あなたと…
ある日、私は旅に出ました。
あの頃の私とあなたに逢いたくて
誰にも話してたことのないあの旅を
こころの地図だけを頼りに
出かけるこことにしたのです。
列車に揺られ
車窓から夏の光に目を細めていると
夏と秋が交差する駅に辿り着きました。
覚えている?
すぐ目の前に海があって…
ここは今となっては叶わぬ約束を
あなたと無邪気に交わした場所。
ずいぶん昔のことだから
きっと街は様変わりしているだろうと思ってた。
あなたがいなくなって
わたしはずっと取り残されたまま
いつまでたっても青い空を見上げて
歩くことができなかった。
1/1000のシャッターを切るように
時代(とき)は駆け巡り
見るものすべてが変わっていったというのに
目の前に広がる海は
あまりにも昔と変わりなく
ただ大らかにそこに存在(あり)ました。
潮風に吹かれて気づいたこと
それはナミダと海水は同じ味がするってこと。
そう、あのときも私は泣いていたっけ
あなたといたことが怖いくらい幸せだった
あまりにも幸せすぎた記憶
でも、あれは夢ではなかったのね。
幻でもなく
あの時確かに
わたしたちはここにいたの。
あの時、砂に書いた二人の名前が
波に消し去られても
あの時の二人は今でも海に抱かれている。
もうそれだけで、わたしは生きてゆける…
「ありがとう」
見上げた空は抜けるような青空
赤とんぼが大きく円を描いて太陽と重なった。
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