老けた高校生の民主主義考⑥
第五章 民主主義再生計画②
2.政党政治の再検討
日本をはじめ、世界に存在する多くの民主主義社会は政党政治を導入している。政党にはもちろん意味があるからこそ、今までの政治の中で取り入れられてきたのだが、わたしは弊害も大きいと考えている。現代の日本において、政党を支持する人は少なく、直近の NHK による調査(2021 年 5月 1 日発表)によると、支持政党が特にない、またはわからない・無回答とした人の割合が合計で 約4割である。現在の日本の政治の舞台においての主要なプレーヤーは政党であるのにも関わらず、既成政党はかなりの数の国民から支持されていないのが現状なのである。
更に調べを進めていくと、はっきりと国民が政党に信頼を寄せていないことを示すデータが見つかった。非営利シンクタンク言論 NPO による「日本の政治・民主主義に関する意識調査」である。この調査では 1 問目に日本の将来に対する見解を聞いている。それによれば、回答者の6 割近くに上る 57.3%が悲観的である・どちらかと言えば悲観的であると答えている。具体的には「急速に進む高齢化と人口減少に関して、有効な対策が提示されていないから」が多く 85.2%となっている。2 位には「安心できる社会保障制度や年金制度がないから」が上がっており 65.4%、そして 3 位に「政治家や政党自体に課題解決の能力が期待できないから」が55.3%で上がっている。
更に第 2 問の、民主主義は機能しているか、との質問に対し、「機能している」と答えた人は 43.2%にとどまった。機能していないと考える理由としては「首相の姿勢」が最も多く 42.2%、次いで政党の機能不全が 39.5%、国会の議論の形骸化が 34.4%、と続いている。
更に、政党に課題解決を期待できるかを個別に聞いたところ、「期待できる」としたのは僅か 18.1%に過ぎず、他方で「期待できない」とした人は 59%に上った。理由としても最も多かったのは「選挙に勝つことが自己目的化し、政治家が課題解決に真剣に向かい合っていない」で 38%、次いで政党が政策を軸にして集まっておらず、「選挙に勝つための野合に過ぎない」が 37.1%、「政党の選挙公約が形骸化し、国民に向かい合う政治が実現していない」が 30.8%となった。
更に、民主主義を機能させるために、改革が必要な部分を聞いたところ、「国会」が最も多く 19.1%、「分からない」が 19.0%、「政党」が 16.6%となった。「民主主義を支えるどの機関を信頼しているか」を問うた結果は以下の通りである。最も信頼度が高いのが「自衛隊」で 72.7%、次いで「警察」が 67.1%、その次が「司法」で65.7%となっている。他方で信頼していない機関の上位には次のようなものが上がった。信頼していない人の割合が最も高いのが「政党」の71.2%、次いで「国会」67.4%、更に「政府」61.2%と続いている。
政党政治の問題点としては、どうしても政策がパッケージ売りになってしまうという事も挙げられる。ある政策では A 党を支持していても、別の政策に対しては B 党の政策を支持したい、といったことができないのが現状だ。有権者はどちらに重きを置くかを判断し、投票しなくてはならない。「選択的夫婦別姓に関しては A 党を支持したいが、経済政策を考えると選択的夫婦別姓に否定的な B 党を選ばざるを得ない・・・。」というような人が沢山出てきてしまう。このため、社会の変化を政治に反映できていない現状がある。
更に、政治が国民を十分に代表しえていないという事実は、社会の分断を生み出す。前章で紹介したいように、人々は潜在的に存在欲求を持っている。政治によって自らの主張が代表され得ていない、との不満を抱く人々は、この承認欲求が満たされていないことに不安感を覚え、ラディカルな政党や政治家を支持するようになっていく。また、政党の側もその不安感を癒すことで支持を取り付け、自らの権力の正当性を生むため、ことさらに他者との差異を強調することで、個別の人々の欲求を満たそうとするのは前章で紹介したとおりだ。このような状況下では、異なる立場をとる政党との歩み寄りや妥協は許されない。合意形成の主体となるべき政党が、分断の主役となっているのだ。
実際に党派性が社会に分断を生んでいる例を紹介しよう。アメリカで行われたアンケート調査である。「自分の子供が支持政党以外の相手と結婚したら不満ですか」との質問に対して不満だ、と答えた人の割合をみると、1960 年においては共和党員で 5%、民主党員で 4%だったものが、半世紀後の2010 年には共和党員で 49%、民主党員で 33%と激増している。この数字は「子供が肌の色の違う相手と結婚するのは不満だ」と答えた人の割合を大きく上回っている。党派性の違いによって人々が分断されている 1 つの証拠といえよ
う。
政治的な文脈における分断を専門用語で「分極化」と呼ぶ。この分極化は日本においてもみられる現象である。田中辰雄と浜谷敏の共著『ネットは社会を分断しない』(角川新書、2019 年)の中で彼らは、日本における社会の分断を象徴するデータとして、安倍政権の支持率の推移を上げる。評価は分かれるところだと思うが、客観的事実として安倍政権は社会的に大きな批判を巻き起こす法案や不祥事を生み出してきた。モリカケ事件、公文書改竄・隠蔽問題などがその代表格である。政策面でも、安保法制、共謀罪など大きな議論を巻き起こす法案を数多く成立させてきた。こういった事が起こるたびに、多くのメディアを通じて知識人が激しく批判しているのにも関わらず、安倍政権の支持率は 40%前後を維持し続けた。
これを、田中らは政権を支持する人々と、支持しない人々との間に深刻な分断が生まれた結果とみる。双方の声はもはや互いに届かず、互いにどんなに批判をしようと、この体制にもはや変化が見られないのだ。2016 年のアメリカ大統領選挙以降、トランプ政権の支持率が 40%前後を維持し続けた事とも酷似している。
日本においても、「政権を支持する層」「政権を批判する層」「どちらにも共感しない人々」という 3 つの党派性により社会が分断されているのだ。この 3 つのグループ間には互いに歩み寄り、妥協をするための共通の基盤が存在せず、互いの声が耳に入らない。
また、現在の政党政治の問題点として、国対政治があげられる事も多い。国対政治とは、国会における委員会質問などの公開の場ではなく、与野党の政党内組織である国会対策委員会同士、特に国会対策委員長の話し合いによって議会運営がなされている政治形態の事を指す。国会対策委員長は法的な根拠を持った役職ではないが、慣例的に各党が設置し、議会運営において大きな力を発揮している。質問時間の采配などをすべてこの国対が担うため、党執行部の意向に沿わない質問はしにくいなど、弊害が指摘されている。(お断りしておくが、歴代全ての国対委員長がそのような権力の振るい型をしたと言いたいわけではなく、あくまでそういった圧力になりうるという点を指摘するものである。)
また、「党議拘束」も問題である。党議拘束とは、議決の際の賛否について、政党に所属する議員が党の方針に従う事を義務付ける事を指す。我が国においては臓器移植法など、個人の倫理観に関わる法案に関し、例外的に党議拘束が外されて採決が行われたのをのぞき、原則、党議拘束がかけられている。
双方ともに、必要性があっての措置とはいえ、多様な意見を持った議員の意見を封じ込めかねない制度であるという事ができる。
このように見ていくと、現在の政党政治は、民主主義の成立条件として私があげた、「自由に意見が発表され、構成員が自らの意思決定に対し外的圧力を一切受けない状況」「意思決定過程において十分な議論がなされ、反対派・賛成派の間に相互理解がなされる事」という点から見て問題を含んでいるという事ができる。
また政党への期待感のなさが低投票率に繋がっているとも考えることができ、そうなのであれば、第一の条件への危機ともとれる。早急に検討しなくてはいけない。
私は、政党を新しい形に作り替えることを以下の通り、提案する。
1 .「政策パッケージ売り」型政党の廃止
最も理想的なのは、現在の他分野にわたる政策をまとめて取り組む形の政党を解体することである。先に述べたように、現状では政党という限られた選択肢は国民を代表できていない。現在も衆参両院で 713 人いる国会議員の中には多様な意見があることは容易に想像できるが、現状では政党の力が非常に大きく、それが見えてこないのが現状である。
現在日本の国政政党は、自由民主党、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会民主党、日本維新の会、れいわ新撰組、古い政党から国民を守る党(旧 NHK から国民を守る党)の 8 党である。この中で自由民主党と公明党は連立与党であり、議決における意見の相違はほとんど見られないことなどを勘案すると、多くても 7 通りの意見しか国会の場には反映されないこととなる。
確かに、スピード感を持って政策決定を行うには、あまり多くの意見が出すぎないほうが良い、との考え方もあるだろう。しかし、現状はこうだ。既存の政治によって自分たちは代表され得ないと考えている人々が圧倒的多数となっており、それが民主主義社会の根本を揺るがすものへと発展しつつある。このような社会において、スピード感を重視するあまり、政策議論に参与できる意見の幅を限定するのは得策ではないのではないか。
政党を解体したとき、最も大きな問題となるのは議会運営だ。現在は議会運営において政党が大きな力を発揮している。先ほど挙げた党議拘束や国対政治がその一例である。
政党を解体するとなると、従来の国体政治は成立しえなくなる。他の手はないものだろうか。
ここで注目したいのが、衆参両院の常任委員会の 1 つである議院運営委員会である。衆議院のホームページによれば、「本会議の開会の日取り、その議事の順序、発言者と発言時間その他議院の運営に関する事項、国会法及び議院の諸規則に関する事項、議長の諮問に関する事項などについて協議が行われ」るとのことである。この内容からして、この議院運営委員会が各政党の国会対策委員会が担ってきた役割を担うことは十分に可能なのではないだろうか。もう少し具体的に国会における議案審査の手段のオルタナティブを考えてみよう。
まずは現状の国会審議の過程を復習しておこう。まず法律案が内閣、あるいは国会議員から参議院または衆議院に提出される。内閣提出の法案が閣法、議員提出法案が議員立法と呼ばれるもので、現状では前者が圧倒的に多い。国会に提出された法案は議長により担当の常任委員会もしくは特命委員会に付託され、委員会で質疑、採決が行われる。委員会で採決された法案は各議院の本会議にかけられ、採決されるともう一方の議院に送られる。もう一方の議院においても同様に委員会質疑・採決と本会議採決が行われ、原則として両議院の議決が一致した場合に法案が成立する。両議院で議決が異なった場合には、憲法による衆議院の優越規定や両議院総会の設置など、特別の規定があるが、例外的な場合でありここでは詳しく触れない。
現在のこの流れの中では、政党がその主なプレーヤーである。委員会、本会議では政党を最小単位に賛成・反対に分かれ激論が交わされる。現状では衆議院での多数党である与党の代表が内閣総理大臣となるため、与党は政権擁護を担い、閣法を成立させるべく努力をする。野党は7~ 8 割の法案に賛成しているが、意見が割れる議案については徹底的に追及を繰り返す。報道では連日厳しく総理に詰め寄る野党議員の映像と、それにのらりくらりと答える総理をはじめとする閣僚の姿が映し出される。特に最近では、「批判ばかりの野党」「逃げる政権」という印象が国民の中に染み付き、政治に対するネガティブな印象が高まっている。私はこの体制を変え、国会をより建設的な議論の場として成立させるアイディアの創出を試みたいと思う。
政党を解体するのだから、政党ごとに賛成反対に分かれ攻防を繰り広げる、というわけにはいかない。だが、一定程度賛成勢力と反対勢力に分かれ質問時間の配分などを考えて議会運営をする必要はある。そこで、こうしてはどうだろうか。内閣、または議員によって法案が議会に提出された場合、各議員はその法案を見て、その時点での賛成派・反対派に分かれ登録を行う。この登録に基づき賛成派・反対派はそれぞれ議会におけるその法案の審査の過程の交渉などを行う代表を選出する。賛成派・反対派への質問時間の配分などに関しては両議院の議院運営委員会が配分を行うが、与えられた時間内で誰を質問に立てるか、などを決定する現在の国対委員長的役割をこの代表が担う。そもそも賛成・反対に二分できない多様な意見を代表しうる政治を理想としているため、当然賛成派・反対派の中にもそれぞれ多様な意見が含まれることを留意しなくてはならない。そのため、賛成派、反対派の中でもそれぞれ公開の国会の場で議論を行うものとする。賛成派の中には総論賛成・各論反対といった議員が含まれる可能性もあるため、賛成派の中でも法案に対する最終的な詰めを行い、議決を行って賛成派としての最終案を取りまとめる。その法案が閣法であった場合、内閣に修正を求めることとなる。内閣は原則この求めに応じなくてはならない。
反対派の中には更に多様な意見が内包されることが想定されるため、いくつかの代替案を提出し、反対派の中で議論・採決を行って反対派として提出する代替案を作成する。代替案の提出を原則とすることは、反対派が批判に終始することを避け、建設的な議論の場を作り上げることにも資する。法案が議員立法であった場合、賛成派・反対派がそれぞれの内部で議決を行った最終法案を元に、議員間討議により相互に質問を行い、議論を戦わせた上で採決を行う。閣法であった場合にも賛成派・反対派による議員間討議は行うが、同時に従来通りの対政府質疑も行った上で採決を行う。なお、議論を交わす中で当初の意見と異なる意見を持つようになる可能性も担保しなくてはならない。当初賛成派に登録していても、議論の後、採決では反対に票を投じる事、またその逆も許される。
このような過程を踏むことで、より多様な意見が国会の議論の俎上に乗り、国民の多様な意見が反映されやすくなる。少なくとも現状よりは、国民が自分の事を代表しえる意見が政治の場にあることを確認しやすくなるだろう。なお、大きく賛否が分かれない法律案については、現状通り各担当委員会の采配によって質問を組み、採決を行えばよいだろう。また、議論に時間がかかりすぎるとの問題点も指摘されるだろうが、緊急性を要する法案については迅速な議論が行われるよう規定を設ければ良いのであって、特に緊急性はないものの、国民の関心の高いテーマについて上記のような方法を導入してはどうだろうか。
これに付随して、内閣の制度、選挙制度についても変更を行う必要が出てくる。私はそれぞれ以下のように変革することを提案しようと思う。
2 内閣制度
現在は、日本は議院内閣制を採用しており、議会において選任された内閣総理大臣が内閣を組織する。原則として、議会の多数党である与党の代表が総理となり、自らの党に支えられて政権運営を担っている。1で述べたように政党の形を変えると、この内閣制度も変革を求められることになる。私は、大臣ごとに議会が選挙を行うのがよいのではないかと考える。例えば、経済政策を担当する経済産業大臣には緊縮財政を進める A 氏を、法務大臣には同性婚を進める B 氏を、というように、担当政策ごとにもっともその時求められている政策を進められる人物を登用してはどうだろう。内閣総理大臣は全ての大臣、省庁の利害を調整する役割を担う。このことにより、3 で述べた「社会問題 A に関しては A 党の考え方でやってほしい。でも、社会問題 B に関しては B 党の考え方がいいと思う。両方は選べない!どうしよう!」というジレンマが解消されるのではないだろうか。
3 選挙制度
3 で述べたように政党の形を変革すると、当然選挙の形も変わらなければならない。現在の選挙は政党本位で行われている。より多様な意見を政治の場に反映させるため、私は「液体民主主義」に着目したい。これは有権者が投票する際に賛成の度合いに応じて一票を複数の党に割って投票することができるようにしよう、という考え方だ。政策の賛成の度合いに応じて、「A党に0.7票、B党に0.3票」という具合に投票できるようにするのだ。更に、自分の投票権を信頼できる識者に委任する、というアイディアも聞かれる。
2000 年代にストックホルム郊外の地域政党が導入をはじめ、現在、ドイツなどの新興政党「海賊党」の党内意思決定などに取り入れられている。また、ドイツ連邦議会の部会の市民参加のツールとしても使われた。日本においても、日本社会にあった液体民主主義実現を目指してソフト開発を進める企業が存在する。誰か 1 人の政治家に総合的に委任してしまうのではなく、分野ごとに委任する程度を決める事ができるこの制度は、ここまで述べてきたような政党の解体をしたときの選挙制度として最適ではないか。
続く・・・
参考文献(シリーズ共通):
『民主主義 』 文部省著作教科書 文部省 角川ソフィア文庫
『詳説 世界史 』 木村靖二 ・岸本美緒・ 小松久雄 山川出版社
『日本国憲法の論点 』 伊藤真 トランスビュー
『アフター・リベラル 』 吉田徹 講談社
『リベラルの敵はリベラルにあり』 倉持麟太郎 筑摩書房
『民主主義という不思議な仕組み 』 佐々木毅 筑摩書房
『GLOBE』 通巻 234 号 朝日新聞社
『熟議民主主義ハンドブック 』ジョン・ギャスティル他 現代人分社
『セレクト六法 』 岩波書店
『直接民主制の論点 』 山岡 規雄 国立国会図書館
『代表制民主主義と直接民主主義の間』 五野井 郁夫 社会科学ジャーナル
『日本の思想 』 丸山眞男 岩波書
内閣府「子供・若者の意識に関する調査」 2019 年実施
NHK「日本人の意識」調査 2018 年実施
言論 NPO「日本の政治・民主主義に関する世論調査」 2018 年実施
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スイスの直接民主主義 制作:swissinfo.ch、協力:在外スイス人協会