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宇宙世紀のモビルスーツ開発史と設計思想


一年戦争以前

連邦軍の任務環境

 地球連邦政府は宇宙移民のために作られた地球統一政府である。そして連邦政府は地球連邦軍という軍事組織を所有している。連邦政府は(おそらく)地球の全領域を領土としていることから地球上に敵対的国家は存在しないはずである。なのになぜ連邦「警察」だけでなく連邦「軍」も必要なのか。これは連邦という国家の国民統合が未成熟であり、事と次第によっては連邦から脱退しかねない地域(旧国家など)があることを意味している。いくら地球環境保護のためとはいえ、地域社会と生活を根こそぎ捨てさせる強制移民というプロジェクトの性質を考えれば仲良し小好しの和気あいあい、といくはずもない。

 そういった「国内」の「内乱」や「反政府組織の掃討」にあたって、警察とは別に国内軍としての連邦軍が必要であるならば、どのような装備体系が必要だろうか。いくら情勢不安定とはいえ平和な時間が長いはずだからあまり莫大な軍事予算はかけられないはずである。そのうえ移民先たるスペースコロニーと周辺宙域の治安維持に宇宙艦隊が必要なことを考えれば、ひるがえって地球で活動する陸海空、特に陸軍への予算制約は厳しいはずだ。

 海軍や空軍といった機動力の高い戦力は初動対応に便利だが、陸軍はそうでもない。戦力の根幹たる歩兵はその数の多さからどうにも動きが鈍い。かといって地球各地にあらかじめ分散配備していたら人件費や維持費がべらぼうで、予算はいくらあっても足りない。

 ではどうするか、量が足りないなら質で補うしかない。
 

61式戦車とNCW

 「火力戦」という考えがある。これは「敵の兵や砲を全て破壊すれば勝利できる」という至極単純(それができれば苦労しねぇ)なものだ。そしてもっと楽に勝てないかということで「機動により敵火力を避けて後方や側面から一方的に攻撃しよう」と「機動戦」なるものが生まれた。機動戦に機動力は欠かせない。敵よりも早く、敵が対応不能な場所へ高速で移動しなければならない。それを実現するのがキャタピラやタイヤをエンジンで動かす車両、特に硬い装甲で妨害をはねのけて強力な砲火力をお見舞いする戦車が重要である。

 また「ネットワーク中心戦(NCW)」という考えもある。これは「情報伝達を強化して遊兵を減らし戦闘力の100%を発揮させ、さらに意思決定と現状変更を素早く行い敵を常に後手に回らせる」というものである。たとえば、味方から山や地平線で隠れた場所の敵兵を教えてもらい攻撃したり、リアルタイムで地図に反映される敵情報を見て現場判断で移動や攻撃したり、といった次第である。そしてNCWには火器の長射程化も重要だったりする。敵の位置がわかっても射程不足なら意味がなく、逆に一見過剰な長射程もNCWのもとでは遊兵を減らし全部隊の火力を一点集中できるからである。

 こうした質の向上で量を補うために開発されたのが61式戦車だとしたら、どうだろうか?

 地球低軌道は連邦宇宙軍が制しているため低軌道コンステレーションによる全球常時監視と大容量衛星通信が使い放題。これに長射程の装軌式自走砲を組み合わせると前線観測員を使わずに砲火力支援が可能になる。自走砲も自動装填かつ連装砲にして連射速度を向上させる。さらにトップアタックHEATの誘導砲弾により対戦車能力も付与すれば向かうところ敵なしだ。この低軌道コンステに支えられた長射程火力は連邦軍の独占なため一方的に攻撃できる。つまり連邦陸軍は戦車と自走砲を統合して戦力強化と予算節約を両立したのだ。

 敵兵や敵戦車はあらかた吹き飛ばされているので、歩兵は前進するだけだ。

宇宙艦隊とコロニーの戦力

 敵は宇宙にもいる。が、連邦宇宙軍の敵ではない。月面はコロニー開発用の資源採掘基地であるから現地の人口は無いに等しい。宇宙人口の大多数をしめるスペースコロニー住民についても、新しく作られたコロニー社会では軍事産業の基盤など危険なものはあらかじめ除去してあるはずだ。しかし何事にも不測の事態というものはある。

 宇宙移民者が軍を持つとして、宇宙でも生産している発電用核融合炉の技術を転用すれば戦闘艦の主機は確保できる。レーダも民生用のものを使えばある程度のものは入手可能だ。小型の無人機はミサイルになる。移民が進めば人手不足も解消される。だが資源がない。

 コロニー開発に必要な鉱物資源は月面から、水や空気などの揮発性資源は地球や小惑星から運び込んでいる。月や地球は連邦政府の支配地域だし、小惑星からの輸送は連邦宇宙軍からの攻撃にさらされる可能性が高い。月面侵攻しようにもコロニーの経済力で持てる艦隊では連邦宇宙軍には勝てないし、補給線を絶とうと地球に侵攻するにもやはり戦力不足。つまり宇宙の反政府勢力では連邦軍には勝てないと連邦政府と軍は考えていたはずである。

 しかし、ジオンでミノフスキー物理学が誕生したためこの当初想定はご破算となった。

ザク 

ミノフスキー粒子

 ジオンの科学者ミノフスキー博士により提唱されたミノフスキー物理学とその根幹をなすミノフスキー粒子。その利用法は多岐にわたる。
 加速器や核融合炉で生産されたミノフスキー粒子は散布でき、光波を除く電磁波いわゆる電波を遮断する効果を持つ。チャフと近い効果だが、艦内で生産できるから弾切れ(チャフ切れ)の心配がない点、粒子だから長距離まで即座に拡散できる点が優れている。また対策をとっていない電子機器の動作を妨害する点も重要である。これら効果によりレーダは使用不能なため視界内での光学索敵しかできず、無線機も使えないため友軍からの情報共有も見込めない、おまけに誘導兵器の電子機器は動作不良、これでは長距離での交戦はできない。そして同じ領域内に展開できる部隊規模に上限があることを考えれば、交戦距離が短くなってしまうと大部隊ほど戦闘に参加できない部隊、遊兵が多く生まれることを意味する。これは国力の問題から数的劣勢での戦闘を強いられるジオン軍にとって有利に働く。

 次に小型核融合炉。核融合炉そのものはミノフスキー粒子無しでも製造可能だが、どうしても大型化してしまい発電用か艦船用に限られてしまう。しかしミノフスキー物理学により小型軽量化に成功し、戦車や戦闘機などの機動兵器への搭載も可能になった。

 そしてメガ粒子によるビーム兵器。炉心などで製造されたミノフスキー粒子をIフィールドを用いて縮退させるとメガ粒子になり、縮退時に発生する余剰エネルギーをこれまたIフィールドによって指向すればメガ粒子砲というビーム兵器になる。エネルギー効率が85%と非常に高く、同じエネルギーを投入すればレーザ砲より高出力化が期待できる。しかしメガ粒子砲に使えるレベルの粒子生産には大出力の炉心が必要だが、冷却の問題から機動兵器への搭載は困難である。そのため高い冷却能力を持つ軍艦か、あるいは水などの冷媒を使える環境にある兵器にしか搭載できない。
 

ジオンの月面降下作戦

 宇宙空間ではミノフスキー粒子によるジャミングとメガ粒子砲で艦隊戦は互角に持ち込めるかもしれない、しかし軌道上での勝利だけでは資源問題は解決しない。

 資源問題を解決するには月面侵攻が必要である。その際、月の低軌道コンステはミノフスキー粒子により使用不能になり連邦軍お得意のNCWは使用不可能にしたこと、残存する連邦宇宙軍の宇宙艦隊の対処のためジオン軍の軌道爆撃による支援は期待できない可能性が高いこと、といった状況が想定される。また月の特徴として、大気圏が無いため航空機は利用不可能なこと、空力減速できないため軌道降下にはロケットエンジンによる動力降下が求められること、月の直径の小ささから地平線が近いため地上から見通せる範囲が狭いこと、が挙げられる。
 

モビルスーツ

 ジオン軍が月面攻略に必要な陸戦機動兵器を考える。ジオン軍は数的劣勢なため少ない機材と人員で広い交戦圏を賄える機材が良く、そのためカメラなどのセンサを地面から高い位置に持ちあげて単独で広い視野を確保できるほうが良い。揚陸艇に頼らず単独で軌道降下するためロケットエンジンを内蔵しつつ、不整地への着陸や着陸後の移動のために脚を取り付ける。軽量化のために脚の本数は最少の2本とする。武器に火砲が欲しいが火薬の原料となる窒素は農業用肥料と用途が競合するため、火薬ではなくジュール熱でガスを生成するサーマルガンを主武装とする。サーマルガンの電源やロケットエンジンの熱源にするためミノフスキー粒子による小型核融合炉を搭載。コロニー外壁用の特殊鋼を機体構造材と装甲にする。

 ここまでをまとめると、センサーマストと核融合炉とロケットエンジンを備えた背の高い二足歩行ロボットになる。このままでは転倒時に起き上がれない恐れがあるため、腕を取り付けて起き上がる助けとする。また背の高い機材をメンテナンスするにはクレーン等が必要だが、個別に配備する余裕はないので先ほど取り付けた腕の先端にマニピュレータを取り付けて相互にメンテナンスすることで整備用ワークローダの代わりとする。

 主武装のサーマルガンについて、ミノフスキー粒子の影響で誘導砲弾など知能化弾頭が使用不可能なため、徹甲弾と榴弾を切り替えて対装甲と対軟目標へ対応したい。そのためマニピュレータにより交換可能なマガジン式とし、マガジン交換により弾種変更する。

 軌道降下にあたり降下地点への制圧砲撃もこのサーマルガンで行うが、降下中なため姿勢が不安定なことから高サイクルの連射で精度不足を補いつつ、反動によるさらなる姿勢変更の影響を極限するため、マニピュレータ先端にサーマルガンを搭載してショックアブソーバとし、つねに機体の重心に近い位置で射撃することで機体の回転を低減する。

 着陸後は基本的に二足歩行で移動し、広い視野で目標を補足、曲射による火力支援または直射による装甲目標の撃破を行いつつ、ロケット噴射による弾道飛行で戦域内を高速機動する。こうして少ない機数でも広範囲の制圧を可能とする。

 以上より、大口径サーマルマシンガンを搭載したロケット噴射で弾道飛行する核融合炉搭載の巨大人型ロボットこそが、ジオン軍の月面降下と制圧作戦に最適な兵器だとわかる。

 モビルスーツ、ザクの登場である。
 

コロニー落としと地球直接侵攻

 さてジャミングとメガ粒子砲で連邦宇宙軍艦隊を蹴散らして、新兵器モビルスーツがロケット噴射でスキップしながら月面基地を制圧するか、となる前にジオンの戦争目的を思い出してほしい。

 ザビ家には色々な思惑あるようだが基本的にはスペースコロニー住民の自治権を認めて欲しいというのが元々のところだ。しかし月面制圧程度で連邦政府が自治権を認めるだろうか?もちろん月面制圧後は地球なんか無視して自活しても良いのだがジオニズムで国民を焚き付けてしまった以上そうもいかない。連邦軍の司令部は月面から地球はジャブローに移転したうえ連邦よりのコロニーも多々ある。破壊したはずの宇宙艦隊が反ジオンコロニーの協力で復活したら目も当てられない。

 そう月面制圧では不足だから、地球を征服するしか無いのだ。

 連邦宇宙艦隊はなんとかなる、地球からの補給を断てば月面は干上がっていく、しかし月面制圧と同様に攻略するのに地球は広すぎる。軌道上からのミノフスキー粒子散布とザクの弾道飛行を組み合わせれば好き放題にゲリラ戦を展開できるが、それで連邦政府が屈するとは思えない。そこでコロニー落としである。制宙権の奪取は十分に期待できる。地球連邦に痛打を与えられるし反ジオンコロニーも処分できて一石二鳥である。個人的にはコロニーの移動に使った核パルスエンジン用の核弾頭をそのままジャブローに落としてしまえば充分な気もするが、地球環境や連邦市民へ破滅的ダメージを与えるには単なる核攻撃では不満だったのだろう。ともかく、コロニー落としを前提とした地球制圧作戦が始まったのである。

V作戦

研究開発と予備計画の同時進行

 V作戦は連邦軍初の実用モビルスーツ開発計画であり、ジオン軍のザクに勝てるMSが求められていた。元々MSの開発や運用ノウハウに乏しい連邦軍が、ザクに勝利するため新技術を導入したMSを完成させるのはかなり無理があった。そのためいきなり完成を目指すのではなく、技術習得を目的として段階的に新機体をロールアウトし、その経験を次のMS開発に活かしつつ、万が一にも要素技術の習得に失敗してもその時点で完成した設計で妥協して戦線投入が可能なよう、研究開発と予備計画の同時進行が求められた。
 

ミノフスキー戦対応型61式たるガンタンク

 連邦軍の61式戦車はデータリンクと誘導砲弾による長距離交戦を主眼とした兵器だが、ミノフスキー戦環境下ではどちらも使えない。しかし本格的MSの開発失敗時に61式で対MS戦闘せざるを得ないという最悪の事態を避けるためにミノフスキー戦対応の61式が求められた。必成目標は61式と同じ戦術をミノフスキー戦環境下で行えること、望成目標はガンダリウム合金の加工技術習得と小型核融合炉の開発と搭載である。

 必成目標はコックピットの位置を高くすることで地平線までの視界を長くして対応した。おそらくミノフスキー環境下で動作するセンサーの開発に不安が残ったために、センサーマストではなく大型キャノピーのコックピットから肉眼による直接観測が可能なようにしたと思われる。これに武装は61式とよく似た2門の大口径砲を、走行装置は同じくキャタピラとすることで61式と同様の運用が可能になり乗員の機種転換を簡素化して迅速な戦線投
入が可能になる。

 望成目標について、RX計画から続く知見があったためかガンダリウム合金によるMS構造の作成に成功、主機もガスタービンや原子力など予備計画もあったが、最終的には小型核融合炉パワーパックの開発に成功して搭載した様子である。
 

連邦初のザク同等MSたるガンキャノン

 ガンタンクの開発に成功したことでV計画は本格的MS「ガンキャノン」の開発へと駒を進めた。必成目標は核融合ロケットによる動力降下と弾道飛行、榴弾による対地攻撃、ガンダリウム合金によるザクマシンガンへの定格防御と機体軽量化。望成目標はビームライフル装備である。

 機動兵器としての要求や運用は概ねザクと同様であるため対MS戦想定など相違点だけ挙げる。榴弾砲を手持ちでなく両肩固定砲にしたのは降下中の制圧砲撃を要求に含んでいないからだ。これは降下中の射撃は難易度が高いため訓練に時間がかかること、占領地域のガンキャノンなどから火力支援が得られること、ガンダリウム装甲でザクマシンガンへに抗堪できること、攻撃より防御任務が重要だったことが理由に挙げられる。

 具体的には、光学索敵でザクの降下を検出し降下予想地点にガンキャノンを弾道飛行で急行させ待ち伏せ、降下中のザクからの制圧砲撃をガンダリウム合金の装甲で抗堪し、降着直後のザクに対して両肩の主砲で集中射撃を行う。といった運用が想定されていたと思われる。

 また、V作戦で開発される装備のなかでもビームライフルは特に開発が難しいと予想されていた。そのため本来の運用に乗っ取ればビームライフルは不要だが、核融合炉とロケットエンジンを搭載した二足歩行兵器への搭載に必要なノウハウを取得する意味で、ガンキャノンへのビームライフルの試験採用が決定された。
 

対MS戦に勝利するためのビーム兵器とガンダム

  ガンタンクが榴弾砲、ザクが攻撃機、ガンキャノンが対戦車砲だとすれば、次に求められるのは対MSに主眼を置いた戦闘機とも呼ぶべきモビルスーツであり、その要件はビーム兵器の全面採用である。

 ビーム砲は直進するうえ貫通力が高いので広く浅くが求められる対人攻撃には不向きである。しかし対MS戦を考えると、熟練MSパイロットの少ない連邦にとってビーム兵器の有無は重要である。地上ならいざしらず、高速戦闘になる宇宙では秒速3万km以上の初速で直進するうえ反動のほぼないビーム兵器は通常の火砲に比べてはるかに命中が期待できる。近接戦闘でもザクのヒートホークに比べて小型軽量ながら抜群の切れ味のビームサーベルはMS操縦経験の差を補って余りあるものである。

 通常であれば核融合炉の出力や冷却の不足により充分な粒子圧縮ができずメガ粒子を生成できない。そこであらかじめ母艦のほうで縮退寸前まで圧縮した粒子をエネルギーCAPにチャージしておくことで、射撃時にMS側が供給すべき電力や粒子を極小化し、MS用の携行メガ粒子砲とビームサーベルは実現した。

 しかしここで問題が発生した。ビームライフルは長射程化(高出力化)するほどメガ粒子の消費量が増大するのだが、MS同士の戦闘の適切な交戦距離など誰にもわからなかったのだ。ひとまず難易度が高く対艦攻撃にも充分な高火力セッティングで開発が進んだ。本来はその辺りをテストで確認するのもV作戦に含まれていたのだが、ご存知の通りサイド7襲撃によりぶっつけ本番で検証することになった。

 なおV作戦で3種のMSを製造した結果、ガンダリウム合金によりMSの機体を製造するのは加工コストが高すぎて量産に不適切と判明。量産型ガンダム(仮)ではシンプルな実体盾のみガンダリウム合金製とし、機体構造材には比較的安価な特殊鋼を用いることが決定し、ガンダムにも試験用に盾(シールド)が装備された。ほかビーム兵器の実用化に失敗した際の代替案としてガンダムハンマーとスーパーバズーカも開発され、同様に試験目的でガンダムへの装備が決まった。

 こうしてビームライフルとビームサーベルとガンダリウム製シールドを装備したモビルスーツ「ガンダム」が完成し数々の活躍を遂げた。そしてその戦闘データを元に、特に新兵の場合はビームライフルの装弾数は増やしつつ、不足した射程は接近戦に持ち込むことで解決するのが最も組織戦闘力を高められると判断し、ビームスプレーガンとビームサーベルとシールドを装備した「ジム」が量産配備された。

余談

MSの宇宙戦

 AMBACは可能である、しかし費用対効果は悪い。四肢を使って姿勢変更するより、その質量分の推進剤を搭載したりリアクションホイールなりを取り付ければ良い。そもそも大変に自由度の高いマニピュレータで火器を保持しているのだから姿勢変更せずとも好きな方向に射撃は可能である。とはいえ、最終的にスラスタで運動量を相殺することになるとはいえ上半身や腕部の瞬間的な運動の反動を一時的に吸収するためのカウンターウェイトにはなる。

 ではAMBACがあったからモビルスーツは宇宙戦で猛威を振るったのか?これも否である。MSの神通力は核融合炉に源泉を持つ。ミノフスキー戦環境下で誘導兵器はまず当たらないから、飛んでくるのはせいぜいが榴弾の破片かCIWSの機関砲弾くらいである。そして同時に艦隊戦の交戦距離は恐ろしく短くなっているため、その火力密度もたいしたことない狭い空間を核融合炉の大推力スラスタとそれに支えられた重装甲の機体が縦横無尽に飛び回るのだ。無敵に等しい強さなのはご理解いただけると思う。

 ではなぜジオン軍はモビルスーツで宇宙戦を行ったのか。これは単純に国力の問題で、重装甲と核融合炉を兼ね備えた宇宙戦闘機とそのパイロットをモビルスーツ部隊とは別に用意することができなかったのと、加えてミノフスキー環境下の交戦距離が短すぎてデッドウェイトを抱えたモビルスーツでも問題なく戦えてしまったから、と思われる。

アナザーガンダム

 ミノフスキー粒子散布によるジャミングは宇宙世紀では軍艦が行っている様子だが、では地上戦では誰が散布しているのかわからなかった。MSから散布しているようには見えなかったので今回は軌道上から行っていると想定して話をした。しかし宇宙世紀から離れてアナザーガンダムの世界を見てみると、ここまで述べた色々を意識している作品は多々ある。

 ガンダムseedの作中設定ではミノフスキー粒子同様に通信妨害するガジェットのNジャマーがあるが、これはザフト(ジオン相当の組織)によって自沈ドリルで地球全土に埋設されたことになっている。Nジャマーは核分裂を阻害する効果もあり原発に頼っていた地球側の生活はメチャクチャになる、というコロニー落としにも近い役割も果たしており興味深い。

 また、このあたりの設定のまとめ方ではガンダム00が個人的にイチ押しである。00では主人公陣営が持つ太陽炉(GNドライヴ)という小型大出力電源があるのだが、これが生産するGN粒子を放出すればジャミングはできるし、Eカーボン装甲に流せば防御力アップ、圧縮すれば強力なビーム兵器になるという全部乗せの魔法のランプ状態になっている。恐らく半径1km以内の範囲とはいえ、機体が自前でジャミングできることから広域レーダには発見されても火器管制レーダによる高精度な位置情報取得は妨害できるし、敵は接近して光学照準するしかない。そうして作った1on1のタイマン試合を自慢のカチコチ装甲と最強ビームでゴリ押しするのである。ズル過ぎる。とうぜんGNドライヴ搭載機のやりたい放題タイムはそう長くは続かないのだが、ここから先は本編視聴してキミ自身の目で確かめて欲しい。

あとがき

 世代的に宇宙世紀はファーストとハサウェイを見たくらいであまり詳しくないのだが、いちミリオタかつSF好きとしてモビルスーツについて色々考えてみた。ブリティッシュ作戦やルウム戦役と南極条約の時系列は今回書くにあたって初めて知ったのだが、アナザーガンダムと比べて特にファーストは戦記物の印象がすごく強いと感じる。歴史的に本邦のミリオタは冷や飯を食わされてきた時代が長かったらしいし、本来ミリタリが受け入れる層の人たちがガンダム、というかガンプラに流れていったからなのかなぁと思う。

 話を戻して、モビルスーツが普及している理由についてミノ粉によるCOMJAM含むジャミング(というか無限チャフ)はよく言われているが、じゃあなんで宇宙戦闘機に手足が生えたんだよって点をAMBAC以外でちゃんと説明した資料がパッと見つからなかったので書いてみることにした。そこそこちゃんと書けたと思う。ただ核融合炉による大出力ロケット飛行能力とそれに支えられた重装甲がモビルスーツの強さである、という仮説は劇場版ハサウェイのダバオ襲撃戦に着想を得たつもりだったが、書いてるうちにそもそも動力源に注目するのはガンダム00に影響を受けたような気がしてならず、改めて先達の偉大さに驚くばかりである。

 モビルスーツの誕生について、どうやら00世界ではEカーボンという軽量かつ高い防御力を持つ装甲材が先に誕生し、それをブチ抜ける巨大な火器を取り回すために兵器が巨大化し、地形追従などの観点から手足が生えた、という経緯らしい。確かに脚というのはサスペンションとして見た時に質量のわりに長いストロークを得られるので、Eカーボンにより機体軽量化ができたなら大型火器を扱える大型機体の足回りには良いかもしれない。ただこのままだと二足歩行にする理由があまりないので、もしかしたらバクゥのような大型四足歩行MSがブイブイ言わせる世界になっていたのかもしれない。ゾイドかな?

 と、このように技術と要求の組み合わせにより兵器はこねこねと様々な形態を採るから、それをうにょうにょと考えるのはSFミリオタの金のかからない趣味にはもってこいである。皆さんもぜひ、うにょうにょと挑戦してみてはいかがだろうか。うにょうにょ。


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