宇宙の世界へようこそ⑱「スペースコロニー」
特に移住などを目的として、宇宙空間に数万~数百万人単位で社会生活を実施するための居住空間をスペースコロニーと呼び、軌道上のスペースコロニーをオービタルコロニーやシリンダー、天体表面のスペースコロニーをサーフェイスコロニーやドームやチューブと呼び分けることがある。オービタルコロニーは途切れのない太陽光エネルギを利用できるが擬似重力の確保に工夫が必要で、サーフェイスコロニーは重力こそあるが特に月面コロニーの夜間電力確保などは問題になる。
大気圏と地磁気の保護がない宇宙空間に建設するスペースコロニーは、デブリや放射線や温度差から内部を保護するために厚さ3~5mの防護壁が必要である。だが防護壁に使用される材料は引張強度が弱い場合が多く、防護壁とは別に金属製の与圧隔壁が必要である。そのため一般的なスペースコロニーの外壁は最外層から、遮光層、断熱層、防護壁、与圧隔壁となるが、安全性を考慮して防護壁の外側に与圧隔壁を追加するなど様々である。
防護壁の材料は月面などのレゴリスを骨材として、水硬性セメントによるプレキャストコンクリート、加熱融解した硫黄で固めるサルファコンクリート、骨材を高温で焼き固めるレゴリス焼結材などがある。水硬性セメントは放射線防護能力と強度が高いが貴重な水を大量消費するうえ真空中での製造が難しく、サルファコンクリートは真空中でも自由なサイズと形状で製造可能だが硫黄の融点が約100℃なため強度維持には断熱が必要であり、レゴリス焼結材は材料と強度は充分だが大型ブロックの焼結が困難である。
オービタルコロニーは円筒状の与圧シリンダを中心軸で自転させた遠心力で擬似重力を得るのが基本的な構造である。コロニーの直径が6kmで長さが30kmの場合、土地面積は約550平方kmという東京23区に匹敵する広さを得られる。しかし巨大なコロニーは中心付近の余剰空間が多すぎるうえ初期投資が莫大になるため、多数の中規模コロニーを連結して土地面積を徐々に拡大する方法が考えられる。しかしオービタルコロニーは遠心力で擬似重力を得ているため、その構造がコロニー内交通や拡張性へ与える影響が大きく、配慮が求められる。
最も単純なのは太陽光パネルや宇宙港などのコロニー構成要素をまるごと回転させる方法である。しかし太陽光パネルや宇宙港や通信施設や防護壁を回転させる必要性は薄く、実際には与圧シリンダとその内側のみ自転させることが多い。また与圧シリンダを並列に増築して土地面積を拡大する場合、与圧シリンダを自転させるとシリンダ間の輸送が難しくなる。これは与圧を維持しつつ回転できる大型結合機構の作成が難しいからである。そのため与圧シリンダは自転させず、連絡トンネルなどを溶接し、シリンダ内に自転する床を設ける二重構造にするのが良い。この場合は与圧隔壁は擬似重力の負荷を受けないため寿命や安全性が改善される。
参考資料
・スペースコロニー(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%83%BC
・ハイパーカミオカンデ計画(東京大学宇宙線研究所2015/3/31.No92) https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/prwps/wp-content/uploads/2019/06/icrrnews92.pdf
・オニールシリンダー(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/O%27Neill_cylinder
・スペースハビタット(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Space_habitat
・ルナルクリート(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Lunarcrete
・宇宙環境における放射線(J-stage) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/46/1/46_1_31/_article/-char/ja/
・宇宙とコンクリート~月面基地建設~(コンクリートジャーナル 54巻(2016)9号) https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj/54/9/54_971/_article/-char/en
・宇宙でのコンクリート利用への挑戦(コンクリート工学/26巻(1988)1号) https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj1975/26/1/26_76/_article/-char/ja/
・現地資源からの建設資材の製造システム (第2回宇宙探査イノベーションフォーラム) https://www.ihub-tansa.jaxa.jp/assets/prev/files/event_20160329_05.pdf
・月面構造物設計条件の検討~月面動物施設における遮蔽材レゴリスの検討~(土木学会第47回年次学術講演会,VI-238) http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/1992/47-06-0498.pdf
・月面基地の遮蔽計算の現状(核データニュース No.52(1995)) http://www.aesj.or.jp/~ndd/ndnews/pdf52/no52-06.pdf
・2040年の月面生活とは_資源WG(三菱総合研究所,宇宙開発の未来共創2019) https://www.mri.co.jp/seminar/20191218.html
https://www.mri.co.jp/seminar/dia6ou000001p7ap-att/frontier-sympo2019_01_shigen-wg.pdf
・宇宙居住地: 設計研究(wevアーカイブ) https://web.archive.org/web/20170625000423/https://settlement.arc.nasa.gov/75SummerStudy/Table_of_Contents1.html
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