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中東のカフェで「看板を作ってくれ」。ただし空気抵抗は無視できるものとする@ヨルダン

中東ヨルダンにある素敵なブックカフェに一目惚れし、「ここで働かせてください!」と暮らしていたときの話。(詳しくはこちら

●突然の「呼び出し」にドキドキ

当店の本屋に併設されたカフェ

ある日のこと。住んでいる本屋(ブックカフェ)でまったり過ごしていたら、なんの前触れもなく突然店長に呼ばれた。今までなら、私が呼ばれるときは同期のラウラとセットだったので、私だけが呼ばれるなんてちょっと奇妙だ。

「何!?」と思いながら店長の元に行くと、こんなことを言われた。「うちのカフェで『バナナミルクシェイク』を売り出すから、その看板を作ってくれないか。必要な道具はバイトリーダーのアリスに聞いてくれ」

店長「じゃ、よろしくー」

な、なにい〜!?私が、看板作り〜!?!?急なミッションにびっくりしたが「すごく楽しそう!」と、作らせてもらうことに。自分に任せてもらえたことも嬉しかったし、自分の作品が店に置かれるなんて、どんなデザインにしようかと妄想が一気に膨らんだ。

もしかしたら、この前私が描いたイラストを見て「任せてみようかな」と思ってもらえたのかもしれないな。


●看板の作成スタート!

(1)スマホのお絵かきアプリで、デザイン

まずは、デザインだ。「バナナミルクシェイク」と聞いた瞬間に、私はすでに頭の中にイメージができていた。そういう何か「テーマ性のあるもの」をポスターやパッケージのような「デザインに落とし込む」のは好きなのだ。

思えば私は小中学生の頃、合唱コンクールの楽譜や修学旅行のしおりなど「何かしらの表紙」によく、自分の提出したイラストデザインが選ばれていた。

線を書き、塗ってみた。「2JD」は値段のことで、そのまま「2ジェーディー」と読む。この頃は1JD=150円

さっそく本屋のカフェにこもって、スマホのお絵かきアプリを使ってデザイン案を描いた。「こんな感じでどう?」それを見た店長は「天才すぎる!それで頼んだ」と言ってくれたので、すぐに制作に取り掛かった。

(2)ずっしりと重い、木の板を調達

大工ルームに行って、アリスに「ちょうどこのくらいのサイズの、分厚くて綺麗な木の板ないかな?」と相談した。するとアリスは、まさにパーフェクトなサイズの木を手渡してくれた。

「でもこんなに綺麗な木の板は貴重だから、もし何かの『裏側』に使うためなら渡せないけど、みんなに見える『表側』に使うならどうぞ」とのことだった。確かにその板はツヤツヤで、大事に使わねば!と思うものだった。有り難くいただくことに。

鉛筆で大体の下書きをして、現地でサイズ感を確認

受け取った木に下書きをしてアリスに見せると、それを見るなり「その英語の書体、何を参考にしたの?」と聞かれた。特に何も参考にしていなかった私は「なんにも。ただフィーリングで描いたよ」と答えた。アリスは目をじっと見て「え?本当に?」と2回尋ねたあと、ゆっくり頷いて「それならもう、才能ね…」と感心してくれた。なんだかそこまで褒めてもらうと「あれ…私、何かを参考にしたっけ?」と不安になってきてしまったが、やっぱりこの字は私のオリジナルデザインである。とにかく嬉しかった。

(3)マシンで木を削る

みんなが各々「本屋にあった方がいいかな?」と思うものを作っている@大工ルーム

アリスに「こんなのを作ろうと思ってるの。まずは上の部分を丸く切り抜きたくて…」と相談し、電動ノコギリの使い方を教えてもらった。

さらに「せっかくならいい物にしなよ!背景部分を2mmぐらい掘ったら中心が浮き出て、さらに素敵になる。絶対やるべき!」と勧めてくれた。

上のカーブを切り落とし、中を2mmほど掘った

実は「背景部分を掘り下げる案」は私も一瞬思いついていたものの、ちょっと難しそう…と悩んでいたのだった。しかしアリスが背中を押してくれるならと、やってみることに。

もう1人の大工・イギリス人のデイビッドにも見てもらいながら、二人のおかげでなんとか掘り終えることができた。

(4)外に出て塗装する

側面も塗り塗り

いよいよ塗る作業だ。店にあるペンキを混ぜながら、欲しい色をその場で調合していく。塗装はなんだか「美術」と言うより「図工」だった。外で塗り塗りするのはとっても気持ちが良く、楽しかった。

ぽかぽか天気で、塗り塗り…

塗装の際、トレーナーを裏返しに着た。小学生の時に「習字がある日は黒い服で登校!」を徹底していた経験から、「インクで服を汚さない魂」が根付いているのだ。ラウラには「そのアイデア本当に天才!ジーザス!」と褒めてもらった。ただし、私は料理中にエプロンをしないので服の表側はどうせもう汚れているのだが、その事実及び空気抵抗は無視できるものとする。

(5)いよいよ設置、そしてクイズ

塗った看板を2日ほど乾燥させたら、いよいよ設置だ。カフェに持っていくと、バリスタの2人はとっても喜んで感激してくれた。

壁に掛けると、カウンターの奥行きで一気に小さく見える

「この看板には、バナナが4本あるんだけど分かる?」とクイズを出すと、ギャルなエジプト人のバリスタ・セリーナは「あるわけないじゃんw」と一蹴。私が「探してみて?」と目を見つめると、「え、、待って、ガチ?え〜でも、ん〜、3本しか無くない…?アンタ、どゆこと?」と困惑し始めた。

セリーナが降参したことを確認し、「4本目はここで〜す」と、値段を表す「2JD」の「J」がバナナになっていることを発表。するとセリーナは目をまん丸にして、「ファ〜!?!?!アンッッッッッタは本当〜に…天才だよ!?オラオラオラ!」と強く抱きしめてくれた。

●"みんなで"作ったシェイクの看板

塗装中、たくさん撮ってくれたアリス

この看板を作ったとき、みんなが「すごいね」と口々に言ってくれた。しかし私は「え!?いやいやいやちょっと待ってくれ」と慌ててしまった。

だって私がこの看板を作れたのは、作り方を教えてくれたアリスとデイビッドのおかげだし、ペンキを用意してくれていたのは店長だし、バナナシェイクを作れるバリスタの2人がいないと飲めないし…と、どう考えても「私の力で作った感」が全然感じられなかったのだ。

なんと言っても一番感謝しているのはラウラだ。2人いても精一杯のキッチンを私が抜けた状態で担当してくれて、私はその間「ぽかぽか♪塗り塗り♪」と楽しんでいたのだから。

当店のファミリー(全8人中5人)

きっとヨルダンに来る前の私だったら「私の作品を見よ!どうだ!」という気持ちになっていたかもしれない。しかしこの店でみんなに支えられながら生活することを通して「みんなのおかげなんだけど…」と本気で思ってしまう、新しい自分に気がついたのだった。


看板作り編・fin

●他にもある「この店の仕事」

●次の話:仕事を終え、店での「夜」の過ごし方

●本屋の仕事一覧
本を仕分ける業務
憧れの大工の業務
怒涛のキッチン業務
クッキーを作る業務
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退勤後の過ごし方

第1話 「ヨルダンの本屋に住んでみた」
本屋のルームツアー
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