写真展で白をあじわう
写真展に行ってきた。フォトグラファーさん2人による展示。白と、白という色を超えて見えてきた境界がテーマ。
きりっと硬い白、儚い白、のびやかな白、重々しい白、柔らかい白、うるうるの白、ざらざらの白。
眺めるほど、白が白に見えなくなる。または色としては白じゃなさそうなのに、白く見える。自分の知ってる白の枠組みや感じ方が解体されてくみたいで面白かった。
昼すぎ。恵比寿駅から歩いて3分。のはずが、道に迷う。昨年一度行った場所だと思って気を抜いたら出口を間違えた。駅に戻り、とりあえず食べる。きちんとマップを見る。
無事見たことのある坂道にたどり着く。天気がいい。ガラス張りのギャラリー。入口が開け放たれている。ふらっと出入りできる雰囲気がすでに素敵だと思う。
主催者さんに顔を覚えられていてびっくりした。恐縮です。ゆったり楽しみました。
昼下がりの、ほどよい気候。BGMと電車の音。照明もあるけど自然光で、穏やかに明るい。その時は空いていたので、作品の間を好きなだけ行ったり来たりして堪能した。お話も聞けた。
奥の方で写真集とグッズも販売されていた。目の前に手に取れる作品がある。嬉しい。写真集は3種類あり、だいぶ迷って今回の展示テーマの写真集に決める。
作品を飾っている壁の大部分が白いので、作品を眺めているうちにだんだん目が壁に移っていく。写真の中の白と、壁の白を比べたりする。色としては壁の方がより白いはずなのに、写真の方が鮮烈に白いと感じることがある。なんでだろうと思う。さらに照明に照らされた壁と、日光に照らされた壁を見比べはじめる。つらつら考えているうちに、いつの間にか写真から目が離れ、会場の内装を見回している。目線が天井や壁に泳いでいる来場者、不審だったなと後で思う。
以下、特に好きだった作品のメモ。
Nocchiさん
水が浅く溜まった、黒っぽいタイルとまるい排水口の写真。
樹の影や反射した光が揺らめいている。整然としたタイルと排水溝と不規則にゆらゆらする水模様、その対比に惹かれる。
水がなくなる途中なのか、手前は水がひいて直接タイルが見える。有機的な形で残る水のふち。表面張力の存在感。その水際が、生き物のようでなんかどきっとする。
写真の面積的には暗い色が大きい。その分、水の反射光が目に飛び込んでくる。
印象的な白は相対的で、傍に暗さがないと成り立たないんだなと、壁や天井をさまよっていた目がこの作品で落ち着く。変化していく視界の中で突出して輝いた瞬間、眩しい=白い、って自分は感じるんだなと。
透明ビニールごしに見る遠目の桜の写真。
今までNocchiさんの作品で見て記憶に残っている桜は、濃いめのピンクでかっこいい印象が強かった。
この桜は、けっこう儚い。全体的に淡いからか、陰になっているところと日に当たっているところの色の違いが繊細。桜の花びらが日光を吸って、所々ふわっと発光しているように見える。
ビルに外付けされた螺旋階段の写真。
細い骨組みの階段の、淡々と反復されるリズム感が心地よい。白い壁に影の模様が精巧に刻まれている。艶がないタイプの金属の、さらっとした光沢と錆がいい。
YUKIさん
小さな四角いタイルが濡れたように光る壁と窓の写真。
まず窓に反射した光の欠片が際立って、はっとする。壁を移ろっていく光が、モザイク状に敷き詰められている。
タイル一つ一つの反射は硬い光に見えるのに、微妙に違う色合いが並ぶと全体に柔らかく動きがある印象。
なんだか懐かしく幻想的。タイル自体は不透明な白だけど角度によってうっすら虹色に反射する。
乳白色の深い霧の中、左下に樹が浮かび上がる写真。
空気中の水分が、白が濃密。大部分が何も見えない。でもいろんなものが吞みこまれて隠れていそうでイメージが膨らむ。
樹のじゅわっと霞む様子が、きめ細やかな上質な霧という感じ。この中へダイブしてさまよいたい。
車が走る車道を見下ろす街並みの写真。
白いくもり空が街まで下りてくるように霞んでいく。車も白いのが多い。
普段だったら雑然としてきれいではない景観、と思ってしまうのに、この写真では清々しくなんだか優しく感じた。白の包容力か、YUKIさんの眼差しの優しさか。
網目状にひび割れた壁と、消えかかった文字の写真。
奥行きを感じる写真に囲まれている中、平面的な作品に目が引かれた。
なぜかまじまじとひびを見てしまう。壁が、メロンの表面みたいなことになっている。
そして文字に感情移入。すーっと爽やかに消えていく様子が、だれにも迷惑かけない善良な霊のようで好き。もうすぐ成仏できそう。
終わりに
白を意識して撮られた作品群。白に目を凝らすと、物質としての存在感が前面に出てその質感の対比で画面が作られていたり、細やかな陰影が感じられたりした。
展示からの帰り、白いものがいろいろ目に留まる。
家に着いたら原研哉の『白』を読みたくなった。
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