【Fトーク#8】 ゲームとアニメの成功事例から、スポーツビジネスの可能性を探る
今回のFトークゲストは、スマホゲームでヒットを連発する株式会社アカツキで、Head of Global Game Expansionとしてゲーム事業の海外展開と海外投資に従事する小川智也さん。株式会社F(エフ)の河合健太郎が、小川さんとゲームとアニメの成功事例をもとに、日本のスポーツビジネスの可能性について語り合います。
―アメリカのスポーツ界で、今何が?
小川:4年前に知人を通じて河合さんと知り合い、まずお酒を飲みましたよね(笑)。
河合:そうでしたね(笑)。それからお仕事でもご一緒しました。
小川:出張のタイミングが被って、ロサンゼルスで旅をしたこともあります。フィットネスについて色々話したのを思い出します。
河合:小川さんは、国内外でフィットネス等の「するスポーツ」や「見るスポーツ」についての投資案件を見てきていますよね。
小川:はい。最近、スポーツでは面白い動きがありました。アメリカで新しく設立されたONE TEAMという会社に、NBA、NFLとPEファンドが出資をしたのですよね。その会社は選手のデジタルライツに関して独占的なライセンスを持ち、それをゲームや他のデジタルメディアでマネタイズすることを目的に作られました。ONE TEAMに僕の知り合いがいて、デジタル展開を行っています。スポーツ界で既存のビジネスだけではなく、デジタルやゲーム等の新しい分野でマネタイズする、という流れが起きていますね。
フォートナイトでは、ゲーム内でNFLのユニフォームのアバターが売られていて、それを買うと自分が応援しているチームのユニフォームでプレイできるようになっています。現物のユニフォームを買うのと同じようなことが、ゲームの世界でもあるのですよね。
河合:通常は競技団体ごとにライツを管理して、それをマーチャンダイズする。その形でなくNBAとNFLが出資して会社を作っている、というのが面白いですよね。
小川:彼らも、自社のみでデジタル人材を管理するのは難しいですからね。それ故、1つの箱(会社)を作って、デジタルができる機能をそこに集約して、全部のライツビジネスをやっていこうと、なかなか面白い取り組みです。
―日本のスポーツ界に必要な人材
河合:そうですよね。確かに日本では競技団体ごとに分かれているので、それに比べるとダイナミックさに欠けるかもしれないですね。各クラブや団体にはまだまだデジタル人材も少ないでしょうし。
小川:各チームや各団体がそれぞれ個別に良いデジタル人材を採用するのはなかなか大変ですよね。ダイナミックかつ合理的でアメリカ的なアプローチだと思いました。
河合:面白いですね。そこにPEファンドが絡む。
小川:PEファンドは、最初から億単位のお金を出せますからね。
河合:なるほど。スケールのスピードが全然違います。レベルの高い人材が集まるということですよね。
小川:そうですし、カルチャーも違います。アメリカではゲームやテック関係の人から見て、既存のスポーツ界の人たちはコンサバティブなカルチャーに映るようなので、新たに独立した会社を設けて「自分達のようなカルチャーの人材を集めている」と言っています。
河合:確かにそうですよね。
小川:この流れは、日本でも起こり得るのではないかと思います。
ターゲットユーザーのセグメントとしては重なっている部分が多いですからね。特に若者がNBAや特にNFLを見ることから徐々に離れてきている中で、フォートナイトにNFLのユニフォームが登場するのは、若いユーザーへのファン層拡大という観点から、とても理に適ったアプローチだと思います。
河合:確かに、僕も某スポーツブランドで仕事をしている時に感じましたが、1人の若者でも「アスリートの自分」と「ティーンエイジャーの自分」が同居していますよね。
フィールドではアスリートだけど、フィールド外では1人のティーンエンジャーでしかない、という概念ですよね。また、それに対して業界側がどうしてもアスリートの部分のみを対象として見ないと、マーケットが広がらない感じですよね。
小川:それで他業界の人を採用すると言っても、良い人材をなかなか採れないじゃないですか。仮に入ったとしても、あまりにもカルチャーが違うと、すぐ辞めてしまうでしょうし。
河合:そうですよね。日本のスポーツ界でも、「優れた経営人材やデジタル人材を入れなければならない」と言われていますが、お金(報酬)が合わないという問題もありますしなかなか難しいですね。
小川:そうですね。
河合:既存の枠組みで何かをしても結局ペイできないし、有能な人にとって小ぢんまりしている世界にいると、面白くないということがありますからね。アメリカは、日本にあるような枠組みを壊していけるところが凄いですよね。
小川:そこにお金もついてきますからね。
河合:アメリカのスポーツマーケット自体が物凄く大きく、ゲームと同じようにIPで横展開をしている印象があります。
上手くいくためには、デジタル人材が入ってくることはもちろん、IPとして成り立つ強さやコンテンツ力等も必要になりますね。
小川:そうですね。
河合:あとアメリカでは、選手を含め皆で同じ方向を向いて成功するために、コンテンツ力やブランド力を上げて、という感じでベクトルが同じ方向を向きダイナミックに繋がっている印象もありますね。
―コロナ禍で感じた新たな勝ち方
小川:はい、とはいえ、それ以外の勝ち方もあると思います。例えば、今、コロナ禍でライブなどができなくて、オンラインやユーチューブでライブをやろうとすると、グローバルなトップアーティストでないとビジネスとして成り立たないじゃないですか。
でも一方で、ファンの規模感が小さいアーティストが、例えば100人限定のオンラインライブを1時間やります。ファン全員がアーティストと一言話せて、皆がリクエストした曲をアーティストがその場で歌う、という内容であればファンはお金を払うと思うのですよね。何千人も集めて2、3時間のライブをやるのではなく、おしゃれな場所を借りて1時間やって再び1時間やるような形にすれば、1日の売上全体としては良くなる可能性があります。コアなファンに対して行うだけで、結果的にそれなりに儲かるやり方もあると思います。
河合:演歌歌手が1曲当てて、ディナーショーだけで一生食べていけるみたいな(笑)。
小川:そうそう。昔あったモデルを、オンラインで日本全国から100人を1度に集めることでアップデートした形でやることができると思います。
中途半端な規模で箱(会場)を持ってやると、それが1番難しい感じになってきている気もします。
河合:究極、小さい規模で沢山やって、その限られた人たちに対して超スペシャルであれば良いのですよね。
小川:沢山お金を払ってくれる1万人のファンが求めるものを満たせていれば、ビジネスとして成立する世界を作り出せると思います。
河合:エッジをどこに立てるか、ということになりますね。
小川:日本のスポーツで言えば、凄いマスを取るのか、深いファンを取るのか。ただ、単価を幾らでも上げられる訳でもないですからね。細かい所を上手く、どう効率良くできるかですよね。
昔は演歌歌手がディナーショーやコンサートで数千人集めないとビジネスとして成り立たなかったのですが、今であればオンラインで数十人集めるだけでやっていけるという可能性がありますからね。
―「鬼滅の刃」が大ヒットした理由
河合:「鬼滅の刃」の流行り方が物凄いですよね。今までのアニメの流行り方と何が違うのですかね?
小川:凄いですよね。幾つか要素があると思います。もちろん原作自体が面白くて人気があると思いますが、アニメのクオリティーに関して凄く気合を入れて作っているのですよね。昔は日本でアニメをやって、その後に配信するという流れでしたが、今ではテレビ、ネットフリックスやアマゾン等に幅広く露出しています。
これまでのアニメビジネスのモデルでは、アニメのDVDを売ってお金を回収していましたし、オモチャなどの関連ビジネスに関してはアニメ制作会社ではなくアニメ制作委員会にお金が入っていました。このビジネスモデルを前提にすると、アニメをどこかのメディアに独占的に売った方が良い条件で買ってもらえますからね。テレビならテレビ、ネットフリックスやアマゾンがけっこう高いお金を払って、というような構造でした。
「鬼滅の刃」の場合は、ちゃんとコストをかけて作り、かつワンショットの売上ではなくて、面を取る形で全ての配信サービスでアニメを見られるようにし、ビジネスとしての回収は、それ以外の関連商品でやる、という構造を一貫してやる形にした、というところが一つ大きいと思います。それで皆が見ることで一気に裾野が広がった、ということがあると思っています。
河合:なるほど。
小川:これまでのアニメのビジネスモデルではやりにくい勝負のかけ方を変え、アメリカの映画等と近いようなアプローチをしたことで、実際に海外でも流行りましたからね。ハリウッド映画のような大型ブロックバスター的な戦い方を、リスクを取ってやったことがビジネス戦略として大きかったと思います。もちろん原作のクオリティーが高い、ということが前提ですけどね。
我々は、子供の頃に週刊少年ジャンプを読んでいたじゃないですか。昔はまず漫画を読んでから、その後にアニメも見るという流れでしたが、今の子供たちはジャンプに漫画があることを知らずにアニメを先に見ている人も多いです。まず露出が凄く増えたアニメから入る、という形にコンテンツに触れる場が変わってきたことが大きいと思いますね。
河合:凄く速いスピードで広がったというイメージがありますね。
小川:加えて、コロナのタイミングも追い風になっていると思います。
河合:「鬼滅の刃」のように、日本のアニメの入り方が変わってきていることは、今後エンタメにも影響が出てくるでしょうね。
―ゲームの開発費に100億円
小川:最近、中国の会社が作った「原神」というモバイルのゲームに、開発費で100億円位かけたということを聞きました。最近では、ゲーム1本を作るのに10億円程度はかかるようになってきているのですが、100億円というのは桁が違います。おそらく、グローバルでのマーケティング費用も各国単位で数億円、大きいマーケットの日本、中国やアメリカだと2桁億円以上も最初のマーケティングで使っているのではないかと推測します。
この「原神」は凄くクオリティーが高く、初月の売り上げがグローバルで250億円以上と言われています。これだけの規模になれば、仮にその後に売り上げが下がっていったとしても投資額は充分回収できると思います。これは原作がないオリジナルのゲームタイトルですが、大きく張って大きな成果を得ました。日本のゲーム会社で、モバイルゲーム1タイトルに100億円も出せる所は殆ど無いのではないかと思います。グローバルでいきなり勝負するリスクを取れるか取れないか、の二極化はあらゆる業界で起きて来ている気がします。
河合:確かに日本だと、難しそうですよね。
小川:ある種ベンチャー的な中国の会社がお金を集めてガッツリ勝負できるのは、マザーマーケットである中国のマーケットが大きいからというところもあると思います。
河合:という中で日本は何ができますかね。
小川:そこまでの規模感のことはできなくても、「鬼滅の刃」は大ヒットしているので、日本でもこの領域であれば勝てる、というものは存在すると思います。
―無料にするか、有料にするか
河合:ところで、小川さんはウェルネス系のスタートアップ投資などにも関わっているじゃないですか。最近の国内外のトレンド等で面白い動きとかありますか?
小川:コロナ前で言うと、フィットネスの領域などは割とレッドオーシャンになってきていたのですよね。フィットネスアプリが沢山出てきて、投資という観点で見た時には、既にいくつもサービスが存在する中で、「この筋はイケる!」という空いたスペースを探す感じになっていました。
一方で、コロナ後で言うと、既に大きく伸びているというものはまだないですが、確実に生活様式は変わってきたので、それに合わせた形のフィットネス、ウェルネスやメンタルヘルスのサービスは絶対に出てくるので、可能性としては充分あると思います。
河合:僕にまだ分からないことがあります。昔と比べれば、ミラーとか色々なテクノロジーによって自宅でできるフィットネス等の良いサービスがあると思う一方で、結局お金を払う価値がどこまであるのか、ということなのですよね。
小川:そうですよね。
河合:無料のユーチューブ等のサービスと比べて、お金を払う価値があるサービスが、どのタイミングで一気に広がるのかが意外とまだ見えない、という感じがあります。
小川:ビジネスとして本当に上手くいっているのは、ペロトン位じゃないですかね。
河合:よくあるのは、フリーミアムですよね。フリーで始まって、これ以上記録をとりたければ課金する。
小川:そうですね。
河合:もう少し違う要素でマネタイズをする。何を付加価値にしてお金を回収していくのか。今までのフィットネスジムやパーソナルトレーニングとは違ったお金の生み方が出てくるのではないかと。日本でのオンラインフィットネスが、アメリカのように規模がボーンと大きくなるというイメージがつかないんですよね。
小川:モバイルだけに閉じたもので何とかしようとすると、体験の価値に限界があるので、基本的に単価が下がる方にしか行かないですからね。行き着く先は、全てフリーミアムで違う所でマネタイズする、というプレーヤーが出て来ると思います。フィットネスサービス単体で儲からなくても、「ユーザーベースを囲えるのでればユーザーエンゲージメントのサービスとして良い」、と割り切るプレーヤーが出た瞬間に、単体サービスとしては、どのプレーヤーも事業として成り立たなくなるということが起こり得ると思っています。
例えば、アマゾンは保険サービス等をやりたがっています。仮に「アマゾンプライムの会員は、フィットネスサービスが全て無料です」と言っても、アマゾンからすれば数多くあるコンテンツの中の1つに過ぎません。ですが、このようなことをやられてしまうと、フィットネス業界の人達はけっこう苦しくなりますよね。
デジタルだけに閉じると難しいので、ペロトンやミラーみたいに、そこにしかないハードウェアとセットでサービスを作るとか、インストラクターやインフルエンサー的な人自体のファンを活用したファンビジネス的なものとセットにするとか、一工夫が必要になってくる気がします。
河合:仕組みとして、ですね。
小川:無料のサービスでもアマゾンに買ってもらうという前提で起業するのであれば、スタートアップ投資としてのリターンは見込めるかもしれませんが、継続的な単体ビジネスとして考えると難しいですよね。
河合:わざわざそれをやる必要があるのか?出口が見えないのですからね。
小川:でも、それ自体に価値はあるじゃないですか。例えば、保険会社のカスタマー向けのサービスとしてやるとか。会員制サービスの1つとして成り立っている所でやるのであれば、あるかもしれないですね。
河合:ある保険会社では、生命保険に入るとある某スポーツブランドの商品を安く買えるというパッケージがあり、そのブランドは売上を上げていましたからね。
単体のプレミアムで、そこにしかないコンテンツや器具とか作るのか、割り切って色々なサービスの中に組み込まれるのか、ということになりますね。
小川:基本的にはフリーミアムに近いけれど、ビジネスモデルを別のものとして考える。グーグルのサービスを使うのは全て無料だけど、広告費用を色々な業種から貰っているからビジネスとして成り立つ、という発想と近いですよね。
河合:そうですよね。
小川:例えば、各企業向けに健康管理を目的にリアルでもオンラインでもフィットネスをできるサービスを展開する、という仕組みの方がお金を生みやすいかもしれないですね。
河合:さらに、マインドフルネスや脳の世界に進むのも良いのかなと思いますね。
小川:脳波とセットでサービスを展開するとかですよね。
河合:多くのコミュニケーションコストが下がっている時に、どこまでマネタイズをするべきなのか。
小川:そうなんですよ。
河合:結局そこを焦ると、エンゲージですらしないので。
小川:他に選択肢があるし、クオリティーも含めたものを考えると、無料でも色々なものがありますよね。一方で最初から高価なサービスもありますが、価格を決めるために芸能人やインフルエンサーがいるとか、脳波に高い効果があるとか、お金を払う積極的な理由が必要になりますよね。
河合:短期的なリターンとして、と言うよりは、結果的にLTVとして長く繋がって高価なものを買ってもらうようにですかね。
―解決したい2つの課題
小川:現在、ウェルネスやフィットネス系について、2つの課題があると言われています。1つは、どのサービスに対しても継続率が低いことです。フィットネス系のアプリも1ヶ月で離脱する人が多いですし、リアルなスポーツジムでも続ける人が少ないですからね。それがデジタルのみのサービスだと、辞めるのは簡単です。そして、もう1つは先程とも関連しますがマネタイズです。
河合:そういった意味では、ゲームのビジネスはマネタイズのポイントを考えていて、ユーザーが離脱しないように色々な刺激を加えていますよね。スポーツに、ゲームの要素を少し取り入れても良いのではないかと思います。
小川:フリーミアムが出る前は、皆さんはゲームをやらずに期待値だけで5000円近くを払ってソフトを買っていましたよね。最近では、フリーミアムのゲームとスマホの普及が追い風となって、ゲーム人口が数十倍に増加しています。ハードルを5000円から無料へと下げたことでユーザー人口が増えたのです。多くのフリーミアムゲームで、お金を払うユーザーは全体の10%以下で、9割近くの人が無料で遊び続けています。スポーツやフィットネスでもゲームのようなモデルが組めるのであれば面白いですよね。
河合:なるほどですね。いやぁ、勉強になります。本日はありがとうございました。小川さんの今後のお話についても伺いたいので、またぜひ宜しくお願いします。
小川:ぜひ、お願いします。ありがとうございました。
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