非常識でも合理的な体型

以前、スポーツ医学の権威で、婦人科医でもある人から、こんな話を聞いたことがある。陸上の長距離をやっている女性に、無月経や生理不順が多い、という問題についてだ。

「そりゃあ、婦人科医の立場から見たら、彼女たちの目指してるのは非常識な体型ですよ。本来、ふくよかで、正常に生理があって、という女性の機能を殺しているわけですから。目的はどうであれ、結果としては、女性性を否定していることになります。
でも、うがった見方をすれば、激しいトレーニングをしている体は妊娠には向かないわけですね。防御本能として生殖機能を切り捨てているともいえる。運動をするための合目的性として、月経がなくなるわけですよ。もっとも、それは女性であることの根本原則には反しているんですが」

非常識な体型。だがそれは、運動をするには合理的な体型でもある。
そういえば、松野明美は現役時代、温泉で保養中に、療養で来ていた老女から、
「あなたはどこがお悪いの?」
と、真顔で聞かれたらしい。
彼女は当時、148センチで32~33キロ。一般女性より筋肉質な分、体脂肪率は5%以下だった。後年、母として受難を味わったことと、現役時代のこうした酷使とは、無関係には思えなかったりもする。


(初出「痩せ姫の光と影」2010年11月)


折りしも今はパリ五輪のさなか。どの競技にも「合理的な体型」があるのだなと得心させられる。どれくらい「非常識」かは競技にもよるのだけど。日本人は相撲という国技を持つほどだから、その競技に合った体型に仕上げることにも長けているのかもしれない。


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