人が支配する宇宙④「宇宙の法律」
人が支配する宇宙④「宇宙の法律」
ルールとは単純に禁止行為を一覧表にしたものではなく、ルールに従う当事者の行動を望ましい方向へ誘導することも目的のひとつだ。しかし、やはりルールの最重要機能はトラブルの予防と早期解決であり、国家間のルールは特に「条約」と呼ばれている。
宇宙のルールは海洋法などが引用されることがあるが、最も基本的なものは1966年の通称「宇宙条約」である。宇宙条約は宇宙の平和利用促進が目的で、特に第2条で国家による地球外の空間や天体に対する領有権主張や実効支配を禁止、第4条で大量破壊兵器の宇宙空間配備と自然天体の軍事利用を禁止している。
しかし宇宙空間、特に月などの利用が始まると宇宙港設置や太陽光利用のため月赤道の土地や、鉱床の奪い合いが発生しうる。土地とその資源の領有権が原因となった戦争は無数にあり、そういったトラブルの予防と早期解決のために地球上では国境線とそのルールが維持運用されている。そして宇宙条約は採取資源の所有を明確に禁止しておらず、採取資源の所有を第11条で禁止した「月協定」は批准国が少なく意味をほぼ失っている。
やはりトラブル予防には宇宙条約第1条による宇宙資源の平和的分配が望ましく、次に穏当な解決は同条約第2条の修正による領有権の許可と平和的分割であり、最悪のパターンは脱退多数による宇宙条約の死文化と宇宙戦争による実効支配の続出である。
その他、宇宙に関する条約として各種の国際人道法がある。気象兵器を禁止する「環境改変兵器禁止条約」の第2条ではいわゆる隕石爆撃が禁止されており、スペースコロニーへの攻撃に関しては、ハーグ陸戦条約やジュネーブ条約などによる文民や民需施設への攻撃禁止や危険な力を内蔵する工作物等の保護に違反する可能性が高い。
宇宙船やスペースコロニーについては慣例により船舶と同様、旗国主義が採用される可能性が高い。簡単に「領土領海領空の外にいる船内や機内で行われた犯罪は、その船舶や航空機の登録してる国の法律で裁く」という意味であり、公海上のアメリカ船籍の船内ではアメリカの法律が適用されるということである。
オービタルリング内の法律については、リングから垂れ下がるエレベータ部分は接続している領土領海の法律を適用しつつ人間が滞在可能な空間はなるべくエレベータ側に設置し、リング側の人間をできるだけ排除。リング部分は宇宙船として適当な国の船籍とするも、経済特区的な国内法により柔軟な対応をするのが良い。おそらく国際鉄道が運用の参考になると思われる。また公共性を考えるとオービタルリングはIMOやICAOやITUのような宇宙国際機関が管理し、リングへの吊り下げ料金を利用者から徴収して維持運営の資金とするのが適切である。
参考文献
・宇宙条約(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E6%9D%A1%E7%B4%84
・月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(JAXA) https://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_1/1-2-2-5_j.html
・月その他の天体における国家活動を律する協定(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E5%A4%A9%E4%BD%93%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E6%B4%BB%E5%8B%95%E3%82%92%E5%BE%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E5%8D%94%E5%AE%9A
・月その他の天体における国家活動を律する協定(JAXA) https://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_2/2-2-2-20_j.html
・アペンディクス1-1※宇宙法の批准状況(JAXA) https://www.jaxa.jp/library/space_law/appendix/1/apen1-1_j.html
・主権(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%BB%E6%A8%A9
・はやぶさ2が持ち帰る小惑星の欠片は売れる? 宇宙資源と国際ルールの動向(宙畑) https://sorabatake.jp/3706/
・宇宙法とは何か、宇宙ビジネスを起業する上で知っておきたい法律まとめ(宙畑) https://sorabatake.jp/10546/
・宇宙資源開発のロマンとそろばん ~宇宙資源とは、市場規模、法律~(宙畑)
https://sorabatake.jp/5316/
・【人類の未踏エリアへの進出と領有・帰属のルールの歴史(無主地先占)】(みずほ中央法律事務所) https://www.mc-law.jp/kigyohomu/26567/
・【宇宙・天体の利用に関する国際的ルール(宇宙条約・月協定)】(みずほ中央法律事務所) https://www.mc-law.jp/kigyohomu/26564/
・【月面や宇宙空間を利用するアイデアと国際的ルールの抵触(宇宙条約など)】(みずほ中央法律事務所) https://www.mc-law.jp/kigyohomu/5064/
・環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A2%83%E6%94%B9%E5%A4%89%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%AE%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E7%9A%84%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E6%95%B5%E5%AF%BE%E7%9A%84%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%AE%E7%A6%81%E6%AD%A2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84
・環境改変兵器禁止条約の日本語訳(外務省pdf) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S57-0129.pdf
・ジュネーヴ諸条約及び追加議定書の主な内容(外務省) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/k_jindo/naiyo.html
・【刑法(条例)の適用範囲(準拠法)は属地主義が原則である】(みずほ中央法律事務所) https://www.mc-law.jp/keiji/7357/
・国土交通政策研究第77号:国際海事条約における外国船舶に対する管轄権枠組の変遷に関する研究(国交省) https://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/kkk77.html
・国際機関(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%A9%9F%E9%96%A2
・国際海事機関(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%B5%B7%E4%BA%8B%E6%A9%9F%E9%96%A2
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