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【Q11.宇都宮LRTの、更にその先へ】3.茂木にて(道の駅もてぎ・もてぎ昭和館)

(前回の記事はこちらです)


道の駅もてぎ

 街中をしばらく歩いた後、右折して川沿いに進む。初夏の午前の川べりを吹く風は爽やかなのだが、肝心の川面が、正直イマイチ美しくない。何だか化学薬品的なコバルトブルーに濁っていて、所々妙に泡立っている。透明感が全く無く、毒々しい。トイレ掃除用洗剤のような色彩だ。山間部の渓流といった感じは全くしない。

 目的地「道の駅もてぎ」までは、予想以上に距離がある。道の駅手前の公園に、多数の巨大な鯉のぼりが掲げられている。薫風を受けてはためく様子は、いかにも初夏の風景だ。中々良い。明日から五月だ。

 10時26分、道の駅もてぎ着。閑散とした、真岡鐡道の茂木駅とは対照的に、多くの客で賑わっている。広大な駐車場も、この時刻から、既にかなりの程度埋まっている。
 飲食店、食べ物屋が数軒ある。フードコートのような店で、とりあえず遅い朝飯を喰うことにする。この店も、また賑わっている。メニューには、道の駅グルメのグランプリを受賞したというラーメンがある。ゆず塩ラーメン。これにしよう。

 店の隅のカウンター席に座って待っていると、呼び出しのアナウンスがかかる。やたらに音量が大きく、店外にまで響く。食べる。美味い。腹が減っているので、何を食べても美味い。

 席の傍らには、受賞時のトロフィーが何本も飾られている。テレビタレントの色紙もある。
 食後の散歩に、農産物直売所を覗く。道の駅に来たら、やはり見ておきたい所だ。栃木県なので、最も多いのはやはりイチゴだ。価格的には安い方だと思うが、鉄道旅行者にとっては、やはり持ち運びが難しい。自家用車で来た観光客なら、ためらわずに買えるのだろうが。
 イチゴの他には、タケノコが多かった。やはり、初夏の今ぐらいが旬なのだろう。タケノコは、バックパックに無造作に突っ込んでも別に潰れることはないが、とにかく重くてかさばる。結局ここでは何も買わなかった。
 

 ここでもスタンプを発見したので、押す。
 道の駅の奥の方には、蕎麦屋がある。フードコートの賑わいからは遠く、ひっそりとしていて、客が入っている様子は余り見られない。

 谷の町には燕が多いというのが、経験と観察に基づく自分の見解だ。はるか昔、長野県の木曽福島にて悟ったことなのだが、ここ茂木も、例外ではなかった。庇の上で囀る燕を見つけ、その姿をしばらく撮影した。

もてぎ昭和館

 茂木駅まで歩いて戻る。郷土資料館や、博物館のような施設でもないかと探すと「もてぎ昭和館」という建物を見つける。行ってみる。

 古い商店を改装して昭和時代の生活空間を再現し、各種日用品、道具類、ガジェット類を展示した施設だ。昭和のお茶の間、電化製品、自転車、煙草屋、郵便ポスト……。何となく眺めていると、奥から男性係員が出てきて、色々と解説してくれる。

 茂木町は元々、煙草の葉の産地で、その栽培と加工工場とで栄えた土地であったのだといいう。その全盛期は、益子や真岡よりも賑わっていた。だからこの「昭和館」も、煙草関係の展示物が多目となっているのだという。
 近年は、喫煙文化全般に対し、社会からの批判が厳しくなり、この町は主要産業をほぼ失うことになってしまったとのことだ。
 真岡鐡道が休日に走らせている観光用のSLが来る時は、観光客で賑わうという。現在のこの町は、紫煙ではなく蒸気機関車の煤煙が主要産業だ。また昨日は祝日だったので、茂木駅より先の、未成線跡探索ツアーが実施され、何人かの客が来たという。真岡鐡道は、旧国鉄時代に、茂木駅より更に北に延伸する計画があったのだが、実現せずに終わった。その建設予定地を歩いて巡る、鐡道マニア向けのイベントである。

 昭和と一口に言っても、太平洋戦争を挟んで六十四年まであるので、その指し示す時代は長い。この記念館が再現している世界観は、大体戦後から昭和三〇年代ぐらいだろう。館内に映画「青い山脈」のポスターが数枚貼られている。ああ、レトロだな、自分の親世代が子供の頃の青春映画だな、名前ぐらいは聞いたことがあるなと思っていたが、よく見ると、そのうちの一枚には「青い山脈88」と書かれている。主演は舘ひろしで、1988年と言えば、舘の代表作である「あぶない刑事」がやっていた頃だ。

 1988年という年は、実質的に昭和の末年に当たる。(翌1989年は、最初の一週間だけは昭和64年になるが、年が明けて間もなく昭和天皇が崩御して元号が変わったため、その大部分は平成元年となる)。経済大国日本のバブル時代の頂点であり、輸出大国、電子立国、科学技術立国としての日本の最盛期であり、大衆文化・消費文化が花開いた時代でもある。初代ファミコンの最盛期であり、ドラクエⅢやスーマリ3、ロックマン2が発売されたのが、1988年である。勿論、令和時代から見たらレトロではあるが、そこまでレトロではない。
 「ファミスタ88」「ギャラガ88」と並んで「青い山脈88」という字面があると、さすがに違和感を禁じ得ない。
 この「昭和館」には、自分以外の客は居ない。
 係員の待機室から、音声が漏れて聴こえてくる。YouTubeの各種動画で聞き飽きた人工音声、ゆっくり動画の霊夢と魔理沙の会話である。おそらくはパソコンで、YouTubeの雑学系のちゃんねるを見ていたのだろう。
 少し北に行った所に図書館がある、そこで色々な郷土資料が展示してあると教えてくれたので、行ってみる。雨が降っている。

 図書館は存在したが、休館日であった。図書館・博物館等の公共文化施設は、一般に月曜日が休館日なのだが、今週に限り、本日火曜日が休館となっている。昨日月曜日が祝日であったため、開館していたからだ。「月曜日が祝日の場合は開館日とし、その翌日の火曜日を休館日とする」マイナールールが発動し、適用されたのである。昨日は……昭和の日だ! 思わぬところで、昭和から放たれた、時空を超えた一撃を喰らった。やってくれるぜ。

 町を、当てもなくしばらく歩く。雨は降ったり止んだりを繰り返して落ち着かない。明光義塾の建物を見つける。黄色地に青で書かれた看板は、どこの街でも良く目立つ。

茂木駅周辺スポット(Googleマイマップより、該当のレイヤーをご覧ください)


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青条
詩的散文・物語性の無い散文を創作・公開しています。何か心に残るものがありましたら、サポート頂けると嬉しいです。

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