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受話器の向こうで(2)

             

 厳しい気温差の三寒四温を繰り返し、3月半ば私は生協のパンフレッドを見ていた。食品の注文を一通り終え、家庭用品の部に目がうつっていた。 そして、見つけたのだ! ううん、見つけてしまったのだ!       まさか?と思いながら家庭用品の12ページの右上コーナーの写真。   目が釘付けになっていた。

 スライドドレープハンガー:

 ハンガーの肩からスライドするようになって 肩が伸びている。    しかし、肩幅が細い。が、その部分で、わずかばかりではあるけれど、袖脇が少しだけ空気に触れるようになっている。 脇の下を広げて緑のセーターが気持ちよさそうに写っていた。                   衣文掛けにヒントを得たのはこういうシンプルなアイデアでよかったのだ。こんなシンプルなアイデアに私は具の出もでなかった。         そして、驚いたことにその値段、5本一組をセットで648円(税抜き)。なんと、1本あたり65円と言う安さ!                そして、もう一つ                          スライドドリップハンガー:よく似ているが、これは肩幅が少し幅広になって5組で548円一本当たり110円そして生協限定と言う。生協限定? 

 生協限定で思い出すことがあった。                 25年程前のこと、大阪に転勤になって生協に入って間もなくのこと。  賞味期限が食品を包む袋に記入されていた。袋を外してしまえば賞味期限が分からなくなってしまう。                      そこで私は気づいた。 食品の蓋に印字したらどうだろう?袋を外してしまって賞味期限が分からなくなることはない。              そうだ!「食品の蓋に印字する」アイデア。              しかし、当時どこへいえばいいのか分からず、生協に電話したのだ。   生協のお兄さんも賛成してくれた。「いいですねえ。そのアイデア」   しかし、いつまでたっても生協の食品の蓋に印字されることはなかった。 その内私は「採用されなかったのだ」と思いこんで、いつの間にか忘れてしまっていた。ところが、ある時キューピーマヨネーズの蓋に賞味期限が印字されているのに気付いたのだ。                    え~!キューピーだけが!?どうして?                特許をとったのか?味の素にも他の食品のどの蓋にも印字されるのを見たことがない。けれど、そのタイミングでどの食品にも容器の製造販売のレッテルに賞味期限が印字されるようになったような気がする。        あのアイデアは私のアイデア!生協のお兄さんが?           と、いう苦い残念な経験もあった。 けど、今では笑うしかない!やん。

私は早速「発明協会」に電話した。                  「ありました」「え?」浅井さんの目がテンになっている。       「生協に同じようなものがあったんです。!それも、こんなシンプルなアイデアで、、。こんなお安くって!私のは凝っているので値がはると思います。主婦は値段を気にしますよね。私さっそく注文しました」悲痛な声で説明しながらも買ってしまう私って、、、。               「注文されたんですか?」浅井さんの目がパチクリした。        「はい、さっそく!」                        「それはいいことですねえ。見本があれば、、でも、ハイネックのアイデアはないでですよね」と、浅井さん なんて、やさしいお方!       「そうなんです。ハイネックはどちらもないですね」          「そこのところを、なにかもっと具体的な案があれば、、付け加えることが出来れば、、」浅井さんも残念そうだ。               「そうですね。考えてみますね。思いついたらその時はよろしくおねがいします」フ~と息を吐いて気を取り直して「お忙しいのに お時間を割いていただきありがとうございました。いっぱい他に発明の案をもってこられる人がいてられるのでしょう?その人達のお時間を申し訳なかったです。感謝してます。残念ですが 今回は却下いたします」と一気に行ってしまうと気持ちがふんぎれた。                          受話器の向こうで小さな溜息を聞いたような気がした。         「娘さんのご病気良くなられますよう、、」              「ありがとうございます。浅井さんもお元気で、、、鶴、つる」     「鶴岡ですか?」                          「そう、そう、鶴岡さんにもよろしくお伝えくださね」         「あ~、そのように伝えます」                    「ありがとうございました」                     受話器の前で 私は深々と頭を下げた。                敗北感は全くなかった。むしろ、、、                 受話器の間を なんだかあたたかいものが、ゆっくりと流れたようだった。

                     完

                     









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