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中国で食材と戯る。(46) マグロ-5 番外編

私が中国という国、土地で扱ってきた食材たち )
ある時は店の為、ある時は自分の食事・好奇心の為。
ある時は、海外からの輸入物、日本からの輸入物、もちろん現地の魚、肉、野菜。
ある時は ”試行と錯誤”、ある時は ”創意と工夫”、そんなこんなで続けてきた、自身の調理と撮影。
仕事であり、趣味であり、日常であった 私のライフワークアーカイブです。

寄稿にあたっての自身のコメント
  

” 金枪鱼解体秀 jin qiang yu jie ti xii ジンチャンユュ ジエティシュー "


 マグロ−5、と記事に番号を振りながら、番外編を謳うのはどうかと自分でツッコミ入れますが、自宅でもなく、店でもなく、デパートに出かけて” マグロの解体ショー " を行うというちょっとしたイベントです。

 時は、2015年、11月。
常州購物中心 chang zhou gou wu zhong xin "、という常州市のど真ん中。
繁華街の少し脇にある有名デパートの創業22周年イベントの一環として、地下の食品売り場で” マグロの解体ショー ”を行いたいので参加してもらえませんかと、市政府関係者からの声掛けをいただき。馳せ、参じる事に。

 自分の店を放り置いて出張するにあたり、おいくらぐらいで? なんて聞かれたのですが、普通に日本人職人社長さん、というかごく普通の日本人日当くらいを述べてみると、” 高い "と言われた。
夕方の2時間ぐらい居てもらえれば、結構で、販売しない部位( 食材 )を持ち帰ってもらうということ事で如何が? の問いに " Yes " で引き受ける事に。
この頃は、自分の店に従業員も揃っていたし、仕込みは任せて営業時間にはもどれる。

常州において信用の厚い、老舗デパート。
世界のブランド品が入っていて、地下食品売り場では日本を含む
国外からの輸入品も取り扱っている。


 日本長崎からの本マグロ、氷鮮生の48.6 kg / 尾
自分の小さな店では、扱えないマグロを捌けせてもらえる、かえってありがたい仕事だとも思えます。不細工な親父でも、表に出てくればそれなりに店の広告にもなりますし。

 当然、マグロを挽くような大きな包丁などは、私にもデパートにもありません。
持参した出刃包丁、頭斬りに購入していったノコギリだけが道具です。

一人仕事かと思ったのですが、5星ホテルの日本料理店調理経験者 ( 既に他の高級日本料理レストランオーナー )の若い料理人にも声掛けしてあり、代打の効く状態を整えながらも、一応私を前にしてメンツを保ってくれます。

イベントの2日間で1本のマグロを解体するとのことで、一気に卸さず、数度に分けてブロック切り出しするように現場で要望がありました。写真は2日目。

 基本noteに上げる写真は私の撮影写真だけを扱うのですが、自身の写る上の2枚だけは、現場に訪れた知人の撮影となっています。


 狭いスペースながらも、開いた身は、すぐに横で他店の料理人が切り身にしてパック。刺身、寿司として即売が始まります。

 ほどほどの、来店客の観覧と購入をもってイベント任務は終了となりました。
現場を離れ、自分の店に戻るときに約束の報酬、本マグロの解体副産物をいただいて帰りました。



さて、ここからが私の本当の意味の解体ショーの始まりです。

” 骨身に染みる酒 " 

 なんて、銘打ってみた。 持ち帰った中骨から取れる骨髄をすくって、酒に入れたもの。” 涙酒 ( なみださけ )”  と言ってマグロの目の水晶体だか角膜だかを刻んで日本酒に入れて出すとこがあるらしいと、聞いたことがあった。

 そこからのヒントで、この中骨の中に見える透明で綺麗な骨髄を酒に入れて飲んでみる。骨髄、不思議なことに塩味を持っている、生臭みや風味的なものは感じにくい。

 冷えた酒の中に、羽毛のように浮遊する骨髄は見た目に清涼感があり、美しい。
結果としては、正直に言えば可なく不可も無しってとこだろうか。
目の前で解体されたばかりのマグロを横目に、こういうものが供されたなら意味深いと思えるが、これ自体を商品とするには もひとつ、味わいに欠ける。

 アルコール13〜15度くらいの日本酒では、日本酒の風味自体を損なわせる可能性があり見た目良し、味わい今ひとつ、となる。
この回で試していないが、度数の高いキンキンに冷やした焼酎の原酒なんかに入れると良い感じかも。


” マグロ塩 " ?

  骨髄が塩気のあるものだと既に判明した。
少し手間がかかるし、たいした量にならないが、これを煎りつけて、塩にしてみようと思った。
 ” マグロ塩 " である。聞いたこともないし、思い立ったが吉日。
なかなか機会があるわけではないので、早速その場でやってみる。塩だ

本マグロの握りにのせ、食してみる。格別の味覚に訴える何かがあるわけではないが、優しく、そして自然に思える味わい。
そのマグロの骨髄から作った塩で、その身を食すのだから何の違和感も無い。
究極の美食でありエコとも言える。商品としの、どうのこうのではなく、食材を扱う者としての貴重な体験として記憶に残し、記事を残す。


マグロの白湯 ( バイタン ) ラーメン。

 魚を強火で炊いたスープは、すぐに白濁する。豚骨のように何時間も炊く必要はない。日頃手にしない、マグロの骨でどのようなスープが取れるのかという実験ラーメンである。
 この回、マグロの骨だけで炊き出したスープ、鮮度の良さもあり、シンプルで素直な味わいがある。麺を入れて食すには、少量の塩と、うま味調味料を加えた。素朴で良い味。この味を知ることで私の味覚と料理脳を鍛えるのだが、商品とするにはこれでは不合格。
 日頃、よく使うマグロの旨味、おでんや角煮などと同様にその身の旨さを引きずり出してこそスープの完成となる。骨だけでは素朴すぎるので、必ず筋の多い部位を共に入れて炊き、具材としてのマグロ肉を添加する必要がある。
トロ入りもありだな、きっと。

 刺身でイケる食材、何をしても美味しい料理が成り立つということを再確認する。想像の届くところで、深追いはしなかったが、マグロという素材に対して理解の広がる時間でありました。

                              
                                 以上


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