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#53 留学生とバイトと日本語と

 みなさん、こんにちは。英語講師のふえですが、今日は日本語教師としての記事です。
 日本語を教える仕事をしていますが、学生が日本語学校で勉強するのは毎日4時間。当然それ以外の場で日本語に触れる時間の方が長いですから、言語の使用にいろいろな影響を受けてきます。
 今日は、この半年で彼らを指導していて発見したこと、興味深かったものなどを記事にしてみます。

助数詞の話

 助数詞の授業をしていたときのことです。ペンは「本」、テレビは「台」などと学生たちの知識を確認していました。そして、「匹」を期待して「魚は?」と聞くと…ある学生が「枚」と答えたのです。読者の皆さんは、なぜだか想像できますか?
 実はこの学生、魚の加工工場でアルバイトをしていたのです。故に、普段数えるのは生きている魚ではなく、捌いて開かれた魚…だから「魚」に対する助数詞は「枚」と認識していたのです。
 もちろん日本語ネイティブは生きている魚を見れば1匹2匹、干物を見れば1枚2枚と自然に使い分けることができます。しかし、助数詞のない言語を母語とする学生からすれば「どっちも魚じゃないか!!」となるわけです。

居酒屋のバイトで…

 先日、教科書に電化製品が登場したので、「チンする」という言葉を知っているか教室全体に聞いてみました。多くの学生が「???」という反応の中、居酒屋でアルバイトをしている学生だけが、電子レンジで温めることだと答えられました。その学生も、最初は「チンして!」と先輩に言われてなんのことやら…という感じだったようです。語源を教えたら、学生みんな納得していました。
 さて、この居酒屋でバイトしている学生からこんな質問をいただきました。

この前、唐揚げを「あげて」と言われて揚げていたのだが、その後でまた「あげて」と言われてどうすればいいかわからなかった。あれは何だったのか。

 みなさんお分かりの通りですが、最初の「あげて」は「(鶏肉を油で)揚げて」でした。そして2つ目の「あげて」は「(完成した唐揚げを油から引き)上げて」でした。同音異義語の妙ですね。
 日本語ネイティブには「これ揚げて。揚がったら上げといて。」が「これ(を油で)揚げて。(それが)揚がったら(油の中から引き)上げといて。」とちゃんと通じるわけですが、それで伝わっている方がむしろ奇跡なのでは?とも思います。

夏休み明けの作文で…

 夏休みはもちろん授業はなく、彼らの生活はアルバイトと自主学習(本当にしているかは別として)で成り立ちます。そうなると、教科書通りの正しい日本語でないものに触れる機会も多くなります。
 夏休み明けに「夏休みの思い出」というタイトルで作文を書いてもらったところ、ある学生が「めっちゃ楽しかったです」と書いていました。
 いや、まあ、あの…わかりますよ?でもあなた、ちゃんと「とても楽しかったです」と書けていたじゃないですか!
 「めっちゃ」を否定はしませんが「学校の作文に使う言葉ではありませんから」と、訂正をお願いしました。
 ちなみにその後同じ学生が「ヤバいもダメですか?」と質問してきました。…もちろん作文ではダメです!偉いのは、「めっちゃ」がダメなら「ヤバい」もダメかもしれないと判断できたことですね。これは賢い。

正しい表現を教える意義とは

 よく英語教育でも「ネイティブスピーカーはそんな言い方しない。」とか「こんな文法やっても会話できるようにならない」とか、そういった風潮があったりなかったりしますよね。もちろん学習の目的にもよるのですが、個人的には、やはり正しい文法や正しい知識を身につけることには価値があると考えています。

①誤解を生まない表現ができる
 正しい表現ができると、誤解が生じにくくなります。円滑なコミュニケーションが可能になるというわけですね。「この人とは話が噛み合わないな」と思われてしまうのは、その人にとっては損なことですよね。正しい語彙、正しい表現を身につけることは、良い人間関係を構築することに繋がります。

②その言語学習の最終地点とは
 例えば、語学の目標として「海外旅行である程度通じるくらい」を目指すならば、文法は気にせず、よく使う単語や表現だけ暗記すればいいと思います。旅行行くためにbe動詞から始めるのは効率が悪すぎます。
 私が日本語学校で指導している学生たちは、将来的には日本の専門学校や大学に進学して、日本で就職したいという人が多いのです。それを目指すなら「通じればOK」程度の言語能力では生き抜くことができません。だから、私は通じるかどうかと正しいかどうかのジャッジを分けて伝えるようにしています。

最後に

 今日は留学生がアルバイトから獲得する語彙について書きました。お勤め先に留学生がいる方は、ぜひ良い言葉や良い表現を吸収させてあげてくださいね。
 留学生のバイトや日本語について、何か思い出があれば、ぜひコメントもいただければと思います。

次回更新は10月24日(木)正午の予定です。

応援したい、一緒に頑張りたい、参考になった、この人の指導を受けたい、と思った方はぜひサポートいただければと思います。起業の準備資金に充てさせていただきます。