店をどんどん素敵にする「大工さん」に心から憧れる、素人の私たち@中東の本屋
●本屋にある「大工ルーム」
この店にはスタッフ専用の「大工ルーム」がある。大量の木材・ペンキや、見るからに危ない大きな機械が置かれているのだ。いつもこの部屋の前を通るとけたたましい音が鳴り響いていた。
素人の私とラウラは知識も経験も無いが、大工の仕事に興味津々。時々この部屋で「木と木をつなぐ」「木を切る」といったちょっとした作業を体験させてもらっていた。ほんの少しでも携わることで「私も作ったんだぞ」と家具に愛着が出る。
私はこの経験を通して「既製品の家具」に初めて感謝を感じた。売られている家具も家も「誰かが作ってくれたもの」だなんて、今まで意識することが無かったのだ。なんだか初めての自炊で料理の有り難みを知った時みたい。
●どんどん制作!大工チームの仕事
当店の大工担当は、「フランス人のアリス」と「イギリス人のデイビッド」だ。彼らはさっきまで何もなかった空間に「物」や「部屋」を作っていき、それは魔法そのものだった。
私とラウラは二人の魔法を見るのが大好きで、よく鑑賞しに行っていた。大工のスキルがあれば「手に職」で世界に通用する。惚れ惚れするかっこいい仕事だなと思った。
●クリエイティビティ溢れる「アリス」
アリスの大工ノウハウは、数年前にマレーシアで開かれていた「大工合宿」で習得したらしい。「そこで数ヶ月間いろんな国のメンバーと生活していたよ」とサラッと言うが、きっと一晩かかっても聞き切れない物語があったことだろう。アリスは本当に人生経験が豊富だ。
そんなアリスの作ってきた物を一部ご紹介する。
アリスは壁にドリルで穴を開けて本棚を付けたかと思えば、カフェのメニューや壁画を指差して「私が描いたの」と教えてくれる。「大工」というより「アーティスト」だった。
そんなアリスは店長から絶大な信頼を得ており、「これ作っていい?」と店長に聞くのではなく、むしろ「君が必要だと思うならなんでもやってくれ」と言われているほどだった。
●火花を放つ「デイビット」
もう一人、イギリスから来ているデイビッドも大工だ。デイビッドは唯一私より後に来たスタッフだったが、彼もアリス同様に大活躍していた。
本屋で働いていて、たまに「誰もお客さんがいない時間帯」がふっと生まれる時がある。そんな時に「あ、今お客さんがゼロだねえ」と言うと「ノンノン。『今お客さんいないねえ』と従業員がつぶやくと、途端に店に客が押し寄せるんだ。不思議だが、世の中ってそうなんだ。だからそのセリフは言ってはいけないよ」とたしなめてくる。デイビッドとはそういう面白い男である。
昨日チラッと彼を覗いた時は、大きなガラスをどんどんカットして何かを作っているようだった。しかし今日は店長に頼まれて、外階段のフェンスを作っていた。
デイビッドは、台に置いた金属をじっと見つめている。「それは流石に切れないだろ」と素人でもわかるほど、固そうな金属だ。まさか切るつもりじゃないだろうな。
あろうことか、彼は金属をグッと左足で固定すると、大きな電動回転のこぎりで金属をカットし始めた。バチバチバチバチ!この世のデシベルとは到底思えぬ爆音を轟かせ、無数の火花が4mほどの高さまで飛び散っている。素人でもわかるが、これは危なすぎる。
まったく、なんてことだ!?「怪我人が出ないように」階段にフェンスを置きたいのに、これでは「そのフェンスを作るために」怪我人が出てしまうでしょうが!!!
私は彼に「本末転倒」という日本語を教えるため、作業の中断を要請した。
「デイビ〜〜〜〜ッド!!あなた、大丈夫なの!?すんごい音と火花よ!?」
私とラウラはあまりに心配で、作業の爆音に負けない大声を上げた。素人でもわかるが、このままでは「絶体絶命」だ。
私たちの想いが届いたのか、デイビッドは一度機械の電源を落とした。歯の回転が止まるとフェイスガードを爽やかに上げ、グッと親指を立てて「ニヤリ」とした。
「素人は黙ってな」
彼は何も語らなかった。しかしその親指に全てが詰まっていた。
それがデイビットという職人なのであった。
「大工」の仕事紹介編・fin
●次回:キッチンでの仕事はどうなの?
●第1話 「ヨルダンの本屋に住んでみた」
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