身もなくあえかなり(「源氏物語」女三の宮)

「いと御衣がちに、身もなくあえかなり」

『源氏物語』若菜上、より。
前記事で「身もなき雛」という表現を引用したが、似たような表現をされた女性に、女三の宮がいる。意訳すれば、
「衣裳ばかり目立って、中身がないように弱々しく細い」
という感じだろうか。
体型同様、精神的にも未成熟で、そういう幼さゆえに、夫の光源氏から疎んじられ、柏木との密通から不義の子を生んでしまった直後、出家するわけだが、その「不義の子」こそ、宇治十帖の主人公・薫であり、彼が成人して恋した大君が「身もなき雛」のようになって、死んでいくのだから、紫式部の構想力は凄い、というほかない。

ちなみに「あえか」というのは、僕が最も好きな日本語のひとつ。このブログの重要なモティーフ、でもあります。


(初出「痩せ姫の光と影」2010年5月)


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