持っている。それらが当たり前に存在している劇場という空間は極めて刺激的であった。
コロナ禍においてオペラに踏み切るには,各方面で考えると果てしなくなるような配慮が行われていた。出演者のPCR検査や抗原検査をはじめ,稽古では東京混成合唱団開発で話題の「歌えるマスク」着用をはじめ,人間も道具も消毒の嵐。お客様も住所を控えさせていただいたり,時間差で入館していただいたり。でも,そうまでしても!やらないといけないエネルギーが,作品や携わっている人の中から渦巻いていたように思う。
合唱のみなさまはほとんどが初めましての方。それぞれにいろいろな立場で音楽をされていて,でも濃い繋がりがあったりして,音楽界は狭いなぁとつくづく思ったところ。これは書き出すと長くなりそうなのでまたの機会に。
連日北九州での稽古につき,そこに宿を借り鳥栖へ通う日々。初心者マークをつけて高速通勤はなかなかにハードだったが,変え難い経験であった。