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僕の方こそ、ありがとう。

ルワンダの首都キガリには、いわゆる「中華系マーケット」がいくつかある。

そういった店では、現地のルワンダ人に混じり、アジア系の従業員さんが働いている姿をちらほら見る―――



僕はその日、配属先の活動で使用する物品を求め、一人でキガリのとある中華系マーケットを訪れていた。

文房具コーナーでしゃがみ込み、最下段にある商品を手に取ってじっくりと品定めをしていたところ、背後から急に声をかけられた。

すみません。
今、これと同じような形でもう少し容量の大きいコンテナを探してるんですけど…

振り返ると、そこには少し裕福そうな若いルワンダ人カップルが立っていた。

この2人が、自分たちの探している商品を突然僕に申告してきたのだ。


…ふぅ〜ん。


あっそ。


別に聞いてないけど。


そう思って黙って突っ立っていると、そのカップルは「早く対応してよ」的な態度でこちらの反応を待っている。



おや…?


コレぁお前さんら、アレだな…?


僕のこと、店員だと思ってんな!?



そう確信した刹那、僕の頭には2つの選択肢が浮かび上がった。

<選択肢①>
「いや…スンマセン、僕店員じゃないんですよぅ〜」と、正直に言う。

<選択肢②>
「少々オ待チ下サイ、オ客様〜」と、店員になりすまし、完璧に顧客対応をする。


いや、アホかと。

選択の余地ないだろと。

普通に真実を言えよと。

そう思われるかもしれないが、僕はこの時、訳もなく後者を選んだ

つまり、こちとら店舗の関係者でも何でもないのに、むしろただ買い物に来ただけなのに、謎のルワンダ人カップル(以下、お客様)のために一緒にお求めの商品を探すことにしたのだ。

当然、このお客様が求めている”コンテナ”とやらがどこにあるのかなんて、皆目検討もつかない。

しかし、お客様は期待の眼差しで、曇りなきまなこでもって、まっすぐに僕を見つめてくる。

びっくりするほど僕に焦点を合わせてくるから、もしお客様が万華鏡写輪眼を持っていたら、確実に「天照」で焼き殺されてた。

僕を見つめるお客様の眼



これは勝手な想像だが、おそらくこちらのお客様は新婚夫婦だ。

きっと、これから始まる2人の新生活に向けて、家具を揃えに来ているに違いない。

そんな素敵な瞬間を楽しんでいるお客様の期待を裏切るわけにはいかない。

いやむしろ、これは自分にとっても嬉しい瞬間だ。

自分が提示した商品が、お客様の幸せな新婚生活の一端を担うことになるなんて、長年この仕事をやってきてコレ以上の幸せはないじゃないか(店員を装い始めたのは数秒前)。

…そう思い、全力でお客様に対応することにしたのだ。


僕は周りを見回し、何の根拠もないままその場を移動し、お客様を誘導した。

おそらく、お客様がお求めの”コンテナ”が置かれているのは、こちらのエリアになりますね…あ、こちらの商品なんて、いかがでしょうか?

騙し騙し。

圧倒的、騙し騙し。

だって、どこにどんな商品が置かれてるかなんて、把握してないもの。

具体的には、どれくらいの大きさの物を御所望ですか?

それでも、無難な会話をはさみつつ、該当の商品を探していく。

お色は何にいたしましょう?


そして、ついにお客様の御満足いただける商品にたどり着いた。

ありがとう!
これこれ、パーフェクト!
助かったよ、店員さん!!

そう言ったお客様の笑顔は、とても輝いていた。

僕、店員さんじゃあないけどね。

それでも、あなた達の手助けができて良かった。

僕の方こそ、ありがとう。



この件を通して僕が思ったことは、「人助け」って素敵だなってこと。

「人助け」なんて言い方をすると恩着せがましいかもしれないけど、どんな小さなことでも「誰かの役に立つ」って素晴らしい。

その人が喜び、笑顔になってくれる。

その笑顔を作ったのは自分なんだと実感できると、こっちも嬉しくなる。

そうやって、相手も自分も、少しだけ幸せな気持ちになる。




…あれ?

最初は「店員に間違えられたけど、そのままゴリ押しした」っていうネタとして書き始めたのに、なんかイイ話風味になってしまった。

でも、まぁいっか。




誰かのために行動することなんて、いつどんな場面でも自分がその気になればできるもんだ。

僕はこの時、自分が何しにこの中華系マーケットに来ていたのかも忘れ、むしろ自分が長年この場所で働いていたんじゃないかという錯覚に囚われながらも、心は清々しい気持ちで満ち溢れていた。

そして、満足そうに去っていくお客様の背中に向かって、こう言った。



謝謝シェイシェイ

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