軟骨肉腫日録[転移篇]4 退院後
11月1日
肝胆膵内科で朝1番に診察してもらいました。
血液検査のデータに基づく肝機能の説明でした。手術前に異状も見えなかったし、最近になって急に回復していることからも、麻酔剤が影響していたのではないかということでした。ただし、血液検査のデータがすべて出揃っていないこともあり、退院後しばらくようすを見ながら2週間後に再検査と再診察を受けることになりました。
付随的に受けた説明では、一般的に検査されるγGTでは基準値内にあるように見えても、もう少し詳細なIgAという項目で異常値である場合はアルコールなどで肝機能がダメージを受けているかもしれないということでした。日常生活に支障がなくても、今回のような負担がかかった場合には何らかの反応があらわれるということでした。
肝臓に効く薬はない、というのは初耳でした。体内に入った薬剤を代謝するのが肝臓の仕事だから、どんな薬であったとしても新たな投薬は肝臓を助けるのではなく負担を強いることになるということでした。
だとすると自然治癒しかないわけですが、アルコールを控えることで肝機能は回復するかというと、年齢などの条件もあり一概には言えないということでした。休肝日などというものがどれだけ有効か、年齢にもよるがかなり疑問だという口調でした。
肝機能の数値はここ数日で改善したとはいえ、血液検査の結果一覧では、異常値を示している項目が多数あり、回復途上のようです。退院したからといって、まだまだ健康状態ではないということは心しておくべきだと思いました。
入院費の清算をしました。
10日余りの入院と手術で20万円弱の自己負担。日本の健康保険制度はありがたいと思います。
11月2日
退院して一夜が過ぎました。
昨日は帰宅後、ウトウトしている妻を横目にスーパーまで一人で買い物に出かけ、夕食をつくりました。
スーパーでは階段を三階まで早めに上がってみました。病院での階段上りほどではありませんが、少し呼吸が苦しくなりました。ただ、手術前にはあまり意識していなかったので単純に比較できませんが、やはり以前よりは息苦しくなっていると思います。まあ、肺の一部を切除したのですから。
今朝も入院前と同じように家族の朝食と弁当をつくりました。
家の近辺を所用で歩きましたが、息切れはありません。一、二度小走りをしてみると、以前とは違って呼吸が荒くなりやすいような気がします。
午後、施設に入っている義父を見舞いました。わたしが入院中ずいぶん心配していたようでしたので。
あれやこれやで1時間余り歩きました。
少し早いかと思いながら、入浴はシャワーではなく浴槽につかりました。気持ちよかった。浴槽内で少しウトウトしました。後で手術創を見てみましたが、何の問題もないようです。
11月3日
入院前に散歩していたコースを歩きました。2時間余り。普通に歩くのには支障はありません。途中、少し(100mから300mぐらいを何度か)ジョギングしてみましたが、やはり呼吸が荒くなります。
11月4日 手術後2週間
日常生活に支障はありません。手術痕やその周囲のひきつりや痛みもだんだんとましになってきました。就寝中の体位・肢位への気づかいもあまりしなくてすむようになってきました。
手術した右胸をストレッチしたりマッサージしたりしています。
夕方の散歩では、途中非常にスローなペースでジョギングしてみました。前日よりも距離を少し延ばしてみました。息苦しさと思っていたのは、心臓の拍動や肺の息切れというよりも、喉のつまり感のように思います。手術の後遺症かそれ以後の呼吸練習の疲れなのかもしれません。
2人の兄から同時に手紙を受け取りました。わたしの健康のことを心配してくれています。当人としてはここまでの経緯に納得し、これからのことについてもある程度覚悟できているつもりなのですが。
11月9日 手術後2週間半(退院後1週間余り)
病院へ診察に行きました。
血液検査とレントゲン撮影をした後、Moon(仮名)先生の診察。
画像を見ながら改めて手術の内容を説明してもらいました。どの部分を切除したかという説明と、切除したものの写真も見せてもらいました。肺は赤っぽい肉の塊、そこに蜘蛛の巣を張ったというか、食肉の脂肪分のようなものというか、そんな感じでガン細胞がありました。
やはり軟骨肉腫の転移ということでした。
退院後の患部や呼吸の状態、生活ぶりを報告し、今後の回復の予想を説明してもらいました。
見たところ長い手術創の周囲が膨らんでいますが、これは脂肪ではなく液だということでした。時間が経つと吸収され正常な状態になり、2ヶ月ぐらいでほぼ回復するだろうということでした。
また、回復途上の現在、肺に負荷をかけるトレーニングをしてもあまり効果はないだろうという話でした。「そうかあ」という感じです。とりあえずは日常生活を続け、時間の経過とともに回復を待ち、それから負荷をかけるということにしようと思いました。今はがんばる時ではないということです。
血液検査の結果、肝機能もだいぶん回復しているようでした。
次は残っている腫瘍のラジオ波焼灼です。放射線科での受診のてはずを整えてもらいました。軟骨肉腫闘病の第2ラウンドも、だいぶん進んできたところでしょうか。
11月11日 手術後3週間(退院後10日)
心拍数の計測機能のついた腕時計を購入しました。
装着している間は常時計測しているので、時々文字盤を見ます。先日のMoon先生のアドバイスで、意識して肺に負荷をかけるのをやめたこともあり、特に心拍数が大きく変動することはありません。歩道橋や駅の階段を上ると、呼吸は上がるのですが、その時も心拍数がひどく変化することはありません。
これから先負荷をかける時期になってから、心拍数を目安にすることがあるかなと思っています。
11月19日 手術後4週間
昨日病院へ行ってきました。
血液検査の採血をし、肝臓内科の医師から検査結果を説明してもらいました。
ほとんどの項目が基準値内にあり、ほぼ回復しているということです。今回の肝機能の低下の原因はやはり手術時の薬剤によるものだろうということでした。
手術以来、退院後もアルコールを一切飲んでいません。それまでは365日飲んでいました。それを何十年か続けていました。
自分としては、アルコール依存症の予備軍ぐらいかなぁと思い、これは生涯の最後まで続くのかなぁと思っていましたが、今回の退院後飲むのをやめていると、それはそれで「こんな生活もあるのかなぁ」という感じです。別に努力したり我慢したりしているという感じではありません。これからこの調子を続けるのか、それとも少しは飲むようになるのか、あまり考えていません。
肝臓内科の前に放射線科で診察を受けました。
診察を受けたといっても、CTは手術直前のものしかないので、現在の状態はわからないということです。手術をすると、全体の状況が変わることもあるということです。
ラジオ波焼灼法の説明を簡単に受けました。負担が少なく、入院も4、5日ぐらい、再発しない可能性は85パーセントということでした。
CTの予約がたて混んでいて、再来週に撮影、その後に診察ということになりました。
さて、手術はいつになるか、特にあわてる気持ちはありません。
今回の一連の転移について、素人なりの考えを書いておきます。
4年前に軟骨肉腫の診断を受けました。今、その時の画像を見直すと、上腕骨が2本あるのかというぐらい大きな腫瘍でした。
いくら軟骨肉腫が転移しにくいものだといっても、この時点で腫瘍細胞は血液中に流れ出していたのではないかと思います。最初の診断直後のPET検査では他の場所への転移は発見されなかったわけですが、ごく小さいものはすでに肺にたどり着いていたのではないでしょうか。
それから4年経って、小さかったものが成長。最初のものを親世代とすると子どもの世代。今回の手術で、その長男や三男を切り取り、残った次男を焼くという手順なのだと思っています。ちょっと都合よすぎる解釈でしょうか。この子ども世代から次の世代、孫世代へ更に転移・代替わりすることはないだろうと、根拠もなく楽観的に思っています。
最近の体調ですが、数日前に3kmほどのゆっくりしたジョギングをしました。赤信号で止まる以外は続けて走れました。息切れもありませんでした。
歩道橋や駅の階段を今までのように一段飛ばしで上がってみても、手術直後のような息切れはしなくなりました。手術前と同じようにとはいきませんが。
就寝中や起床時には手術をした右胸の筋肉が硬く冷え、痛みを感じることはありますが、起きて動いているうちにそれも消えていきます。
11月26日 手術後5週間
特に大きな変化はありません。
入浴前に脱衣して手術痕を見ます。Moon先生が診察の時、手術痕の周囲の腫れについて「水がたまっている」と説明してくれましたが、その腫れもなくなりました。
今週になって、これまでの夕方の散歩をゆっくりとしたジョギングに変えました。
3~4kmぐらい。呼吸は少し息苦しくなります。少しずつ負担をかけているつもりです。苦しくなっても特に不安はなく、少し追い詰めようという気持ちになります。信号で立ち止まったり、歩いたりすると、すぐに回復します。
深呼吸では、呼気はスムーズですが、吸気ではひっかかるような、少し肺が小さくなったような感じがあります。筋肉(横隔膜)を使って意識的に動かせるのは吸気ですから、そういうことになるのでしょうか。肺が小さくなっているからか、術後の回復が十分でないからか。いずれにしても、あわてずにリハビリをしていきたいと思います。