片手鍋を改造して焙煎の再現性を高める方法【見た目はヤバめ】
片手鍋での珈琲豆焙煎、楽しいですよね。
この度「片手鍋に温度計をくっつける」という改造を施したことで、焙煎がさらに楽しくなってしまいました。
案外カンタンに実践できるので、方法と効能をシェアしたいと思います。
ひとつ注意点があるとするならば、見た目が全っ然オシャレじゃないということです。
鍋のアタマに電極が刺さっているような、マッドサイエンティスト感のあるビジュアルになります。
それでもかまわないという方は、ぜひマネしてみてください。
なぜ改造しようと思ったのか
改造の具体的な手順解説に入る前に、まずは片手鍋を改造するに至った経緯をご紹介します。
本題とは関係ないうえにそこそこの文量になってしまったので、手短に結論を知りたい方は、「どうやって改造したのか」の見出しまでジャンプしていただけると幸いです。
私が片手鍋を改造しようと思った理由。
それは「焙煎の再現性を高めて、常に安定した品質の豆を焼きたい」と考えたからです。
片手鍋焙煎には、あまりにも変数が多い
片手での鍋焙煎には、非常に多くの変数が存在します。
「変数」というのは、固定化されていなくて、自由度高く変化させられる要素のこと。
ざっと思いつくだけでも、以下の9つがあります。
これだけ変数が多いと、焙煎の成否を分ける要素を特定するのが難しくなります。
つまり「今回の焙煎はめっちゃうまくいった!」というときと「なんか今回はイマイチやな・・・」というときとで、その差を生んでいる要因が一体何なのかが、はっきりと見分けられないのです。
「火力が違ったのかな?それとも鍋を振る頻度が違ったのかな?いや、それとも・・・?」といったように。
これだけの変数の多さに対し、焙煎中に状況を把握するための手がかりは、豆の色とフタにつく水蒸気とハゼの音だけという心もとなさ。
今にも消えそうな提灯を片手に、洞窟の中を進んでいくような気分です。
ユニオンのサンプルロースターを買いかけたが、手に入らなかった
さすがにこんな肝試しみたいなことをいつまでも続けてられないぞ、と思い、もうちょっと本格的な焙煎機に手を出してみようと考えました。
それが、ユニオン株式会社さんが製造・販売している「ユニオンサンプルロースター」です。
これは、手焙煎をしている人にとっては憧れといってもよいアイテムなのではないでしょうか。
エレキギターを始めた少年がFenderのストラトキャスターを買うためにお年玉を貯めるように、自家焙煎にハマった大人はユニオンのサンプルロースターを欲するのです。
そんなわけで、連日悩みに悩んで、とうとうユニオンのサンプルロースターを買おうと思い立ちました。
なぜかユニオンの公式サイトが見つからないので、楽天市場にて購入。
(でも、さすがにこれだけ有名な会社さんで、公式サイトがないわけないですよね・・・。ユニオンさんの公式サイトをご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください)
期待と決意によって震える指で注文を確定させ、あとは到着を待つのみ。
ところが、注文から3日ほど経って、ショップからメールが来ました。
「現在商品を仕入れようと思っている段階で、まだ発送のメドが立ってません。いつになるかは不明ですが、発送が済んだらメールします」
いつ入荷するかわからないものを「在庫アリ」の表示で販売すんなー!!と思うと同時に、「あなたはまだ片手鍋焙煎でやり残したことがあるんじゃない?」という天使のささやきが聞こえてきた気がしました。
かくして、私はサンプルロースターの注文をキャンセルし、片手鍋焙煎で再現性を高めるための工夫を模索することにしたのです。
変数を一網打尽で把握するための指標があることに気づく
天使のささやきに耳を傾け、考えること3日間。
「そっか、温度を測れるようにしたらええんや!!」とひらめきました。
ってまぁ、あたかも大発見のように書いてしまったのですが、ちょっと考えてみれば普通にわかることです。
先ほど挙げた9つの変数のうち、「9.焙煎時間」を除く8つは、すべて「温度」と密接に関係することがわかります。
火力を弱めれば温度が下がる、鍋を頻繁に振れば温度が下がる、フタを開けっ放しにすれば温度が下がる・・・といったように。
そう、「温度」がわかれば、複雑に絡み合っていた変数たちをある程度は網羅できるのです。
これは偉大なる諸先輩方がすでに発見済みで、経過時間と温度との関係性をグラフ化した「プロファイル」や、豆の温度上昇幅を表す「RoR(Rate of Rise)」といった用語も存在しています。
さて、すっかり前置きが長くなってしまいました。
いよいよ、具体的な改造の手順をご紹介します。
どうやって改造したのか
改造方法は、至ってシンプルです。
用意するものは以下の5つ。
手順は以下の3ステップです。
順にみていきましょう。
【手順1】片手鍋のフタの取っ手をドライバーで外す
今回の改造計画では、フタの取っ手の部分を温度計つきのコルクに差し替えます。
よって、まずはフタから既存の取っ手を外さなければなりません。
片手鍋によって外し方は違うかもしれませんが、たいていはドライバーでネジを外せばOKだと思います。
【手順2】温度計をコルクに刺す
取っ手の代わりに取り付けるコルクに、温度計を貫通させます。
私は「ThermoPro」というデジタル温度計を購入しました。
コルクの入手方法ですが、ワインをよく飲む方であれば容易に手に入るでしょう。
我が家にはワインを飲む人がいないので、100均で買ったガラスケースの台座部分を流用しました。
【手順3】コルクを片手鍋のフタに固定する
最後に、温度計の刺さったコルクを片手鍋のフタに固定して完成です。
普通に見た目が汚いので、よりよい固定方法を模索したいなとは思っています。
こんな感じでコルクを取っ手代わりに使えて、便利です。
たったこれだけの手順で、マッドサイエンティスト片手鍋の完成です。
あとはこいつを使って温度を測りながら焙煎を楽しむだけ。
改造してみてどうだったか
鍋が完成しただけで喜んでいてはいけません。
実際に使ってみてどうだったのかをご報告したいと思います。
参考にした焙煎プロファイル
せっかく焙煎中の温度をリアルタイムで測れるようになったので、プロのロースターさんの焙煎プロファイルを参考にしたいと考えました。
そこで見つけたのがこちら。
焙煎プロファイル『誠-MAKOTO』 | dongree
おおむね以下のようなプロファイルになっています。
このグラフを見つつ、同じような温度の推移になるよう調整しながら焙煎をしていきます。
【事前準備】鍋の余熱
まずは、弱火で鍋を温めます。
空焚きになるのですが、調べてみたところ260度くらいまでの加熱ならとくに問題が起こらなさそうなので、自己責任でおこなっています。
マネされる場合は、換気をする・火の元を離れない、といった点に注意してください。
温度計が200度を指したら、一度火を止めてしばらく放置し、140度くらいまで温度を下げます。
なぜわざわざ温度を上げてから下げるのかというと、鍋底だけが局所的に熱くなっている状態ではなく、鍋全体がほっかほかになっている状態で焙煎を開始したいからです。
【0分】生豆投入
温度が140度まで下がったら、いよいよ生豆を投入します。
生豆を入れると、鍋内の温度は一気に下がります。
これは、フタが開くことで外の空気が入ってくることと、常温の生豆がドドドと流れ込んでくるためです。
【1~5分】水抜き
参考プロファイルを横目で見つつ、弱火でじわじわ温度を上げていきます。
温度の上昇幅は、火力よりも鍋振りでコントロールする方が、細かな調整がしやすい印象です。
片手鍋のフタに水蒸気が付き始め、青白かった豆の色は、次第に黄色味を帯びてきます。
【6分~8分】焙煎~1ハゼ
5分を経過したあたりから、参考プロファイルのグラフの傾きが少し大きくなってきます。
つまり、火力を少し上げる必要があります。
火力を大きく上げすぎると、焦げたり1ハゼと2ハゼの境目がなくなったりといった問題を引き起こすので、ここでも細かい温度調整は鍋振りの回数や頻度でコントロールするのがよさそうです。
【9分~11分】1ハゼ
甘い香りのする煙が立ち上る頃、プツプツと豆のハゼる音が聞こえてきます。
このあたりから再び、参考プロファイルのグラフの傾きが緩やかになっています。
つまり、火力を抑えてあげる必要があるということです。
1ハゼ開始後に温度上昇幅を抑えるのは、150度~160度あたりで発生する「メイラード反応」という化学反応を上手にコントロールすることにつながります。
メイラード反応は、甘味や香りを引き出してくれる化学反応で、中深煎りのコーヒーにとって非常に大切な要素です。
【12分~13分】2ハゼ・煎り止め
1ハゼが終了して1分ほど経つと、ピチピチと豆のハゼる音が聞こえてきます。
これが2ハゼ。
2ハゼがピークに達し「ピチピチピチピチ!!」と活きの良い音を立て始めたあたりで、コンロから鍋をおろし、焙煎を終了しましょう。
焙煎後の豆は、速やかに冷風ドライヤー等で冷ましてあげます。
【気づき】フタは閉めっぱなしでよさそう
片手鍋焙煎に介在する変数として挙げていた「フタの開閉」ですが、実は不要なのかもしれない・・・というのが、温度計測しながらの焙煎でわかってきました。
これまで「フタを閉めっぱなしにすると煙が鍋の中に滞留してしまい、焙煎後の珈琲豆にスモーク臭がついてしまうのでは」と思っていたのですが、案外そうでもないのです。
というか、むしろフタを開閉することがスモーク臭の原因になっているのでは?とすら感じています。
というのも、フタを開閉すると温度が下がってしまうので、温度上昇幅を保つためには、どうしても鍋振りの頻度を落としたり、火力を強めたりする必要があります。
それが豆の表面が焦げることにつながり、結果的にスモーク臭の原因になるのでは・・・と推測しているのです。
あくまでも推測ですが、これまでの焙煎の傾向から考えるに、そこそこ当たっているような気がします。
【結論】カンニングしながらテストを受けている感覚
温度を把握した状態で焙煎を進めることが、ここまで心強いことだとは思いませんでした。
これまでとは安心感が段違い。
「あ、ちょっと温度の上昇幅が小さいな、少しだけ火力を上げるか」「そろそろ1ハゼがくるはずだから、火力を抑える準備をするか」みたいな感じで、先が見通せるのです。
まるで斜め前に座っている超優秀な子の答案用紙を見ながらテストを受けているような感覚。
次に何がくるのか、正解は何なのかがある程度わかった状態で焙煎を進められるので、めちゃくちゃ安心です。
片手鍋焙煎の再現性の低さに心細さを感じている方がいらっしゃいましたら、ぜひとも試してみてください。
私は、もう、温度計なしの片手鍋には戻れません。
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