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【Q6完結】【Q6.北海道の日本海岸を巡る】3.函館本線より石狩湾を望む
(前回の記事はこちらです)
朝の石狩湾
快活クラブを朝一番で飛び出す。今日はこの旅の最終日だ。函館本線を札幌から長万部まで走破し、道中にて石狩湾をこの目で見ることが、今日の主眼だ。いわゆる山線の旅である。
七月の旅行で用いた青春18切符が、まだ二日分余っている。長万部までは全て普通列車、鈍行なのでこれで充分だ。改札に入り、始発電車を待つ。6時09分札幌発、然別行きだ。「しかりべつ」と読む。全く何の知識も情報も無い駅だが、とりあえず行ってみようと思う。
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定刻通りに発車。車内はそれなりに混んでいる。海側の座席を確保することが出来ない。陸側の車窓から、札幌市内の都市的な景観を眺める。新幹線の工事現場、手稲付近のマンション群。巨大イオン。
同じ車両内には、ジャージ姿の男子生徒の集団が居る。おそらくは部活動だろう。銭函駅の手前で客が一斉に減り、窓際の席に空白が出来たので移動する。ほぼ同じタイミングで、朝の石狩湾が視界に広がる。幸運だ。陽光を反射してキラキラと輝く海面が、見る者の心を爽やかにさせる。
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函館本線のこの区間は、実は昨年九月の祝日、シルバーウィークの後半に、臨時特急で一度通ったのだが、その時は既に夜であり何も見えなかった。ここでリベンジを果たした。「北海道の日本海沿岸を回収する」クエストは、まずまずの成果を納めたと言って良いのではないか?
気分が良い。朝から酒が進む。
列車はやがて、長いカーブを曲がりながら小樽市街地へと進む。
札幌が、北海道における東京のようなポジションの都市ならば、小樽は横浜に該当するだろうと、自分は勝手に当てはめて解釈しているが、それは正しいだろうか? 車窓から見た小樽市街地には、タワーマンションと思われる高層建築物が少なからず見える。予想以上に、都会であるように感じる。
来るべき北海道新幹線は、この小樽駅には直接接続しない。より山側に新幹線単独駅である「新小樽駅」が建設されるのだという。
小樽から先の函館本線は、北海道新幹線の札幌延長を受け、廃線が決定しているという。その中でも小樽から余市までの区間は、利用者数が多く、バス転換では旅客需要を捌ききれないのではないかとの指摘も聞かれる。北海道内のバス運転手は現時点で既に不足しており、道内のバス路線は減便や廃線を余儀なくされていると報道されている。
列車は内陸部をカーブしつつ進み、塩谷、蘭島の二駅を経て蒸留所の街、余市駅に着く。車窓からプラットホームを望む。瀟洒なデザインだ。
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余市から先はガラリと乗客が減る。最後の方は、一車両が丸ごと貸切状態となる。
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7時49分、然別駅着。余市駅から二駅目、この列車の終着駅だ。
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然別→倶知安で洋菓子→ニセコで温泉
駅舎は小さくて狭く、クーラーが無いので暑い。椅子も最低限のものしか置かれていない。便所は、令和時代である現在の基準から見て衛生的であるとは言い難い。臭気の中を、アブが一匹飛んでいる。
赤く巨大な除雪用車輛が留置されているのが目を引く。真夏の青空の下、真夏の緑に囲まれ、真夏の直射日光をその赤い車体が反射する。圧倒的な存在感であり、見る者の心の中の少年の部分が沸騰するカッコ良さだ。今はただ静かにその身体を休めている。
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駅周辺には、それ以外には特に目立つものは無い。公民館のような施設と、普通の民家が何軒かあるだけだ。グーグルマップで調べても、神社や寺や、地蔵堂のようなものは見当たらない。やはり北海道だ。少し歩いた道路沿いに、簡易郵便局があるが、早朝なのでまだ営業していない。土産物を詰めたレターパックをポストから投函する。松岡さんの事務所宛てだ。
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8時42分、然別駅発。倶知安行き。真夏の北海道の森の中を進んで行く。
9時19分、倶知安駅着。倶知安駅は新幹線の乗り入れを予定しており、既に工事を開始している。工事のために、駅は大改造され、プラットフォームの至近距離に巨大な重機が何台も立ち並んでいる。北海道新幹線の開通は二〇三〇年の予定なので、随分と気の早いことだと思うが、この地域の人々が、新幹線にかける期待の高さが伺える。
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とりあえずスタンプを押す。
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次の列車まで時間があるので、改札を出て、駅前を少し散歩する。まだ朝の時間帯なので、商業施設は余り開いていないが、洋菓子屋が一軒営業を開始している。良い感じの外観だ。記念に菓子を買う。レジの店員さんの要領が余り良くなく、会計に思いの他時間がかかる。次の列車に間に合わないのではないかと心配させられた。
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9時50分、倶知安駅発。蘭越駅行き。
10時07分、途中のニセコ駅にて下車。ニセコ駅は内装も外観も、西洋風の木造建築物の趣きだ。いかにも観光地といった感じがする。
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駅至近に巨大な入浴施設があるのを発見する。昨日は快活クラブ泊で、シャワーすら浴びていないので非常に有難い。
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入る。建物内には飲食店と売店が併設されており、地域の産物も提供されている。
温泉には、午前中から結構な客が入っている。地域柄、アウトドアレジャーの帰りの人間が、良く利用しているようだ。老人のグループが、ひたすら釣りの餌の話で盛り上がっている。朝一番で渓流釣りにでも行ったのだろう。
午前中から温泉に浸かって、良い気分になる。物販スペースにて、土産物と、地元の農家「坪井農園」のトマトを買う。誰でも自由に利用できる、広い和室の休憩スペースがあるので、そこでトマトを喰う。ついでに倶知安で買った菓子も喰う。旨い。
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駅近くで展示されている鉄道遺構を眺める。ニセコで有名なフォトスポット、黄色い橋まで行ってみようと思ったが、暑過ぎて歩く気になれない。この猛暑は、本州とほとんど変わらないのではと思われる。
ニセコ→長万部でかにめし
12時52分、ニセコ駅発。蘭越駅から長万部駅の間は、本当に列車の本数が少なく、札幌を始発で出ても、この列車(列車番号2940D)が最速の長万部着となる。
車窓には時折、尻別川が見えるが、木々に阻まれて撮影はなかなか難しい。この地域を代表する名峰として知られる羊蹄山も、余り上手く撮影できない。
14時11分、長万部駅着。これにて、山線の旅は完結となる。長万部駅もまた、北海道新幹線が来ることとなっており、駅の西側にその用地が確保されている。倶知安駅とは異なり、長万部駅の新幹線ホームの工事は、まだ本格的には始まっていないようで、草が伸び放題となっている。
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長万部には昨年も来ている。駅近くの神社の敷地内から突然噴き出した水柱がニュースとなり、見に来たのだ。駅の様子はその時とほとんど変わっていないようだ。
駅の窓口には行列が出来ている。東京都内までの乗車券と、新函館北斗からの新幹線の切符を買う。今から間に合う最速のはやぶさは、既に全席売り切れとのことで、一本遅い便になる。素朴な顔立ちをした若い男性駅員は、まだ窓口業務に慣れていない様子だったが、何とか窓際の席を確保してくれる。
駅を出て交差点を渡り、「かなや」で駅弁「かにめし」を買う。長万部駅名物として有名な駅弁だ。店舗の隣に列車を模した飲食スペースがあるので、そこで食べる。
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和太鼓バンドを乗せた軽トラが、駅前の車道を徐行して行く。今日は街全体で何かのイベントを行っているらしい。
猛スピードで車が行き交う国道5号線を渡り、海岸に出る。噴火湾の曲線が美しい。その波に触れる。旅が終わってしまうことが、残念でならない。
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