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科学と聖書にまつわる随想(28)
「サンプリング定理」
AIにしても、コンピュータで何かをしようとすると、現実世界はアナログの世界ですから、アナログ量をデジタル値に焼き直すA/D変換は必須の作業です。そして、A/D変換の際には量子化誤差が生じることは、避けることのできない宿命的な事柄です。したがって、この段階で必ず情報の欠落が生じることになります。つまり、コンピュータに取り込まれた情報は、現実のものからは必ずズレがあるということです。カメラの画素が粗いと画像がボヤけるのもそういうことです。ただ、実際にはそのズレ(量子化誤差)が問題にならないレベルになるように、十分に細く数多くの段階に分けてデジタル化している訳です。例えば、デジタルオーディオの場合は、一般的にはA/D変換は分解能16bit、つまり、音声信号の電圧を65536(=$${2^{16}}$$)段階に分けてデジタル化(量子化あるいは数値化)しています。
デジタル化してコンピュータ処理するに際しては、もう一つ通過しなくてはならない関門があります。A/D変換して取り込むことのできる情報は、ある瞬間の一つの電圧値だけです。しかし、時間は連続です。例えば、音声信号の場合、マイクで拾った音声波形は時々刻々ずっと繋がって変化しています。A/D変換できるのは、その信号電圧のある瞬間の値を捉えて数値化することで、しかも、A/D変換の作業に要する時間はゼロではありませんから、次の捉える瞬間までにはある程度の時間が空くことになります。しかし、その間にも信号電圧は変化してしまうかもしれません。そうすると、その間の情報は抜け落ちて失われてしまうことになってしまいます。
時間的には連続している信号のある瞬間を捉えてデータを採ることを“サンプリング”(標本化)といいます。一般に、A/D変換してデータを採る時には、このサンプリングを一定の時間間隔で繰り返して行います。1秒間にサンプリングを繰り返す回数を“サンプリング周波数”といいます。したがって、A/D変換でコンピュータにデータを取り込む際には、電圧を飛び飛びの段階に量子化するとともに、時間もサンプリングの周期で切り刻んだ飛び飛びの値に分けてしまっていることになります。電圧の量子化に当たっては量子化誤差による情報の欠落は避けることができません。しかし、時間を切り刻むことについては、ある一定の条件が満たされれば、これによる情報の欠落を避けることができるのです。これを保証するのが“サンプリング定理”です。1回サンプリングしてから次にサンプリングするまでの間は全く信号には関知しないのに、その間の情報の抜け落ちは無い、というのですから、ちょっと考えると不思議な気もします。
サンプリング定理が主張する内容は次の通りです。
「ある信号がある周波数($${f_c}$$とします)以上の周波数成分を含まない場合、$${f_c}$$の2倍以上のサンプリング周波数$${f_s}$$でサンプリングを繰り返せば、サンプリングしたデータから元の信号波形を完全に再現することができる。
つまり、
$$
f_s \geqq 2 f_c
$$
であれば、サンプリングによる情報の欠落は無い。」
ここで、“完全に再現できる”というところが重要です。つまり、時間的には飛び飛びのデータしか残っていないのだけれども、それだけからその間の空白期間の情報を正しく補うことができるということです。映画のフィルムにしてもパソコンの動画にしても、映像のデータはコマあるいはフレームという形で、いわゆるパラパラ漫画のように静止画の連続として記録されています。それを再生する時には人間の目の残像効果で連続して流れる絵のように見えます。この場合は人間の目が素早い変化について行けずに誤魔化されているだけです。しかし、サンプリング定理の主張は、空白期間の情報を数学的にきちんと元の形に再生できることを示しています。
例えば、デジタルオーディオでは、一般にサンプリング周波数は44.1kHzに設定されています。ですから、元の音声信号はサンプリングの周波数の1/2(これをナイキスト周波数といいます)である22.05kHz以上の周波数成分を含まないことが前提条件になっています。実際、人間の耳に聴こえる音の周波数はおよそ20kHzが上限と言われていますので、その意味では妥当な設定と言えるでしょう。しかし、例えば、ドラムのシンバルの音のような金属音の場合は、耳には聴こえないような高い周波数成分の音が含まれていても不思議ではありません。仮に、もし22.05kHz以上の周波数の音がマイクで拾われてそのままサンプリングされてしまうと、その録音データから再生した音は22.05kHz以上の周波数は原理上出せませんから、22.05kHz以下の別の周波数の音として再生されてしまうのです。そして、場合によってはそれは耳に聴こえてしまうかもしれません。このように、サンプリング定理の前提条件が満たされなかったために、再生した波形に元には無かったはずの情報(エイリアス)が乗っかってしまうことを“エイリアシング”と呼びます。ですから、デジタルオーディオでは、マイクで拾った音の音声信号をサンプリングする前に、予めフィルタで22.05kHz以上の周波数成分をカットして取り除いているのです。したがって、サンプリング定理によって、サンプリングによる情報の欠落が無いことは保証されていますが、そもそもサンプリングの前に情報を捨ててしまっているということになります。捨てた情報は耳には聴こえないものだから要らないだろう、と割り切ってしまっているのがデジタルオーディオです。
松本清張の有名な小説に「点と線」というのがあります。サンプリングしたデータから元の波形を再生するということは、要するに点と点の間をどういう線で繋ぐのかという問題です。サンプリング定理が主張していることは、一定の周期で繰り返しサンプリングしたデータの点と点の間を繋ぐ線の描き方は、「その周期の2倍より短い周期での変化は無い」という条件を付ければ一つに決まってしまう、と言い替えることができます。要するに平たく言えば、あまり素早い変化は無いことが分かっているならば、ずっとそれを観察していなくても、時々見ればそれで十分ですよ、ということを言っている訳です。朝顔の生長の様子を観察するのに、24時間付きっきりでいなくても、毎朝1回観察すればよいのと同じです。
人類の歴史は昔も今も変わらず同じことを繰り返しています。もちろん、文明の発達、科学技術の進歩、など徐々に変化はしつつありますが、急激に変化するものではありません。聖書は、地球上に住む数多の民族の中からイスラエル民族をサンプリングして記録したものです。
「主はこう言われる。『イスラエルはわたしの子、わたしの長子である。』」
人類の歴史があまり素早い変化をするものではないのですから、サンプリングされたイスラエルのデータで、人類全てに当てはまる真実を完全に表現することができるのではないでしょうか。
パウロはこう言います。
「兄弟たち。あなたがたが自分を知恵のある者と考えないようにするために、この奥義を知らずにいてほしくはありません。イスラエル人の一部が頑なになったのは異邦人の満ちる時が来るまでであり、こうして、イスラエルはみな救われるのです。『救い出す者がシオンから現れ、ヤコブから不敬虔を除き去る。これこそ、彼らと結ぶわたしの契約、すなわち、わたしが彼らの罪を取り除く時である』と書いてあるとおりです。」
朝顔の生長の様子は毎朝1回観察すれば十分ですが、花びらが開く瞬間を見届けるためには、ずっとじっと見ている必要があるでしょうね。
「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべてのことにおいて感謝しなさい。これが、キリスト・イエスにあって神があなたがたに望んでおられることです。」