脳と心 第5集 秘められた復元力 ~発達と再生~
■第5集 秘められた復元力~発達と再生~
言葉をつかさどる脳の左半分を切り取る手術を受けた子どもたち。彼らは元気に生活できるのみならず、努力で見事に言葉を回復し続けている。
従来、「脳組織はいったん傷つくと再生しない」と思われてきた。脳細胞の数は出産時には決まっていて、それ以降は決して増えないからである。
しかし最近の研究では、動物の切断された脳細胞が再生したり、海馬に移植した他の固体の脳細胞が、突起をのばして新しいネットワークをつくる事実が確かめられ、脳には予想をはるかに上回る復元力や柔軟性があることがわかってきた。しかもその性質は、外部からの刺激の与え方と、
心の状態に大きく左右されるという。左脳全体の損傷からの回復をかけて闘う老夫婦を軸に、脳に秘められた回復力や柔軟性のメカニズムを追い、
その驚くべき「復元力」の謎に迫っていく。
ニューロンの軸索が延びてつながっていくミクロの動画から始まります。
次の映像は,ベッドの上で,手足が意に反して激しく動いている患者さんです。軸索の働きが壊れたために,脳の運動をコントロールする機能が失われたのです。脳に電極を入れて電気刺激を与えることで,残された正常なニューロンの軸索のつながりを作り出し,運動の機能を回復させることに成功した例が紹介されています。
第5集は,ある老夫婦が,「展覧会の絵」のプロムナードのように繰り返し出てきます。脳死状態の縁から奇跡的に蘇ったものの左脳を失って右半身の運動と言語を失った佐々木寿子さんと,その妻の回復を願って献身的に尽くす夫である佐々木賢太郎さんの物語です。
電気刺激で脳機能の回復を図ろうとする試みが,ロシアのサンクトペテルブルグで行われている映像として少々出てきます。その後に,日本大学医学部で,呼びかけても答えることすらない患者さんの脳幹に電極を入れ,電気を流すと,患者さんの目が開いてくる映像が出てきます。脳幹への刺激が,脳全体を活性化し,徐々に機能を回復してくるようです。そして,その患者さんは,7か月後には電気刺激がなくても自分でものを食べることができる程度になりました。
脳幹を刺激する電気刺激と,佐々木賢太郎さんの献身的な声の刺激とが,同じように働いていることが示されます。
くるみ共同保育所のしゅんちゃんが紹介されます。
しゅんちゃんは,脳がほとんどないというほどの状態で生まれてきました。この脳の状態であれば,目が見えることは期待できず,長く生きることもできないだろうと言われていましたが,しゅんちゃんは目が見えて走ることさえできます。
ニューロンは若いほど軸索がつながりを作りやすいのです。
てんかんのために左脳の多くを切除したジョナサンは,言葉を失いましたが,日常生活に支障ないほどに回復しました。右半身の麻痺も取れてきました。
死んでしまったニューロンがそこにそのままあると,再生する際に邪魔になってきます。しかし,マクロファージがそれを食べてきれいに掃除します。その後,アストロサイトが分裂して増え,軸索を育てる物質を放出します。この時期にリハビリを行えば,失われた機能の回復が早いのです。
ドイツ女性の症例が出てきます。一方の手を動かそうとすると別の手も一緒に動いてしまいます。回復の際に,混線が起こっているのです。正しい刺激と反応を強化することで,混線がなくなってきます。
寿子さんの反抗期が出てきます。賢太郎さんは第一反抗期だろうと解釈していましたが,木暮医師は,それは違うと指摘します。寿子さんの生き残っている脳細胞は今の年齢にふさわしいものである。失われた左脳の機能を回復させるために子供扱いするのでなく,残された右脳の機能を活かすべきである,ということでした。寿子さんの言葉にならない言葉は,右脳の言葉,つまり,意味のない抑揚だけで構成される言葉なのです。
しゅんちゃんは自発的に動きます。これが脳の発達上好ましいと考えられています。
寿子さんはリハビリへの意欲を低下させていました。
脳幹には,意識を集中したりやる気を出したりする時に重要な働きをする青班核という小豆大の小さな部位があります。この小さな部位が,脳全体に影響を及ぼしています。青班核が興奮すると,ノルアドレナリンという物質が分泌されます。そうすると,脳全体で,アストロサイトなどの再生を促す物質が活発に働き始めます。そして,軸索のネットワークが組み代わっていく力を高めます。
ミュンヘンゴールドバッハの患者さんは,左脳を失ったにもかかわらず,治ってみせるという強い意志で訓練を行った結果,右脳に言語野ができていました。
賢太郎さんは寿子さんの右脳の機能を活性化することを意識して対応を変えました。いつしか寿子さんの反抗的な態度も緩和されていきました。