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たいへんなことだ

店をやっていると慣れてしまって普段は何とも思わないのだけど、

自分の作った料理が誰かの口に入って、その人の生命を燃やす、これは大変なことだと、時々我に返って本当にびっくりする。

衛生管理とか、責任とか、そういうことはもちろんなんだけど、そういう話ではない。

あまりにも直接、生命のやり取りをしている、そのことのあまりの凄さに呆然となって、恥ずかしくなって、この幸福感をどうしていいか分からなくなる。

おいしいと言ってもらうのは、もちろん嬉しい。だけどそれ以前に、ただ口に入れてくれるだけで何という信頼だろう。

もちろん誰もそんなに深く考えてはいないことは承知の上で、

あ、命を投げ出してもらっているんだ、と思う。体の深いところから揺さぶられるぐらいの感謝が込み上げてくる。

ずっとずっと昔、働いていたレストランで、従業員みんなが食べる賄いを作った時、初めてその感覚を味わったと思う。

みんなが、食べたんだ。本当に、私の作ったものを食べたんだ。。

十数年経った今日、自分の店に毎週来てくれるお年寄りが、おぼつかない手つきでポロポロこぼしながらカレーを食べて帰った、そのご飯つぶの残る食器を下げながら、また同じ衝撃に震えていた。

私はその人のことをよく知らない。その人も、私のことをよく知らない。なのに毎週来ては、私の出す料理を体の中に取り入れてくれている。

たくさんの人と恋をしているぐらいにすごいことなんじゃないかと、我に返る度に思ってしまうから、普段はなるべく平気な顔して忘れるようにしている。

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