1.そもそも何故MVを作るのか
BtoB(Business to Business)のクリエイティブはMV制作よりも具体性が高いように思います。当然、話を聞く限りクライアント側がクリエイターに求める要望は漠然としたもので、それに対し具体的な提案をしていく点はMV制作でも同じですが、そもそも経営が成り立っている企業は「顧客の悩みを解決してお金を得ている」という前提があるので、大きな目的として「利益の拡大」があり、ヒアリングの際に何処へフォーカスを当てていくかは自ずと見えてきます。
それに対し、ミュージシャンがMVを作る目的は何でしょうか。多くのミュージシャンが「知ってもらうため」すなわち集客と答えるでしょう。しかし皆さんの周りの数えきれない程の数いるミュージシャン達が同じことを考え同じことを実践しています。その中で成功と呼べる施策はどれだけあるでしょうか。
私は企業とミュージシャンは似ていると思っています。しかし決定的に違う点は「営利を目的とするか否か」です。企業は問題に取り組み、解決することで人から感謝されお金を得ており、逆に言えば感謝されないことはしないし、「需要」に対し採算のとれる「供給」をビジネスとして展開しています。このことをミュージシャンに当てはめて考えると、売れているミュージシャンは意図して、またはせず需要に対し供給していて、売れていないミュージシャンは需要が無いものを供給していることになります。
こんなことを言うと「売れることが全てじゃない」なんて言われてしまいますが、仮にプロアマ含めこの世の全ての音楽が営利を目的として計算されていたとしたら、正直活動に苦しむミュージシャンは減ると思います。
音楽は人に聞いてもらうことが前提です。その需要が鍛錬によって変わるものなのか、それとも楽曲のジャンルを変えるべきなのか、そもそもの活動のコンセプトを明確にすべきなのか、それぞれ答えは違うと思いますが、MV制作においてこの点が非常に密接に関わってきます。
私がBtoBのクリエイティブの方が具体性が高いと感じる点はここにあります。例えば、これは本当に例えばですが、予備校を経営する企業があったとして、利益拡大のために大学受験生の生徒を増やしたいと考えたときどんな施策があるか考えたとします。競合他社の立地や学生の多い街は何処か等考慮すべき条件は多々ありますが、具体的に分析することができる明確なそれらがそのままクリエイティブのキーワードとなり、その予備校が抱えている問題に迫っていけます。
それに対しMV制作の場合、「集客」という目的に対し「どこに需要があり」「何を供給するか」という点が不鮮明なことがほとんどです。予備校が成立するのは「大学受験に受かりたい学生」に「学力」を提供しているからで、クリエイティブはその後「より%を上げるための施策」です。
MVを作ることで幅広い人達が自分たちの音楽に触れる機会を提供することができます。しかし、それ以前に需要と供給の意識ができていないと0%を何倍しても0%にしかなりません。
今回の話はINDIES SHORT MVの前置きとなりますが、これからMVを作るミュージシャンには是非その目的の具体化をしていただきたいと思います。それはそのMV単体の目的の枠を超えて、自分たちアーティストがどう見られたいか、どうあるべきで何を提供するかに及ぶ内容で、それによって得たリアクションの受け皿や集客へ繋ぐ導線まで準備しましょう。
ビジネスを意識すればする程「アート」が死んでいくと感じる人もいるかもしれません。ですが、「ビジネス」という言葉が何だか嫌な感じがするだけで、「求めてくれる人に求められたものを提供する」ということと同義です。求められたものを作る、もしくは求めてくれる人を作る、そこにある価値は死なないと私は思います。