あの子に会いに行こう
なんの時だけ。
確か、なんか嫌なことがあって。
本屋に無性に行きたくて、一番近くにあった普段なら絶対行かない、元職場のそばの売れ線の新刊しか置いてない本屋に、飛び込んだ。
店先にあったのは、夏によく見る
各出版社オススメの夏に読みたい小説たち。
わたしはすぐに、可愛らしいポップ付きの文庫本の山に噛り付いた。
優しい本を、なんだかわたしを包んでくれる優しい本を...
一番に目に付いたのは、辻村深月さんの「オーダーメイド殺人クラブ」。
いつかの夏に読んだ。表紙の女の子から目が離せなくて。ジリジリと肌を焼く痛みがあたたかく、心地よくなってしまう、危うい一冊だった。またいつか、夏に読みたい。
思い出に耽る。
けど。違う。もっと、優しい一冊を...
棚の前をうろちょろするうちに、可愛らしい表紙と気になる帯が目に飛び込んできた。
すべての女子を全力肯定
...肯定されたーい...
迷わずレジへ。近くの喫茶店に入って、読みだした。
本屋さんのダイアナ / 柚木麻子
自分の名前や見た目がコンプレックなダイアナは、小学三年生の時に、ある女の子にそれら全てを褒められる。彩子ちゃんだ。彩子ちゃんは、真っ黒なおかっぱの、美しい女の子。2人は見た目も家庭環境も全然違ったけれど、「本が大好き」というところは一緒で、すっかり仲良くなってしまう。
お話は、この2人の交互の視点で小学校から大学生(あるいは社会人)まで描かれる。
2人の置かれる環境はどんどん離れていくけれど、一方で胸のうちには必ず相手のことがあった。ダイアナは、彩子。彩子は、ダイアナのことを。大好きで、憧れで、羨ましくて、憎たらしくて。忘れられなくて。
読むうちに、私にとっての彩子の影が強くなった。
あー、会いたい。元気だろうか?
今、何をしてるだろう。
成長して、2人の距離がじわりと近づいていく感触が、あったかくて苦しい。
緊張する再会。
本屋さんのダイアナでは、この2人だけでなく家族の事も描かれる。主に、母と娘。
母と娘って、なんだかとっても不思議な関係だなぁって私は思っていて。
紛れもなく私を生んでくれた存在なんだけど、大きくなるにつれて...なんか...母、家族だけじゃない何かがある気がしていて。
そんな思いをプスリと突き抜けてくれるダイアナの母、ティアラの言葉がまた、とてもいい。
さらにさらに、このお話の下敷きには「赤毛のアン」があるんですな。原作を知っている人はより楽しいかもしれない。私はアニメや絵本くらいの知識だったので、これから読もうと思う。あとがきにも、「赤毛のアン」と「本屋さんのダイアナ」について書かれてあるので、赤毛のアン未読者は、あとがきから読むのも面白いかもかも。
とっても読みやすかった。
なんか、うん。読みやすかった。
女子は共感で生きている。
なんて知り合いが言っていたけれど、そんな感じで読める。心に女子がいる人にはとても良いかも。
優しく包み込まれたい。
会えないあの子がいる。
そんな時に、どうでしょう。