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飛騨高山に1週間住んでみた②天平以来の匠の技
イタイイタイ病の神通川上流
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JR高山駅から東へ600メートルあるくと南から北へ宮川がながれている。
この川をくだると神通川になって富山湾にそそぐ。神岡鉱山(2001年採掘中止)で亜鉛を採掘する際にでるカドミウムをふくむ排水が下流の水田に蓄積し、その米を食べた人たちにイタイイタイ病をひきおこした。だが鉱山より上流の宮川は水がすきとおり、錦鯉がおよいでいる。家の裏に川におりる石段があって、川の水を生活に活用してきたことがわかる。
江戸の繁栄、鉄道の遅れ、戦災回避という幸運
宮川をわたると、富山にむかう越中街道の周囲に、黒々とした商家や白壁の土蔵が軒をつらねる。江戸時代から明治にかけてつくられた町並みが保存・整備され、電柱も撤去されている。
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古い町並みはいくつもみてきたが、高山ほど「面」として保存されている例はめずらしい。三町伝統的建造物群保存地区(南北420メートル、東西150メートル)と下二之町大新町伝統的建造物群保存地区(南北780メートル、東西180メートル)が隣接し、計11ヘクタールにのぼる。
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高山の町は戦国大名の金森氏がひらいた。その後、木材資源や鉱物資源に着目した幕府によって直轄領になり高山城はなくなるが、「高山陣屋」がおかれ、江戸文化が流入し、飛騨一円の経済活動の中心としてさかえた。「高山陣屋」は、全国で唯一当時の建物が現存する代官・郡代所跡で、当時のおしらすでつかう拷問道具などもあって興味深い。
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高山本線の全通が1934年とおそかったため急激な開発にさらされず、戦災をまぬがれ、江戸時代の町並みがタイムマシーンのようにのこった。
1955年公開の映画「遠い雲」(木下恵介監督)をきっかけに町並みが注目されはじめ、「民芸」や「小京都」のイメージがひろがった。1964年には子どもが宮川へ鯉を放流するなどして意識がたかまり「町並保存会」結成につながったという。
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町のあちこちに高山祭の屋台を保管する「屋台蔵」がある。
4月の日枝神社の「春の山王祭」と、10月の櫻山八幡宮の「秋の八幡祭」を総称して「高山祭」とよび、それぞれ山車が12台と11台ねりあるく。
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八幡宮の隣の「高山祭屋台会館」では「飛騨匠」の技によってこまかな装飾がほどこされた屋台を見学できる。昔は、祭りの時以外は屋台を分解し、各家で保存していたが、火災による焼失をふせぐため江戸末期に蔵を各町内で整備した。
天平以来の技をうけつぐ一位一刀彫り
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「一位一刀彫り」という店もあちこちにある。
イチイの木を、彫刻刀の技のみでほりあげたものだ。木目や木の色合いをいかすため着色しないのが特徴らしい。飛騨の職人がイチイでつくった笏が、明治から令和まで5代の天皇の即位の際に献上されてきた。
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「飛騨の匠」は天平の時代からその技術の高さが評価されていた。
古代の税である庸(都での労役のかわりに布などを納める)と調(穀物以外の特産物)を免じられ、かわりに匠(大工)の集団を都へ派遣した。村ごとに匠8人と炊事係2人の計10人が徴発され、村人は匠たちの食糧を都にはこばされた。飛騨全体で毎年100人にのぼり、500年間でのべ約5万人が都藤原京や平安京の造営や寺社の建築にかかわった。
庸・調をだす国よりも負担がおもく、逃亡する匠もあとをたたず、補充をだすため、村の働き手が不足することもあったそうだ。
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錦鯉がおよぐ水路と土蔵が魅力の飛騨古川
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高山の町並はみごたえがあるが、もっとしずかで風情がある町があるときいて、12キロ北の旧古川町(現在は飛騨市)をたずねてみた。
白壁の土蔵のわきに瀬戸川用水路がながれ、1000匹の錦鯉がおよいでいる。エサを投じると、大きな口をひらいてバシャバシャと音をたててむらがるさまは圧巻だ。家ごとに水路におりる石段があり、生活につかってきたことがよくわかる。
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水路沿いの町並みのどんづまりに弁天さんのお堂があり、そのむこうは宮川支流の荒城川だ。昔はここに木製の水門があり、瀬戸川に水をみちびいていた。今は水門がないから、ポンプで水をあげているのだろうか?
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水路の通りの1本南側が和ろうそくの店や酒蔵などがならぶ壱之町通りだ。「蓬莱」という銘柄の岐阜県最大手の酒蔵はここにあった。
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高山への帰途、安国寺にたちよった。1408年建立の日本最古の経蔵がある。飛騨地方唯一の国宝だという。山あいの水田をのぞむ寺はのんびりしているけど、経蔵の拝観には予約が必要で内部はみられなかった。
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ちなみに世界遺産の白川郷は高山から車で40分ほど。コロナのおかげでおちついてあるき、屋根のふき替え作業もみることができた。
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【「飛騨高山まちの博物館」は無料なのに、歴史や地理、工芸、祭など、高山の全体像が理解できる展示でおすすめ】 (つづく)