見出し画像

給付金をきっかけに

裏庭の梅の木が四方八方に枝をのばし、わんさか青々とした葉をつけはじめて間もない5月の末、うめこばあちゃんがウキウキしながら帰ってきた。 どこからか?って? もちろん、近くのゆうちょ銀行から、、。

世の中はコロナコロナで自粛の毎日、うめこばあちゃんは うんざりしていた。だって、楽しみにしていたデイサービスも高齢者の会もみんなみんな中止!と言う。高齢者の独居老人にとって、こんなさみしいきついことはないしかし、いくらネジリハチマキして戦うつもりでも相手はウイルスだ。大人しくして家にこもっているしかない。と言う。             そこで、うめこばあちゃんは 考えた「家の中を整理しましょう!」と。

整理を始めると、こんなに沢山ものがあったとは、、。ちょっと若い頃のお気に入りの洋服だがサイズが合わなくなっている、かっこいいけど 素材の重たいおおきなバッグは持てない、それにその当時は必要だった書類の数々、一度も使っていない避難袋。中を開けてみると、暑さでくっついて黄色くなったビニール合羽、寒さを防ぎ色々な事に重宝すると言われてつめていた新聞紙等々。 まあ、よくもこんなにため込んだもんだ!と感心してしまう。整理や断捨離をするビニール袋に分けながら「私は年金生活なんて、ええけんど、仕事を辞めないかん人は大変やな~」とテレビを見る度思ってしまう。「こんな人には 早う給付金あげてほしいなあ」と思いながら、「私もまだ、マスクも来てへんし給付金の申請書もまだやな~。どないなってんのんや?ニュースでは何回も『最大の』とか『スピードをもって!』とか 聞くけど、遅いなあ」と思いながら、運動不足のせいか最近、腰が曲がってきているのを自覚する。

そんなある日、給付金が頂けることになった。喜び勇んで受け取りに行って仏壇に供えて「おじいさん、やっと給付金をもらいましたで!」と拝んだ。

その夜のこと、眠っているうめこばあちゃんは 何かの気配で目が覚めた。ガタン!そんな大きな音ではないのに 目が覚める。これは子供を育てた人ならば経験があると思うが、子供が布団をけったり寝返りをしただけでも 母親は目が覚める。そんな習慣でうめこばあちゃんも阪神淡路大震災の時 大阪の揺れが尋常じゃない!と目が覚めた。 朝5時過ぎだったか?1月17日のまだ薄暗い朝、しばらくの間 頭がぼーっとしていたが、うめこばあちゃんは突然娘の部屋へ飛び込んだ。一緒に寝ていた夫をさしおいて、、!と言う具合だから、気配で目が覚めたのだ。ソ~っと布団から立ち上がり、暗がりの中に目を凝らす。と、何やら仏壇の中を何処ここ探すようにしているモノカゲが 目に入った。とたん、パッと電気を点けて「何じゃ~!おまえさんは~!」と、手にふれた物差しを振り上げた。まあ!その声は見事80歳には思えないド迫力!その声に驚いた影の者が「ひゃ~!」と腰を抜かして尻もちをついた。その影の者にピシッと物差しが当たった。二王立ちになったうめこばあちゃん、二度目の攻撃で「おまえさんは~!」とのしかかった。なんでこんなに、か弱きばあさんが強くなるのか??「ごめん!ごめん!」両手で物差しをよけながら後ろにいざって逃げようとするその影の者に電灯の明かりがさした。見れば40代そこそこのオッサンじゃないか?それも見覚えのある顔だ。怖いというよりも「なんで?」と、うめこばあちゃん。「里さん!?」思わぬ言葉が口をつい出てきた。

「里さん?さとさんじゃないんか?」顔をのぞかれ「うわ~!」と両手で顔を隠すが尚もうめこばあちゃんの顔が近くなる。「ごめん!ごめん!」「なんで?どうしたん?」と聞きかさねる。「ど、どうも、し、」としどろもどろの返事。うめこばあちゃんは手をあげた物差しを下ろしながら「どうもこうもないわいな!これ盗むつもりやったんか!」と、あきれたように言い放った。里さんと呼ばれた男は 申し訳なさそうに「うん、うん」首を振る。「どないしたん?まあ、ここへ来て お座り」と仏壇の前の畳をトントンたたいて、座らせた。座ると同時に里さんがうな垂れ言うことには、コロナで飲食店を辞めざるおえなくなって、、。うめこばあちゃんが給付金を手にしたのを知って、、、ついつい、、やってしもうた。と言う。「そうなんかか?まだ、来いひんのか?なんや、遅いなあ。けど、そのうち来るやろ?待てんかったんか?」「何時来るかいつくるか?首長ごうしてたけんど、家賃やガスや電気代なんか重なって、、」聞けば聞くほど、つらくなる。もっと早う配らんかい!「ええい!」うめこばあちゃんは腹をくくった。10万円ぽっち、わたしはがまんできる!「里さん!これ、使い!」ポンと給付金の入った封筒を畳に置いた。里さんの目が思いっきりびっくり目になる。そして、うめこばあちゃんを見つめた目が涙でうるうる溢れてきた。「ええよ、ええよ!困った時はお互い様!な、気にせいでな!」なだめるように里さんの方をポンポンやさしくたたいた。

そこで、目が覚めた。なんや、夢やったんか?ところで、里さんて??  どこのどなた様かわかりませんが、お先にいただきましたえ。うめこばあちゃんは仏壇の前の給付金に手を合わせた。

実のところ、私はまだマスクも給付金もいただいてはいない。独居老人一人何とか来るまで待ちましょう。来てから、ゆっくり考えましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?