見出し画像

ラジオ制作現場(育成問題)

と言いつつ、ラジオの事は余り出て来ないかも?…

さて、上の画像、ちょいとネットで見つけた波形編集のPC画面です。
今の時代、録音素材や番組はPC1台で編集から完パケまで出来ます。
極端な話、ディレクター自身がDJも兼ねる場合、1人で全部完結です。
そうなると、ラジオ屋仲間で危惧しているのが、後進が育たない。技術が次世代へ伝えられない…。社会状況的に見てもラジオは斜陽。なんだか、伝統工芸の職人さんの悩みみたいですが、正に同じかも知れません。ってことで今日は、お仕事の姿勢についてのお話を少々。

■電波じゃないラジオは元気

ね。昨夜もTBSラジオで魚屋さん2人のポッドキャスト番組が紹介されてて、このNOTEにも訪れてくれたそうなんですが、素人さんでも簡単にラジオが出来る時代。たとえば、小学生だって発信出来る訳です。
そうなると、ラジオ=趣味の世界。
ワシら職人はどうしたらいいんでしょうか(苦笑)。
で、ラジオの魅力を分かってもらって、実際にラジオ「局」のラジオ(表現が難しいですね…)をしたくなる!マイク使いもBGMの付け方も、波形編集も出来るし、お喋りも達者!まさに即戦力です。
恐らく、今後数年…そういった人たちが現場に参入する時代も来るかも知れませんね。
ただ、不安があるんです。
なんだかんだ言っても、ラジオ現場も「社会」です。
いや、この業界に関わらず、どんな仕事も「社会」です。
1つの番組で、スタジオ内で働く人数自体は数人ではありますが、お付き合いする人はとても多いです。
番組を作る「技術」は習得出来ていても、そういった「社会」に混じった経験が無いと、プロとしては不完全、欠落した人間になってしまいます。
そういう意味でも「修業」が大事になります。

■球拾いはイヤ

よく青春ドラマやアニメでも出てくるシチュエーションですね。
野球部に入部したものの、1年生の内はずっと外野で球拾いさせられてウンザリ。「部長、辞めさせてください」1人減り、また1人減り…という奴。
「なんだ!我慢が足らん新入生ばっかりだなー」なんて3年生が吐いたりね。で「俺たちの頃はなあ」と続く訳です。
自分たちが厳しい先輩の仕打ちを受けて苦労したんだからお前ら新入生もその道を経験すべきだ…というのが、そういう物語で出てくる言い分ですね。これじゃ今の若い人たちは受け入れませんわな。
だって、我々の時代より恐ろしく情報を豊富に吸収してるんだもの。
悪く言えば「一億総頭でっかち」(笑)。
どうバットを振れば球が飛ぶか?どう握ればいい球が投げられるか?情報は山ほどあって独自に練習してますから、早く実践で試したくて仕方無いんです。それを「伝統」と「忍耐」の言葉だけで押さえつけても嫌がりますよね。

■何故下積みが必要なのか

球拾いはただ球を拾うだけか?疑問を持った新入生にどう答えます?
理屈じゃないんだ。そういうもんなんだ!…はい失格~(笑)。

「外野で球拾いする実際の時間って僅かだろ?
球が飛んでくる…待ってる間、どうしてる?ボーっと眺めてるだろ?それじゃダメなんだ。俺たち上級生が内野の方でどう動いているか?どう走ってるか?どういう声を掛け合ってるか?幾らでも新規情報が吸収できるぜ。待ってるだけなんだから。実際レギュラーになったら、そんな暇、無くなるんだ。今の内しか出来ない大切な勉強の時間をお前ら、無駄にしてたら勿体無いじゃないか」

そういう事です(笑)。
ラジオも。
あれ買ってきて。コピーして。CD出してきて。尺測って。電話して聞いてきて。もう1日じゅう”パシリ”ばかりですよ。早く、選曲したり、キュー振ったり、マイクの前で喋りたいですよね。でも、それこそ球拾い。先輩、上司の「技」を盗む隙間を駆使しないと勿体ないですよ。
よく、若い人の言い分として「技は盗めっていうけど、そんな非効率な。ちゃんと教えてくれないと出来ませんよ」…そりゃそうでしょう。最初から出来てたまるか(笑)。失敗すればいいんですよ。間違えればいいんですよ。それを「正解はコレ」と教えてくれるから気付けるんですよ。失敗する事が効率が悪いんじゃなくて、スルーしないから噛み締めて覚えるんですよ。

でも「失敗」したくないんでしょ?頭こずかれたく無いんでしょ?

じゃあ、こう例えましょう。

あなたが最初に作る泥団子は直径5cm。コネコネしてると失敗してひび割れが出来ました。割れ目は30度。直径5cmなので表面的には数ミリです。
一人前になり、大きな泥団子を任されるようになりました。直径は5mです。同じケアレスミスで割れ目が出来ました。割れ目の角度は同じ30度。でも直径5mにもなると表面にできた隙間は数十センチにもなります。球だから奥も深い。この割れ目を埋めるには、とても大変な作業となります。

そういう事です。修業時代、小さな仕事からしか、させてもらえませんが…この時代に失敗しても、影響は大きくないから先輩がフォローしてくれて、埋めてもらえます。でも、そういう時代を経ないで一人前になってしまったら、同じケアレスミスでも影響が、恐ろしく大きくなります。その深い穴を埋めるには、多くの人に迷惑をかける事になります。
だから若い内に失敗を繰り返して鍛えることがとても大事なんです。

■失敗多いと何がいい?

「若いうちの苦労は買ってでもしておけ」
これもよく聞く台詞ですよね~。なぜ?って聞かれても答えられない人、少なく無いのでは?(苦笑)
失敗をしたら人はどうします?
反省します。はい。
なぜ失敗したのか振り返ります。はい。
今後はどう対応したらいいか、対策を考えます。はい。
次回、失敗しそうになったら、対策を実践して予防できます。そう。
割れ目が数ミリの時代に、対策の引き出しを沢山作る事が出来ますね。
それを経験してれば、直径5mのビッグプロジェクトを任された時にも”ビビる”事が減って、堂々と取り組めますし、何か危険な事が起きようとしても、その兆候を察知できて、早い対策を組んでカバー出来ます。
それを経験していないと、少しの危険にもアワアワ焦って、落ち着いて対処できず、傷口が巨大になってゆきます。

そうならない為に、修業時代が大事なんです。若い皆さん、分かりました?

逆に、先輩・上司の皆さんは、こうやって論理的に解説してあげないと、頭でっかちな若い人たちに根性論は、今の時代、通じませんからよろしく(何をや笑)。

■ケツを拭け

まあお下品(笑)。

さあ先輩・上司の皆さん。ラジオ現場だとディレクター・プロデューサーの皆さん、ケツ拭いてますか?(笑)。

安いギャラで働いてもらってるADさんに、そんな仕事振れないよって躊躇してませんか?文句言われるしって。「なんでもいいからやっとけ」じゃ動いてくれませんから、上のように論理的に説明してあげたらいいんですよ。
勉強には授業料が必要ですからね。それ無しに修業させてあげてるんですから文句は言わせませんって。

何事も、経験してもらわないと身に付きませんから。やってもらいましょう。きっと失敗します。確実に間違えます。間違えたらフォローしましょう。頭下げましょう。始末書を書きましょう。いや書かせてハンコを押しましょう。制作部長、編成部長に頭を下げましょう。タレント事務所の社長に菓子折り持っていきましょう。
上司に恥をかかせて委縮しないADは居ないでしょう。え?知らんふり?それは問題外です。
失敗したら叱る。そして正解を教えてあげる。で、対策は自分で考えさせる。それをしないと再発しますから。
で、懲りずに何度もやらせましょう。上手くいったら大袈裟に褒めましょう。育ちますから。
育ったら戦力が増えて、自分が楽になりますから。

育つまでは、しんどいです。自分でやった方が早いですから。
でも、そのしんどいのを省いたら、自分にツケが帰ってきます。
育てれば、業界の未来を築く事にもなりますから。
それを許さない業界には…やっぱり未来は無いです。

AD要らずなんて事は有りません。

■不便を考える

昔のラジオ現場は不便でした。デンスケって聞いた事ありますか?
ノートパソコン位の大きさのでっかい箱。そこにアナログテープを掛けて録音する機材で、外取材に持っていきました。マイクを繋いでテープを回して録音していました。それを局に持ち帰り、編集室っていう小さい部屋に缶詰になって、シコシコとハサミを入れて1か所ずつ編集しました。
間違えたらカットしたテープ片を探して元に戻して編集し直して。
出来上がれば、スタジオを借りて、音楽を入れたりして素材を完成させますが…それも途中でタイミングを失敗したらイチからやり直しました。
結局丸1日掛かったりしました。

今はiPhone内蔵マイクでもクリアな音で録れますし、PCのソフトを使えばあっという間に編集出来ます。何度でもやり直し出来ます。便利な時代です。

だから、新人さんたちは「工夫」という事をしなくて良くなっちゃいました。「苦労は買ってでもやれ」では有りませんが…便利な時代だからこそ、なんとしても「工夫」を考えさせなくてはなりません。

普通にやっても「そこそこ」のレベルで仕上げてくるでしょう。
先輩方は、よりクオリティ高い物を要求しましょう。
そこで「工夫」を考えられる人間は育ちます。

30年近い昔の話をしましょうか。
たとえば…番組で使う素材の山。制作フロアからスタジオまで運ぶのに両手で抱えると不安定だし面倒です。近くの100円ショップでプラスチックの買い物かごを買ってきました。それに入れれば片手でOKでした。テープ素材とCDがごっちゃになりました。100円ショップにプラスチック素材の細長いカゴを見つけました。CDを合わせたら断面サイズがピッタリ。これでCDの山もスッキリ。
リクエスト出しが大変でした。当時はFAX主流でそれも感熱紙でした。
リスナーさんによって文字の形も大きさもまちまち。出してきたリクエスト曲の尺(イントロや曲自体の長さ)をメモするにも、隙間が小さいと文字も小さくなって見にくい。中のDJだけでなくディレクターの分も要るからコピー取るのも手間です。そこで付箋を使いました。先輩ADは、コピーの裏紙を小さく切って、ディレクター用にCDケースに挟んでいましたが、自分は付箋にしました。
なぜか?
よく来るヒット曲だと、毎回尺を測ってメモを挟むのは面倒です。
付箋だと、何度でも使えて、CDをスタンバイするまでの時間短縮にもなりますし、サイズが縦横ピッタリなので、同じアルバムの別の曲のメモも並べて貼れます。

そうやって1つ1つを工夫する事が、結果として自分の仕事効率化にも繋がるし、ディレクターも楽になる。番組自体の活性化にも繋がる。それが自分の喜びになる。脳味噌が「工夫」する事に慣れると、一人前になってからも、企画に発想の転換が効いてきて、予想できなかった展開を生む事になります。そうやって、ワンランク上の仕事へ繋がってゆきます。

ワイヤレスのシステム…どの局にも有りますよね。
ライブや公開放送で使うのが専らですよね。
レポーターを動かすのは、水平方向ですよね。当たり前ですよね(笑)。
一度、垂直方向に使いましたよ。
ビルの上にあるスタジオフロアの窓からブームに固定したワイヤレス受信機を水平に突き出して…ビルの下にある交差点にワイヤレスマイクを持ったレポーターを立たせて、生中継しました。

ま、極端な一例ですけど。

工夫する癖は大事ってことです。

■ブルーハーツの「夢」

あれもしたい、これもしたい…って奴です(笑)。

ADの頃は、なんでもやりたい欲で頭がいっぱいになります。

昔、ヒロTの様子をよくスタジオの外から窓ごしに眺めてましたが…ワンマンって大変ですよ。喋りながら次の展開を考えて、時計見ながらCD出して、イントロ曲フリ終われば、次のCD装填して、ジングル考えて、BGMの頭を出して、ゲストと打ち合わせして、ミキサー卓を操作して…忙しい!!

なんでもできると有利だし、面白いですけど、それだけ仕事が増えるし、リスクも高まります。それを理解して「工夫」する事が、これからのラジオの世界にも必要になってきます。
制作費とかを考えれば、人は削られますから。
聖徳太子じゃないですが、一度に色々出来る事が必要になります。
でも視点を変えると…
1人1人が色んな事が出来るスタッフが揃っていれば、ある時はミキサー、ある時はディレクター、ある時はDJ、ADも出来る、それぞれがフォローしあいながら番組を作る事が出来る無敵のチームにもなります。

便利な世の中になったからこそ、みんなで「工夫」して、クオリティの高いラジオを創る時代へ持っていきましょうよ。

来たれ若人よ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?