脳と心 第2集 脳が世界を作る ~知覚~
■第2集 脳が世界をつくる~知覚~
目から入った情報は、脳の中でいったん色や形や動きの要素にバラバラにされたうえで再統合され、立体的なイメージとして再現される。
私たちはまわりの世界を受動的に受け取っているのではなく、能動的に情報を収集し、分解し、統合しながら、脳の中に自分だけの世界をつくりあげている。「視覚の全プロセス」を、画像診断装置とCGとを融合した新しい手法によって映像化する。右脳の機能がほとんど失われ、視覚が大きく制限されている画家の卵が、聴覚・触覚など残された感覚を総動員して、「自分自身の統合されたイメージ」をつくりあげ、次々と迫力ある作品を生み出す様子を描いていく。
第2集は,てっちゃんこと,岩下哲士24歳の描いた大仏の絵が始めに出てきます。てっちゃんは,1歳時に痙攣発作を起こして意識不明の重態に陥り,左半身麻痺と知的遅れという重大な障害を抱えることになった青年です。
てっちゃんのMRI画像が出てきます。右半分は働いていません。その分,左の脳が大きく右側にまで拡大しています。
てっちゃんの視野検査をすると,左半分が見えていないことが分かりました。
見るというのは,無数の点としてとらえ,それを再構成することで,人によってその仕方が微妙に違います。(ロールシャッハテストを思い出しますね)
脳磁計を用いた視覚情報処理が,CGで示されます。
大脳皮質のコラムを取り出して,その中を見ます。そこには1,000個の神経細胞があり,一つの神経細胞は他の神経細胞との接合部であるシナプスを1,000個持っています。したがって,一つのコラムには,100万ものシナプスがあるということになります。
視覚野のコラムは,30度ごと傾きに反応することで,対象の輪郭をとらえます。
左右からの信号は,輪郭の次の段階で同じコラムに入って行って,立体像として再構成されます。
視覚は,脳のいろいろな部分を用いて,輪郭線,奥行き,動き,色,形など,何十もの情報を束ねて再構成します。この様子をCGで示しています。
動きをとらえることができなくなったドイツ人女性の例が出てきます。動きを処理する部位が左右両方ともダメになったため,視覚が,2秒に1枚程度しか変わらないパタパタ漫画のような体験になり,水をコップに注いでいるとこぼしてしまいます。車の通る道路を横断することなど,怖くてできません。
てんかんの手術前に,脳の側頭葉に電極を付けて,どの映像にどの脳細胞が対応するか実験する様子が出てきます。しかし,人間で実験を行うには限界があり,サルの脳を使って細かく調べた結果が紹介されます。
ピーマンを横にして見た映像と,人形の顔の両方に反応するコラムが見つかりました。結局,濃淡の付いた楕円に反応していることが分かりました。同様の,基本的な形を認識するコラムが100以上見つかっているそうです。形の処理は,側頭葉の外側で行われています。
磯田さんという年配の男性が出てきます。この方は,脳梗塞のために側頭葉の内側が機能しなくなっていることが分かっています。
人の顔写真を見せます。歯が長いとか,目尻にしわがあるというような特徴は分かるのですが,誰ですかと聞かれると分かりません。それが自分を写した写真であると言われて,苦笑いしてしまいます。
それぞれの特徴を処理する機能は残っていますが,それらを統合する機能が損なわれていることが分かります。
てっちゃんがウミネコを見に行きました。でも,直接さわることができなくて,帰ってから描いた絵も,今ひとつ生気が足りない感じです。
千葉の盲学校の子供たちが,彫刻などのものに触り,それを声で表現します。その際,視覚野が活動していることが示されます。
アメリカの,国立衛生研究所で,形と動きが脳のどこでまとめられるか探求し,上側頭溝という部位であることを発見しました。そこには,触覚や聴覚からの情報も集められていることが分かっています。この様子がCGで映像化されています。
てっちゃんのアトリエ。養護学校でつらかったころの絵は,同じ大仏でも,番組の始めに出てきたのと大違いです。般若などにも,当時の苦悩が表現されているようです。
CGで,古い脳である視床が出てきます。視床は,視覚情報のフィルターの役割を果たし,注意を向けた情報にスポットライトを当て,それ以外を排除する機能を持っています。
ニューヨーク大学のMEG(脳磁計)が出てきます。1000分の1秒単位の働きを記録することができるものです。これを用いて研究を進めたところ,1秒間に80回も,視床から後頭葉の視覚野に信号が送られていることが分かりました。視覚情報の中から,大事なものを見つけて,より強い信号を送る働きをしていることが分かります。
てっちゃんが,五百羅漢を見に行きます。
視床は,無意識に大事な視覚情報にスポットライトを当てるような処理をしていました。意識的に注意を向けるのは,前頭葉の働きです。
常寂光寺で行われているてっちゃんの個展の映像で終わります。