名古屋グランパス戦マッチレビュー?〜羊、吠える〜
金曜日夜。
それは平日企業戦士にとって、無敵モードになる瞬間である。
会社を後にした僕の脳内に、無敵マリオのBGMが流れ始める。
土日という、確約された休暇に対するレセプション。それが金曜日夜なのである。いわゆる華金。
19時。予約をしていたお気に入りのスペインバルを訪れる。
金曜日は派手にビールをジョッキでかましたいが、たまには隠れ家的なお店のワインも良い。
オリーブとハモン・セラーノをつまみながら嗜むワイン、これはもう止めることが出来ない。俺は全盛期のリオネルメッシだ。酒よどんどん掛かってこい。全部飲み干してやる。
あっという間に1本のワインが空いた。
メインディッシュはこちら。2色のパエリア。
僕はこのスペイン料理が大好きだ。
パエリアを食べたくて、何度かスペインに行ったくらいパエリア好きなのである。
故に、都内近郊の「パエリアが美味しい」で通っているお店はほぼほぼ訪れているはずだ。
こちらもまた、本場スペインに倣う形でワインを流し込む。俺は全盛期のサミュエル・エトーだ。どんな酒もカチ込んでやる。
あぁ、なんて美しい金曜日なんだ。
あっさり空いてしまったワインの代わりにやって来たハイボールの泡が弾けるように、僕の金曜日もあっという間に溶けて行くのであった。
もう1軒、経路の違う飲み屋を挟んで家路につく。
何だかんだでかなりの量の酒を飲んだ。
「幸せ」の定義は人それぞれであるが、僕は自身の身体が酒によって浸されたこの感覚こそ「幸せ」であると思える。
きっと僕は、この瞬間のために生きている。
この何物にも代えられないこの瞬間を。僕は駆け抜けている。
この写真はそんな気持ち良い気分で帰った後。
iPhoneが記録しているこの写真の撮影時間は確かにそう言っている。
完全に記憶に無いが、恐らく家で1人飲み直したのだろうか。
うん。記憶に無い。きっとそのまま、僕は這いつくばるようにしてベッドへ傾れ込んだのだろう。
深夜2時。束の間の休息と言えよう。
ジリリリリ・・・・・
ジリリリリ・・・・・
朝6:30、耳元で僕のiPhoneが発狂した。
何度か止めるが、それでもまた発狂する。
以下、寝ぼけている(ほぼ寝ている)僕主観のvsアラーム。
iPhone「ジリリリリ!!!!!!!あった〜らしい〜!!!!!あっさがきた〜!!!!!!き〜ぼ〜〜〜うのあっさ〜が!!!!!!!!」
僕「絶望や・・・」
iPhone「ジリリリリ!!!!!!!yeah!!!!!!!!!めっちゃホリデー!!!!!!!!!」
僕「はるな愛・・・俺が小学生の頃めっちゃ流行ったよ・・・君がまだ半導体の頃かな・・・」
iPhone「ジリリリリ!!!!!!プチョヘンザッ!!!!!!!!!」
僕「手は挙げません・・・というか挙がりません・・・」
3回目の発狂を止めるため、僕はiPhoneの画面を見た。
そこで、僕は初めてその日が「土曜日」であることを知った。
うわ!!!!!!!!やべぇ!!!!!!!今日アウェイ名古屋じゃん!!!!!!!!!!
まるで感情のジェットコースター。
ベッドから飛び起きた僕は、急いで準備をする。
ん、頭痛い・・・
んん、眠い・・・
んんん、肌乾燥してるわ・・・
全て「泥酔」のせいである。
昨年、誕生日を迎えた際に"今年の抱負"として
「自分が飲めるお酒の限界量を何となく把握する」
と誓ったが、どうやら来年に持ち越されそうな勢いである。次の誕生日まで、あと約3ヶ月。求められる自身の圧倒的成長。試される超当事者意識。
体感ではレアンドロ・ダミアンがGKにプレスを掛けに行く勢いと同じくらいの迫力で名古屋に行く荷物をまとめ、多分電気を消し、多分家の鍵を閉めて最寄駅へと向かった。
このnoteを書いているのは帰りの新幹線内のため、現時点で家の電気が消えているか、鍵が閉まっているかの真偽は不明である。
多分、大丈夫なはずだ。多分。
若干の二日酔いをかき消すため、家を出る直前冷蔵庫にあるビールを飲み・・・
これは23歳くらいまでやっていた手法である。二日酔いという事実を「今、この瞬間の酔い」で上塗りするという、まるでレアンドロ・ダミアン/家長昭博/山村和也の3トップのようなパワープレーである。
もっとも、最近は「汗をかく」と二日酔いが抜けやすいことに気付いた。
なので、二日酔いを回避して楽しい遠征にするべく、家を出る前に重めの筋トレを入れて来た。
【とぅもねば式 二日酔い爆抜けメニュー】
・腹筋50回×3セット
・背筋20回×3セット
・スクワット30回×3セット
吐くかと思った。二度とやらん。
そんなこんなで、愉快な遠征が始まった。
その昔、現役の頃バスで名古屋遠征に行くと物凄く遠く感じたものだったが、大人になってから新幹線で向かうと物凄く早い。
あっという間に豊田スタジアムへ到着。
二日酔いもすっかり抜け、元気100倍になった僕は早速食料調達。
「同じ失敗を繰り返すな」なんて言葉はよく聞くが、この図をご覧いただければお分かりになられることであろう。
人間とは、同じ過ちを繰り返す生き物である。
おっと。二日酔いに襲われた日の17時にはビール両手に満遍の笑みを浮かべていた僕のことなどどうでもいい。
そんな「至福のビール」とともに今節のゲームが始まった。
ここまで2,000文字強。ごめんなさい。そろそろサッカーの話でもしよう。
我が愛する心の友、世界最高ファンタスティックフットボールクラブ川崎フロンターレのスタメンは
GK 上福元
DF 山根 高井 車屋 登里
MF シミッチ 脇坂 大島
FW 家長 遠野 宮代
高井がスタメンに名を連ねた。その他のメンバーは浦和戦から変更無し。
さぁ、6月を無敗で駆け抜けたチームによる7月過密日程大決戦初戦がキックオフ。
明確だった名古屋の狙い
前半から川崎がボールを握り、名古屋が前掛かりになった我が軍の背中を取ろうとするゲーム展開。
前半6分。早速名古屋が我が軍の背中を突く。
自陣で和泉が前を向くと、一気に最前線にボールを供給。
このボールを永井がフリック。高井の足にアンラッキーな形で触れ、ボールは真裏を走り抜けていたユンカーの元へ。
右斜め45度でGKと1対1の決定機を迎えたユンカーだったが、ここは守護神上福元が好セーブ。
我が軍に加入してからはビルドアップで存在感を発揮している上福元だが、元々僕が認識していた上福元のストロングポイントはこのシーンに代表されるようなスーパーセーブであった。
このシーンにも、凄まじい技術が詰め込まれている。
車屋の裏を完全に突き切る形で抜け出したユンカー。
上福元はゴールエリア前まで距離を詰める形で前進。
シュート少し前。恐らくユンカーが最後に上福元を見た瞬間に右足(ユンカーから見るとファー)の膝を少し曲げ、体重を右に傾ける。
要するに「先に右に倒れる」ように見せた。
超一流ストライカーのユンカーがその上福元の「仕草」を見逃すはずもなく。ユンカーは上福元の重心の逆。ニアへシュート。
しかし、ボールは上福元が残した左足にあたり、ゴールから逃げて行くように弾かれた。
完全にユンカーがイニシアチブを握っていると思われたこのシーン。実は、主導権を持って盤面を動かしていたのは上福元であった。
斜め45度でファーに撃たれてはシュートストップは難しい。ニアを空けるアクションをユンカーに刷り込み、ニアにボールを誘導した。
1対1の応用編とも言えるような、スーパーセーブであった。
上福元のスーパーセーブでピンチを乗り越えた我が軍は、反転攻勢に出る。
前半23分。川崎のフィルター、シミッチが相手のビルドアップを回収。
このこぼれ球を遠野が収めると、バイタルでエアポケットが発生し脇坂がフリーに。
1stタッチで相手の逆を突いた脇坂がペナ内でシュート。
しかしここは名古屋の守護神、ランゲラックがスーパーセーブ。
いわゆる「足抜き」と呼ばれるシュートストップ時の技術。
脇坂のシュートのようなGKの脇下は、甘いコースのように見えて実はGKが止めにくいコースの1つだ。
通常、GKはシュートに対して足でステップを踏み、タイミングを合わせて身体を倒すように地面を蹴ってセーブに移行する。
しかし、脇下のシュートはステップを踏むとボールとタイミングが合わず、足でシュートストップをしようとしてもボールに対して足を出せるだけの空間が無い。
まさに「絶妙」なコースなのである。
特にプロ選手のように体の大きいGKは脇下へのアプローチが遠く、シュートストップが困難になりがちだ。
シュートストップの名手ランゲラックに対して、脇下を狙った脇坂はさすがであったが、ランゲラックは驚愕のプレーでこのピンチを抜け切る。
それが、前述した「足抜き」である。
シュートに対して十分なアプローチスペースが無いため止めにくい脇下のシュートに対して、ボールに近い方の足を空振りをするような仕草をした。
このように、近い方の足を「抜く」ことにより、脇下のシュートへダイレクトにアプローチをした。
タイミングが外れるとGKをすり抜けるようにシュートが入ってしまうため、ある意味リスクと隣り合わせのプレーである。
しかし、完璧なタイミングで足抜きをしたランゲラックはノーステップでこのシュートを止め切った。
このプレーでスイッチが入ったのか、名古屋は攻勢を仕掛ける。
35分。サイドを千切ったマテウスが上げたクロスは、ユンカーに合っていればあわやゴールというシーンであった。
30分過ぎから、マテウスが左サイドを駆け上がるシーンが増えて来た。
40分、その兆候がゲームを動かす。
クイック気味に始まった名古屋のリスタート。ボールを受けたマテウスは速めのアーリークロスを入れる。
ややGK寄りに上がったボールだったが、上福元がこのボールをキャッチしきれず、目の前にいたユンカーの元にこぼれ落ちる。
我が軍が主導権を握っていたように見えたゲームは、名古屋が先制した。
失点シーンだけ切り取ると、ミスとして見えがちなこの失点。
しかし、この失点の兆候が無かったかというと、決してそんなことはない。
前述したように、我が軍の左サイドを完全攻略していたマテウスに見受けられた。
相手のストロングポイントであるマテウスに自由を与えては、こういった失点も起こりうる。
結果的にマテウスへの適切なケアと、マテウスが何でもできる状態でボールを受けさせない組織での守備が必要であった。
GK目線でこの失点を見ると、先ずはマテウスのボールが非常に嫌らしいボールであった。
GKにとって1番嫌な天気は「小雨」である。
大雨の日のクロスボールの処理は全てパンチングと割り切れる。例え低い弾道であっても、指先で弾くイメージだ。キャッチには行かない。
しかし、小雨の日は若干判断に迷う。
ボールを見ながら、キャッチorパンチングを判断する。晴天の日より、パンチングのウェイトが若干大きくなるイメージだ。
普段はキャッチできるボールでも、雨で濡れているボールと芝にフィーリングが合わない。キャッチなのか、パンチなのか。その判断が1番難しいのが「小雨」だ。まさにこの日のような天候だ。
話を戻すと、マテウスが入れて来たクロスは2つの事象が重なり、非常に嫌らしいボールとなった。
1つは、上述した「小雨の中での速いクロス」ということ。
そしてもう1つはGKの前でバウンドをし、上がってくる軌道でのボールであったということ。
最初、上福元は下から手を出す形でホールドをしてボールを迎えに行った。
しかし、雨に濡れて伸びやすくなったボールは、通常のバウンド定義より高めの軌道となった。
その結果、咄嗟に上福元はオーバーハンドでのキャッチに切り替えた。
先ず、咄嗟のこの判断はさすがであった。恐らく、殆どのGKがこの状況下ではそのままホールディングの判断を変えることが出来ない。
その結果、ボールが肩に当たってゴールに入ったり、敵の元に流れたり、雨の日によく見るようなクロスでのシーンに繋がりかねない。
結果的にオーバーハンドでチャレンジに行ったボールを掴みきれなかった訳だが、この失点シーンにも上福元の確かな判断力の高さ、そして技術を垣間見た。
そして、GK目線で申すのであればこういうコンディションの日に自由にクロスを上げさせては行けない。ミスのように見えて、実はその前で防ぐべきシーンだったように見えた。
前半はこのままゲームは動かず。0-1での折り返しとなった。
攻勢をかけた先に
後半開始から我が軍はフルスロットル。
49分の遠野のシュートを皮切りに、反転攻勢を目論む。
52分にはコーナーキックの流れから作った2ndチャンス。大島のクロスを高井が折り返すと、最後は車屋がフリーでヘッド。
タイミングこそあっていなかったものの、ここまでの時間で1番名古屋ゴールを脅かすことが出来たシーンであった。
60分、山田新を投入。脇坂を左SHに配置する形の4-4-2に。前線でのボール保持を高め、名古屋3バックのギャップを突こうとする狙いが見受けられた。
しかし、そんな狙いとは真逆の方向に試合は動く。
FK崩れの二次攻撃。
川崎自陣中央でボールを受けたマテウスが我が軍の右サイドを陣取った和泉へパス。和泉はケアに行った宮代の内側を取ると、そのまま剥がし切る。
永井を使ってケアに行った山根の背中を取ると、そのまま流し込む。
0-2
まさにフロンターレが取りたいような、手数を掛けずにペナの中に侵入していく攻撃であった。完全に崩されての失点。
2失点を食らった我が軍は佐々木、大南、瀬川を投入。
山根・登里の両SBに替えて、佐々木と車屋をそれぞれ配置。
攻勢に出るべき0-2という状況下でのDFラインの大幅な交代。何か鬼さんから「全員で攻撃に行け」というかのような、メッセージを感じるような交代であった。
そのメッセージを受け取ったのか、大南と佐々木は積極的に攻撃に絡み、山田、脇坂、瀬川がそれぞれ決定機を作る。
しかし、名古屋の牙城を崩し切るには至らず。ゲームは0-2で終了した。
次節に向けて
リーグ戦の大逆転優勝に向けて、首の皮1枚繋がっていそうであったこのゲームを落とした我が軍。
現実的には、優勝に向けてはいよいよ厳しい位置付けとなってしまった。
しかし、悲観している暇など一切無い。ゲームは続く。
攻めども攻めども点が入らない。そんな「フロンターレらしくない」ゲームは主審のホイッスルと共に終了。帰路へと着いた。
今シーズンの我が軍のここまでは、鬼木政権史上1番苦しい日々と言ってもいいだろう。
チームの主軸として計算していたレアンドロ・ダミアン、マルシーニョ、ジェジエウの怪我。間違いなく計算に入れていたであろうチャナティップの移籍。
時計の針をシーズン開幕前まで戻せば、キャプテンで日本代表であったDFリーダーがまさかの海外移籍。
寧ろ、よくここまで勝ち点を稼いでいると言いたくなるような状況であるのは事実だ。
このクラブで酸いも甘いも経験した、チームのバンディエラは数年前にピッチを退く選択を下した。
それでも、チームは崩れなかった。
期待の若手たちが責務を果たし、ピッチの上で躍動し続けた。
その若手たちが日の丸を背負うようになり、そして世界へと羽ばたいていった。
2018年加入の守田、2020年加入の三笘、旗手らは数年後に主軸として計算していた選手だったかもしれない。
しかし、彼らは瞬く間に成長し「大卒は海外挑戦できない」という我々の認識をひっくり返して行った。
マイナスが発生しても、プラスのエネルギーにひっくり返す。少し不躾な表現だが、近年の我が軍はそんなイメージだった。そんな「個」で盤面をひっくり返せる選手たちが何人も居た。
しかし、今季の我が軍は苦しんでいる。藻搔いている。足掻いている。
サポーター歴が長くなると、こういう時期こそ新たな発見があり、見応えがあるものだが、実際のところは客足が遠のき、注目度も下がってしまいかねない。
「狼の血筋じゃないから
今日も羊の声で吠える
馬鹿みたいと笑う君に
気付かぬ振りしながら」
ふと、脳裏にこんなフレーズが浮かんだ。
Mr.Childrenの「羊、吠える」という曲。
2020年〜2021年の破壊的な攻撃力を持っていたフロンターレが狼だったとしたら、きっと今のフロンターレは同じ血筋ではない。
でも、今のこのチームにしか出来ないこと、今のこのメンバーだからこそ出来ることがきっとある。
個人能力だけでは勝てないのがサッカーの面白さだ。チームで戦うという、この競技の面白さだ。
5-0で勝っていた。1試合3点がノルマだった。
あのシーズンのようには行かないだろうが、このメンバーだからこそ実現できるサッカーが見たい。
試合終了間際、最後まで全力で走る脇坂とシミッチ。ガムシャラにトライする佐々木、大南。そして全身を使って点を取ろうとする山田を見て、少しワクワクした。
2023年のフロンターレが戦うべき方法のヒントがそこにあったような気がした。
馬鹿みたいと笑う君に気付かぬ振りしながら。
このメンバーが目指すべきサッカーを。
このメンバーだからこそ活きるサッカーを。
次こそは、みんなの笑顔が見たい。
おまけ。悔しすぎて奇行に出る川崎フロンターレサポーターの図。
馬鹿みたいと笑う君に、気づかぬ振りしながら。
いや、これは馬鹿か。次は勝ちたい!