「毎日少しずつ、コツコツと」が通用しないときがある
ずっと先延ばしにしていた作業にようやく手をつけることができた。まるでカビ臭いエアコンを隅々まで掃除して、澄んだ冷風を全裸で浴びているような清々しさだ。
とはいえ、その仕事というのはエアコン掃除ほど時間のかかる作業ではなかったし、手を動かしたのはせいぜい30分くらいだ。
その程度のタスクに、何日も、いや何ヶ月も手をつけられずにいた。その間ずっと忙しかったわけでもないし、忘れていたわけでもない。30分ほどの隙間時間なんていくらでもあったし、調整すれば1時間くらい空けることだってカンタンにできたはずだ。ダラダラ過ごしてしまった日もたくさんあった。
あなたにも、なぜか何週間、何ヶ月も先送りしている仕事や、家事や、人間関係の雑事がひとつくらいはあるんじゃないだろうか。
たとえば、ずっと病院に行く日を決められていないとか、パソコンや仕事机を徹底的に整理整頓したいとか、バックアップもしっかりとっておきたいとか、お金の出入りをちゃんと把握して、毎月一定額をiDeCoに拠出する仕組みを整えたいとか、何ヶ月も放置しているメッセージにそろそろ返信しなきゃとか、家族やパートナーとちゃんと話さなきゃいけないこととか、大きい買い物のこととか、ずっと書きたい文章があるとか、つくりはじめたいものがあるとか。
もし心当たりがあるならば、この文章があなたにとって多少なりともお役に立てるかもしれない。
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今回、目指したいゴールは、そのやっかいな作業を終わらせてすっきりすることではない。先送りの罪悪感から開放されて、清々しくそのタスクと付き合い続けられる精神状態をつくることこそが、今回、目指したいゴールだ。
そしてそのために必要なことは、その仕事に「手をつける」ことだ。ただし、よく言われるような「ほんの少しでいいから手をつけよう」というのが間違いだったというのが、この文章でいちばん伝えたいことなのだ。
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いつまでも先送りしてしまうタスクには特徴がある。
何から手をつければいいかわからない
たとえば年金を積立てる仕組み作らなきゃとは思っていても、何から始めればいいのかがよくわからない
アイディアが必要なケース
たとえばnoteを毎日更新したいけどネタがない
そもそも向き合うのがしんどい
ちゃんと謝らなきゃいけない相手がいるのだけど……
こういったタスクに向き合うためには、覚悟と集中が必要だ。しかし常にたくさんの「やらなきゃいけないこと」と「隙間を埋める小さな娯楽」に囲まれている我々は、覚悟が決まる前に他の仕事をやってしまう。集中が深まる前にスマホをさわってしまう。そうしてこれらのタスクは、頭の中をよぎりはするものの、実行されることなく一日、また一日と過ぎていく。
今回、僕はこのたった30分の作業のために、他の予定を全てキャンセルした。パートナーに相談し、洗濯もせず料理もせず、その作業だけをやると肚を決めて向き合った。そして何度も何度も脱線を繰り返した。気づけばスマホで漫画を読んでいた。気づけば別の仕事をしていた。気づけばネットで買い物をしていた。気分転換と称して皿を黙々と洗っていた。いつもより腹が減り、いつもより喉が渇き、いつもよりコーヒーが必要だった。やるべきことはたったひとつなのに遅々として進まない。
それでも、脱線に気づくたびに意識を引き戻し、少しずつ少しずつ、作業を前に進めていった。丸一日かけてたった30分だ。
しかし作業の進捗はどうでもいいことだった。丸一日かけてこのストレスフルな課題と向き合い続けたことで、僕は大きな坂を登り切ることができた。それによって得られた最大の変化は、この作業の続きをやることに抵抗感が無くなったことだ。
「毎日、少しずつ」という戦略が使えるのはここからだ。取り掛かることに抵抗がなければ、スキマ時間に少しだけ作業を進めたり、毎日同じタイミングで5分だけやる、なんてことがちゃんとできるようになる。
ただし、最初の険しい崖だけは、ひと息に登り切らなければならないのだ。
僕はこの崖の攻略法を知らなかった。必要なエネルギーの見積もりを誤っていた。30分ではなく、1時間でも半日でもなかった。丸一日もの時間が必要だったのだ。
タスク管理のテクニックも、心理学の知識も、ライフハックも何も必要なかった。自己分析なんてものも必要ない。必要なのは「一日かけてひとつのことだけをやる」という、効率も何もない、どシンプルな戦略だった。
やろうと思ってからもう何日も過ぎているのであれば、それがどんなに些細でくだらなくてすぐ終わる仕事のように思えても、それは人生をかけて向き合うべき大仕事なのだ。
丸一日かけてでも、この崖を登り切らなければならないと腹を括ろう。有給でもズル休みでも、あらゆる手を使って「平日」に時間をつくろう。
そして崖を登った先で、先送りの後ろめたさから開放された清々しさを味わってほしい。
CM
パートナーのトモさんの「ときどきカフェ」を手伝っています
読みたい本がたくさんあります。