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宇宙の世界へようこそ⑮「推進剤とタンク」

推進機や発電機が仕事には、そのエネルギー源や反動質量となる燃料や推進剤が必要になる。特に推進剤や化学ロケット用の燃料などは船体質量のかなりを占めるうえ、消耗されることから入手性や保存性なども含めた総合性能による選定が求められる。

核融合炉は少ない質量の燃料で大きなエネルギーを得ることができ、惑星間航行に必要な燃料は200kgほどで十分である。ただし慣性核融合炉の燃料はカプセル状なため磁場核融合炉や固体核融合炉との共用はできない。軍艦の場合、ガス燃料はガスボンベごと交換し、カプセル燃料は燃料カプセルの装填されたカートリッジごと交換する。

化学ロケットの燃料は入手性と性能と運用のしやすさの観点から、酸化剤は液体酸素を、燃料はメタンや一酸化炭素を主に使っている。なおこれら極低温燃料は約-180℃まで冷却する必要があるため、惑星間航行や目標惑星の周回軌道といった長期間大量の燃料を保存するには能動的な冷却システムが必要になる。

核熱ロケットの場合、常識的な温度で気体に相変化する物質であれば概ね推進剤として利用でき、また宇宙空間は真空であるため地球表面よりも低い温度で気化させることができる。充分な推進性能と入手性がある推進剤のうち、推進性能が高いのはメタン、安価なのは一酸化炭素であり、超長期間の保存性や高密度化を求める場合は水(H2O)を採用する。水は推進性能を確保するに必要な炉心温度が高く、化学ロケットと共用できないなど商船ではデメリットが目立つ。そのため、もともと高出力な炉心を搭載しており、タンク(船体)小型化が秘匿性などの向上に寄与し、太陽系広域に燃料デポを維持するなど補給コストの高い惑星間宇宙軍に適している推進剤である。

また、一液式推進剤は二液式推進剤に比べて被弾時の抗堪性が高い。二液式は燃料と酸化剤を別のタンクに保存しているが、タンク破裂などで酸化剤を全量損失すると推進剤の残り半分を占める燃料を燃やせなくなり、タンクに燃料が残っていても推進能力を喪失してしまう。しかし一液式推進剤なら、タンクの半分を喪失しても残りの推進剤も利用可能である。タンクに比べて炉心は表面積が小さく装甲化が容易なため、膨大な艦内電力需要を満たす意味でも、戦闘艦には一液式ロケットたる核熱ロケットが最適であり、次に適しているのは核融合炉の高い調達コストを抑えられる二液式の化学ロケットである。

タンクは球体や円筒状の形をしており、ステンレスやアルミやFRPなどが材料となる。FRPは軽量だが修理が難しく、低温で強度や気密性が低下し、樹脂部分が酸化剤と反応するなど劣化が激しいため金属製の内張りが必要になる。タンクは断熱材によるパッシブ熱制御、アクティブ熱制御として極低温推進剤には冷凍機を、常温推進剤にはヒータや調圧装置などを備える。また推進剤をタンクから排出し推進機へ送り込む際に、蒸発ガスと推進剤を気液分離する必要がある。小型の場合はダイヤフラムなど隔壁で気液分離し、隔壁ごしに推進剤を加圧することで蒸発防止とタンクからの排出を同時に行う。大型の場合はPMDと呼ばれる表面張力を利用したタンク内構造物により、気液分離と排出の誘導を実施している。

参考資料
・プラズマ・核融合学会誌vol82 2006/12 (pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2006_12/jspf2006_12-jp.pdf
・核熱ロケットの代替推進剤(海外フォーラム)https://forum.nasaspaceflight.com/index.php?topic=46330.0;all
・核熱蒸気水ロケット(海外フォーラム) https://forum.nasaspaceflight.com/index.php?topic=52806.0
・スターシップの推進剤としてメタンを使用するNTR(海外フォーラム) https://forum.nasaspaceflight.com/index.php?topic=53278.0;all
・ISRU核熱ロケット(NASA)(pdf) https://nets2021.ornl.gov/wp-content/uploads/gravity_forms/12-b63a96649a525ab5aa39d607840d9d9f/2021/04/In-Situ-Propellant-for-NTP-Engines.pdf
・宇宙船のための核変換(ToughSF) https://toughsf.blogspot.com/2021/10/nuclear-conversion-for-starship.html
・液体水素のNTR代替品(海外個人サイト) http://www.projectrho.com/public_html/rocket/enginelist2.php#altntr
・トピック:フッ素(TheSpaceRace.com) https://www.thespacerace.com/forum/index.php?topic=2878.30
・例でのペイロード分数式の使用(海外個人サイト) https://selenianboondocks.com/2010/02/pf-expressions-example/
・スロッシュバッフル(Children of a Dead Earth 開発者解説ブログ) https://childrenofadeadearth.wordpress.com/2016/05/24/slosh-baffles/
・ヒュームのあえぎ(Children of a Dead Earth 開発者解説ブログ) 
https://childrenofadeadearth.wordpress.com/2016/05/27/gasping-for-fumes/
・極低温推進薬の長期保存を実現する革新的熱マネジメント技術の開発 22_imai_senryaku30(pdf) https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201801010724067682
・衛星用表面張力型タンク(pdf)(日本航空宇宙学会誌 第33巻 第373号) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass1969/33/373/33_373_59/_article/-char/ja
・Review and History of ATK Space Systems Surface Tension PMD Tanks(pdf) https://www.researchgate.net/publication/325499298_Review_and_History_of_ATK_Space_Systems_Surface_Tension_PMD_Tanks
・PMD Tanks(ノースロップ・グラマン公式サイト) https://www.northropgrumman.com/space/pmd-tanks/
・PMD Photos(PMD Technology) http://www.pmdtechnology.com/PMD%20Photos.html

画像出典 X-33 Reusable Launch Vehicle Demonstrator, Spaceport and Range
https://ntrs.nasa.gov/citations/20110016255
https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20110016255/downloads/20110016255.pdf 15ページ目

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