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旧司法試験 刑法 平成21年度 第1問


問題

甲及び⼄は、路上を歩いていた際、⽇ごろから仲の悪いAと出会い、⼝論となったところ、⽴腹したAは甲及び⼄に対し殴りかかった。甲は、この機会を利⽤してAに怪我を負わせてやろうと考えたが、その旨を秘し、⼄に対し、「⼀緒に反撃しよう。」と⾔ったところ、⼄は甲の真意を知らずに甲と共に反撃することを了承した。そして、甲は、Aの頭部を右拳で殴り付け、⼄は、そばに落ちていた⽊の棒を拾い上げ、Aの頭部を殴り付けた結果、Aは路上に倒れ込んだ。この時、現場をたまたま通りかかった丙は、既にAが路上に倒れていることを認識しながら、仲間の⼄に加勢するため、⾃ら別の⽊の棒を拾い上げ、⼄と共にAの頭部を多数回殴打したところ、Aは脳損傷により死亡した。なお、Aの死亡の結果がだれの⾏為によって⽣じたかは、明らかではない
甲、⼄及び丙の罪責を論ぜよ(ただし、特別法違反の点は除く。)。

関連条文

刑法
36条(第1編 総則 第7章 犯罪の不成立及び刑の減免):正当防衛(過剰防衛)
204条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):傷害
205条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):傷害致死
207条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):同時傷害の特例
憲法
31条(第3章 国民の権利及び義務):法定の手続の保障(利益原則)

問題文の着眼

乙は2つの行為に関わっているが、甲と丙はどちらかにのみ関与

一言で何の問題か

積極的加害意思、共謀の射程(承継的共同正犯)、同時傷害の特例

答案の筋

⼄は、第1行為にも第2行為にも関与しており傷害致死罪(前者が過剰防衛)が成⽴する。
同時傷害の特例は、被害者側の因果関係の⽴証の困難を救済するための規定であり、傷害致死の場合でも適⽤できる。また、積極的加害意思がある場合は、急迫不正の侵害とは言えず、正当防衛は認められないため、甲は、⼄とともに傷害致死罪の共同正犯となる。
暴⾏は単発行為として完結するものであり、先行行為として存在していたとしても因果性は遮断され、承継されない結果、承継的共同正犯とはならないも、同時傷害の特例より、丙は⼄とともに傷害致死罪の共同正犯となる。

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