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物語構成読み解き物語・15

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不勉強だから、「ファウスト」と「ウェルテル」しかゲーテを読んだことがなかった。その状態で「ファウスト」読み解きというと、なんだか天罰あたるような気がした。仕方がないから「親和力」と「ウィルヘルム・マイスターの修行時代」をとりあえず読んだ。たしかに優秀な人なのだが、面白くはなかった。古い。ドストエフスキーより古い。テンポ感のようなものが違いすぎる。それ以上は読むのを止めた。

図書館にはファウスト、ゲーテ関連書籍が結構あった。借りて読んで驚いた。みなさんものすごく調べている。見上げるような感覚である。昔のドイツ文学は今日の英米文学に該当する。凄く頭の良い人が、凄く勉強して調べ、膨大な研究書を書き上げている。それで「ファウスト」についてなんの結論も導き出していない、なんだそりゃあ。ああいうのはいったいなんなのか。知的誠実性というやつか。いやそうではないと思う。単なるチキンな態度だと思う。

私はそそっかしい上に思い込みが強く、さして勉強していなくても必ずこうであると決めつけやすい。自分で自覚しているから、これでも慎重になっているつもりである。しかし間違っていても自分なりに結論を出すのが研究の醍醐味で、結論出さないまま終わるメンタリティーは理解できない。勉強しすぎてプライドが上がって、間違えるのが怖くなっているのかもしれない。大丈夫だ、安心しろ、あんたがどんだけ勉強してもゲーテのような天才にはなれないから、と嫌味の一つも言いたくなる。凡人は仮説をぎょうさん立てるしか道はないのである。
「ファウスト」の難しさは第二部にある。第二部の章立て表は

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A-1:出世物語(経済的成功)
B-1:恋愛物語(魔術的成功)
C:古代のワルプルギスの夜
B-2:恋愛物語(軍事的成功)
A-2:出世物語(軍事的成功)

D:出世の後

となる。
これだけでだいたい全体構成わかる。まずは内容的な判断ではなく、構成的な判断である。わけのわからん内容でも、構成で攻めてゆけばそれなりに見通せる例である。前半の中心はC、古代のワルプルギスの夜だということが明白である。もっともその上で、ポイントをつかまえなければならない。通貨発行問題は読解の前提として、加えて

1、三位一体教義批判としてのポルキュアス(C)
2、時間ループの強調としての増長学生(C)
3、交易譚としてのバウキスとピレーモーン(D)

の3点はどうしても必要である。私が見た限りの解説では、これらポイントを捕まえられている人がいなかった。

この私なりの理解に基づけば、少なくとも日本での「ファウスト」の理解不足の原因は、結論が日本人にとって自明すぎたことにある。日本は元来太陽神は女性であるし、元来ループ時間である。改元のたびに元年が戻ってくる。その民族がキリスト教教義への女性編入に触れても驚愕できず、ループ時間に触れても驚愕できない。ありきたりの結論でしかないのである。それではとても世界文学最高傑作とは思えないから、ついつい他に意味があると邪推してしまう。

しかしそれは過剰期待である。ゲーテさんは大汗かいて時間と空間を旅行して、キリスト教世界観から脱却して日本風の平凡な世界観に到達したのである。なんちゅうか、キリスト教世界というのは大変である。頭脳を無駄遣いしている気がしなくもない。


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