49%の負の感情と51%の責任感と希望の間で〜アソビュー山野代表から学ぶ〜
電光石火! わずか4か月での逆転劇
4/12 O. A. のNHKドキュメンタリー番組『逆転人生』(録画していたの)を見て、経営(経営者)というもののリアルについて、めちゃめちゃ学びや気づきが多かった。備忘録を兼ねて書き留めておきたい。
電光石火! 4か月の逆転劇
コロナ禍で売上ゼロから過去最高益(2020年度8月期、前年度比で4倍)
観光レジャーの予約サイトを運営し、急成長していたベンチャー企業。新型コロナウイルスの影響で売上はゼロに、投資家からも見放された。しかし経営者の山野智久さんは、「事業を継続し、一人も解雇しない」と決意。社員を一時的に出向させる新たな仕組みを作りあげた。さらにコロナ禍で生まれたあるビジネスチャンスに気づき、売上ゼロからわずか4か月でまさかの過去最高益を達成。吉村崇、河北麻友子も驚いた電光石火の逆転劇。
上記画像は https://www.nhk.jp/p/gyakuten-j/ts/JYL878GRKG/episode/te/46MQ4227PZ/ より転載
実際に見られた方も多くいらっしゃると思う。
『ピンチをチャンスに』というが、現実はそんなきれいな言葉で終わらせられるほど単純なものじゃないし、生易しいものじゃない。売上ゼロからV字回復を成し遂げた経営者(アソビュー代表取締役 山野智久 Tomohisa Yamano)の苦悩と葛藤に、心を突き動かされた。
#外見はチャラい印象を与えるかもしれませんが、中身は全然違います (キリッ)!
#山野さん、申し訳ありません
打ち手や事の顛末は、NHKオンデマンドでの見逃し視聴か、以下のnoteを参照いただくとして、
昨対比430%成長で奇跡の復活。コロナ禍のドン底で唯一大切にした「顧客起点」の考え方|山野 智久 @アソビュー|note
緊急提言:災害時雇用維持シェアリングネットワークの必要性|山野 智久 @アソビュー|note
心をわし掴みにのは、本人曰くカセットテープ(例えが古くて若い人には伝わらないかも)のB面、つまり1人の人間としてのリアルな感情です。
葛藤であり、(冷酷な現実を目の前にして何もできない)無力さ。藁をもつかむ思いで投資会社に助けを求めても、けんもほろろ(「コロナ案件」とかマジでバイキン扱い)。でも、そこからかすかな光・希望のかけらを見つけてかき集めて這い上がろうと山野さんは、なりふり構わず必死にもがくのだった。
「このままじゃ終われない。ダメだったらその時だ。」
葛藤
数字がゼロ行進していくなかで、積み上げてきたものが予期せぬ出来事で終わりを迎えることを知り、先が見通せない状況で「倒産」の文字が頭をよぎりました。
終わったら楽になるかもしれない。倒産か、縮小か。
せめて、縮小したら変数が減り、経営の難易度は下がる。
倒産したら従業員はどうなる?
ご期待頂いているお客様は?
連帯保証の借入はどうする?
縮小して同じことまた10年頑張れるだろうか?
一度も諦めなかったといえば格好が良いかもしれません。しかし、実際のところは最悪の事態が常に脳裏にちらつきつつ、葛藤を抱えながらの日々でした。
無力さ
業務委託・アルバイト・インターンの方々とは契約延長の提案ができず、3月末ですべて契約満了、解散となりました。古参の業務委託やアルバイトのメンバーには私から直接連絡しました。
これは創業して一番悔しく、不甲斐なくて、申し訳ないと思った出来事でした。そんな状況の中、多くのメンバーが理解を示してくれ、中には励ましのメッセージをくれるメンバーもいました。それが尚更、不甲斐さを痛感させました。せめて一言文句を言って欲しい。なんなら罵倒でも良い。己の無力さを痛感した瞬間でした。
かすかな希望
<運転資金(ランウェイ)の精査>
全ての経費項目を自ら確認しました。その時、有事の今となっては削減できるコストがある事に気が付きました。また、支払いの多少の遅延を承諾してくれる会社も出てきました。販管費を切り詰めるだけ切り詰めたら、キャッシュアウトまで7ヶ月。さらにネガティブシナリオの中でも妄想が全部うまくいったら、この有事が続いても2年は生き延びられるかもしれないという微かな光が見えてきました。
学びと気づき
1.「顧客のためにできることをやる」という顧客起点への回帰
今回のケースのようにコロナ禍で観光・レジャーの市場が吹っ飛び、今までやってきた仕事が一切無くなってしまい、本当に何も無くなった時に、果たしてどうすればいいのか。そんなときには、シンプルに「顧客のために出来ることは何か」をとことん考え、できることをやるしかない、ということだ。
山野さんは、この顧客起点の考え方に原点回帰することで、実質430%成長を導き出す効果的なアイデア(「日時指定チケット」システム)を生み出すことに成功した。
2. 解決の突破口・ヒントは現場にある
3密を避けて入場者数のピーク分散を図る日時指定チケットシステムのアイデアは、営業担当(営業部長?)が池袋にある水族館のお困りごと、pain point (営業再開したいがどのように入場者数コントロールをしてよいか分からない) を聞いてきて、そこに着目したのが始まりだ。
文字にしてしまえば至極当然のことであるが、解決の突破口、ヒントは現場にしか転がっていないのだ。そうした顧客の困りごとやpain pointに気づくか、経営層やリーダーが察知できるかが勝負の分かれ目と言える。
3. 上位の共通目的に昇華させたり大義を説いたりして意見の対立を解消する
オンエアでは、何としてでも1回目の緊急事態宣言解除後の水族館営業再開に日時指定チケットシステムのリリースを間に合わせたい山野社長と、システム開発には半年かかると主張する開発部隊の米山PJリーダーとで言い争いとなり、両者の関係が険悪となってしまう。そこで、電話を切って頭を冷やした山野社長は、今回のシステムを開発する意義やそれができた際の影響力の大きさを説き、レジャー産業のあり方を変える(日時指定チケットが普及すればレジャーがもっと楽しくなるはず)という思いの丈を伝える。それを聞いた米山PJリーダーは後日、開発の考え方、やり方を見直した提案を山野社長に行って、日時指定チケットシステム開発が動き出す訳だ。
リーダーたる者は表面的な対立にとらわれることなく、より上位の共通目的に昇華させたり大義を説いたりすることで、意見の対立を解消することの大事さに気づかされた。この考え方は、会議におけるファシリテーターに求められる/必要とされる能力とほぼ同じであろう。
4. 有事のときこそ会社の経営状態をガラス張りにして共有する
会社や事業部門の経営状況が芳しくない、数字が悪い。どうしてもリーダーは不都合な事実を(保身もあって)隠したくなるもの。しかし、有事の際、社員(従業員)が最も不安を感じるのは、実は会社の運転資金が日々少なくなっていくというfactよりも、事実を「(知りたくても)知れないこと」「(タイムリーに)教えてもらえないこと」だということを教訓的に教えてくれている。
そこを押さえていた山野さんは、とにかくdailyでslack等あらゆるチャネルを活用して、会社の経営状態、意思決定やその背景を自らオープンに発信し可視化するということを有言実行している。
最後に 〜経営者としての覚悟と矜持〜
山野さんご本人のnoteから抜粋して締めたい。世の中も、経営も理不尽なことだらけ(そこまでのリアリティ、手触り感が正直ないまま正直書いています、すみません)ではあるが、最後の最後は、自分との戦いであり、「思いの丈の強さ」しかない。
長くて険しいイバラの道のりを行くには「バランス感覚」が重要なのだと気づかされたのだった。
企業のリーダーとして、49%の負の感情と51%の責任感と希望の間でゆらぎながら、挫けそうになりながら、かすかな希望のかけらを集めてなんとか生き延びてきました。チーム全体で、ステークホルダーの皆さまと共に物語を紡いできました。
どんなに完璧に見える人も、強く見えるリーダーも、当たり前ですがみんな人間であり、常にB面の感情を抱えて生きています。役割上でそれを伝えたくなかったり、距離の関係で感じられなかったりするだけです。