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ある夜のお出迎え

あるところに双子の兄弟がおりました。 双子の兄の名はチクリ、弟の名はペクリといいました。双子の兄弟はそっくりなのに、この二人は全く違った兄弟でした。 兄のチクリは、我慢強く泣かない子。 弟のペクリは、すぐ泣きべそになってしまう子なのです。

チクリとペクリの家に一匹の猫がいました。 片方の目が金色で もう片方の目は銀色をしていて、白と黒の縞模様に フカフカの真っ黒のシッポがあるその猫はキャベツと呼ばれていたのです。どうしてキャベツなのか?っていうと、チクリとペクリがお母さんからお買い物を頼まれた時、キャベツ畑で出会ったから! 兄のチクリはキャベツと大の仲良し、キャベツ畑から連れて帰ったのもチクリが「家で飼ってもらおう!」と言ったからでした。弟のペクリは「でも、お母さんがダメといったら?」と不安がりました。「僕がお母さんを説得してみせる」とチクリが胸を張って言ったのでした。  キャベツはチクリのそんな勇敢なところが 大好きでした。    けれど弟のペクリは キャベツの目がこわくて、いつもキャベツを見つけると泣き虫が出てくるのです。キャベツはそんなペクリとどうも仲良くなれません。

ある日、お母さんのお出かけが長くなり、チクリとペクリとキャベツでお母さんの帰りを待つことになりました。                 夕方、西の空がオレンジ色のベールをかけたような夕焼けになりました。 その空が少しづつブドウ色に変わり、銀色の月が姿を現してもお母さんは 帰って来ません。 「どうしたのかな~」ペクリはもう半泣きで、さすがのチクリも不安になり表でお母さんを待つことになりました。

表に出ると、大きな月が半分雲にかくれてうたた寝をするところでした。 「お月さま!もう寝るの?」二人と一匹が声をかけようとすると「いや~、あんまり気持ちがいいもんで、ついウトウトしてしもうたよ。ところで、 坊やたち 今頃どこへ出かけるというんだい?」と月が聞きました    「お母さんが お出かけからまだ戻ってこないの」と心細そうなペクリが言うと「僕たちで迎えに行こうと思ってたところなんだ」とチクリがきっぱり言いました。キャベツは月に向かって、金色と銀色の目でウンウンうなずいています。「そうか~。お母さんを迎えに?そんなら、私が暗い道を照らしてあげよう!」と、言うやいなや、ひゅ~と風をひと吹きおこして雲の布団から抜け出ると、今まで暗かった夜道が 白い光で満たされました。   「ありがとう!」兄のチクリが大きな声で言うと、半べそのペクリも「これで怖くないね!」と言いました。キャベツの目もキラリ!と光ります。  そして、二人と一匹は 山を越えることになりました。

はじめは ゆっくりした登坂もだんだん道がせまくなり、草も樹も背が高くなって 月の光もとぎれとぎれになります。ついに、大きな木の枝が おおいかぶさるような林がつづきました。 キャベツはチクリとペクリの先を行っては 金色と銀色の目を光らせ、道案内をしてくれます。チクリとペクリは大助かり!   でも、お母さんと会えません。「おかあさ~ん!早く帰ってきて!」二人は心の中で叫びました。すると、少し先の方で、ボ~っと青白く光るものが見えるのです。お母さんの懐中電灯?二人と一匹は急ぎ足で近づきました。そこで 光っているのはお母さんの懐中電灯でなく、林の木々が 青白く燃えているように光っているのです。

狐(きつね)火? いや!鬼(おに)火?

「怖い!」とペクリは兄のチクリに しがみつきました。チクリもペクリをかばいながら「キャベツ!あれは なんなの?」と聞きました。     キャベツはそ~と草の音をたてないように、その青白い炎に近づきました。キャベツは そこで見たのです。何本かの木々から 青白い炎のような光が放つのを!  しばらく、その炎のような光を見つめながら考えました。 一瞬、キャベツの目がキラリ!と光りました。   青白い炎の辺りから、赤いまる~い炎が、ゆ~らり ゆ~らり こちらへ近づいて来るのです。「ふんぎゃ~!」一声叫んで、目が飛び出さんばかりに驚いたキャベツは 一目散に、チクリとペクリの足元に! それと同時に「きゃ~!」と叫んでチクリとペクリは抱き合いました。「怖いよ~!かえろうよ!」と泣きながらペクリは言います。 チクリは勇気を出して、ゆっくり目を開けました。

 赤いその炎はますます大きくなり、こちらに近づくのです。さすがに チクリも怖さにギュッと目を閉じました。遠くから草を踏みしめるゆっくりとした足音。  それが少しづつ大きくなり、チクリとペクリのすぐそばまで来ると、足音がピタリ!と、止まりました。そして、赤い炎が、二人を照らし出しました。「きゃ~!」二人と一匹は さらに身をちじめました。

「あら~?、どうしたの?」ゆくりした女の声。その声に恐るおそる目を開ける二人と一匹。赤いま~るい灯りの後ろに ぼんやりと照らし出された女の顔!それを見てチクリとペクリは 二度びっくり! それは待ちに待ったお母さんの顔だったのです。「おか~さ~ん!」二人はお母さんに飛びつきました。そうです。赤い丸い灯りは懐中電灯だったのです。  「なんで、こんなに遅くなったの?」チクリはお母さんの胸をとんとんたたきました。そして、ペクリは怖いのと安心したのとで、オイオイ泣きながらしがみつきました。「ごめんなさいね~。もっと早く帰るつもりだったのに、電車が故障して動かなかったの。心配してここまで迎えに来てくれたの?」チクリとペクリは「ウン、ウン」とうなずきながらもお母さんを放しませんでした キャベツは どうしていたって? キャベツは 一番早く「ふんぎゃ~!」って叫んだので、ちょっとはずかしくなり、足や体の毛づくろいをしながら照れ隠しをしていました。

しばらくして、お母さんの温もりで気持ちが落ち着いたチクリとペクリは、思い出しました。青白い炎が林の木々に燃えるようにまとわりつくのを! 二人は その場所を指さし「おかあさん、あれは何なの?どうしてあのところから 出てきたの?」とききました。二人が指さした方を見たお母さんは「あ~、あれはね」とチクリとペクリの手を引いてその場所へ連れて行きました。そして、落ち着いた声で「あれは ね!」と怖がっているチクリとペクリに「木の中に入っている【リン】と言うものが、命を終えた木から出てくる炎なの。  キツネ火でも鬼火でもなくって、生きてる物には みな【リン】が入ってるのよ。だから、少しも怖いものじゃないのよ」と 言いきかせました。「そうなんだ。怖いものなんかじゃないんだ」チクリとペクリは自分自身に 言い聞かせました。  それから、チクリとペクリはお母さんの手をしっかり握りしめ、キャベツと一緒に家に向かいました。

お月さまは もうとっくに高いところにいて、「よかったね~」と言うように、三人と一匹をやさしく照らしてくれました。

                  おしまい

  

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