子どもの言葉をそのまま受け取るのは危うい。話せることと適切な言葉を選べているかは雲泥の差。
#20230403-64
2023年4月3日(月)
重い腰を上げ、ノコ(娘小4)の耳掃除のため耳鼻科へ行く。
長期休みごとに連れて行きたいと思っているのに、冬休みは行きそびれた。
ノコは耳垢がよく出て、週1回はベビーオイルを含んだ綿棒で耳の入り口をやさしくぬぐっているが、耳のなかは手が出せない。そこは専門家にまかせたほうがいい。
耳鼻科へ向かう出発時刻を伝えたら、ちゃんと身支度を整え、水筒や病院の待ち時間に読む本も用意しバッグに詰めていた。
戸締りを確認し、ノコにひと足遅れて外に出ると、ノコが電動アシスト付き自転車の後部に取り付けたチャイルドシートにちょんとおさまっていた。
なぜ、そこに?
思いがけないノコの行動に膝から力が抜ける。
「自分の自転車で行くよ」
「聞いてないし!」
そういうと、ノコはブンスカ怒った。
もうノコは自転車の幼児座席に乗せられる年齢ではない。そのことはノコにもいってある。それならチャイルドシートを外せばいいが、車のない我が家ではスーパーでの買い出しで活躍している。箱買いした飲料など大きな荷物を運ぶのにちょうどいいのだ。
出掛ける前からご機嫌斜めになってしまった。
ブンブン怒るノコは私を抜かそうと躍起になる。十字路が多い住宅街ではいつ車が飛び出すかわからず危ないので、私が先行したいが今のノコは聞きやしない。
仕方がないので、ノコの後ろから首を伸ばし、前方を見つつ声を掛ける。
「止まって! 車、来てない? 確認!」
ノコが振り返り、私を睨む。
「(自分の自転車で行くと)いってくれなかったじゃん。ムカつく」
――ママがいわなかったくせに私がしたからといって、非難するな。
――いわなかったママが悪い。
そんなところか。
なんでもかんでも先まわりして声掛けなんてできないよ…
ノコが少し落ち着いてきたと思ったので、改めていう。
「ただ怒るんじゃなくて、ノコさんが怒った理由と自分の気持ちを言葉にしてくれたのは、ママ、嬉しいな」
ノコがちらりと私を見る。
でも、最近のノコは「ムカつく」でひとくくりにしがちだ。
「ママ、思うんだけど、ムカついたんじゃなくて、後ろに乗れなくてノコさんはガッカリ残念な気持ちになったんじゃないかな。ガッカリのほうが気持ちにぴったりこない?」
「…知らねぇ」
ぶすくれた顔のまま、ノコのペダルをこぐ足に力が入り、前方へぐんと走り出た。
ノコの言葉をそのまま受け取って、私が一喜一憂するのは違うのではないか。
ノコはまだ語彙が少なく、自分の気持ちに合った言葉を持たない。一丁前に喋るので忘れそうになるが、言葉の意味を雰囲気だけで覚え、正しい意味を理解していないことも多い。
ノコがいっているのだからノコの気持ちそのままだと思わず、まずは疑って、押し付けでない形でよりノコの気持ちに近い言葉を差し出したい。
なんせ口を開けば「ヤダ」なので、押し付けない形でノコの感情に名前付けするのは非常に難しいとは思う。よくノコがいう「決めつけないで」と突っ返されそうだ。
言葉を使いはじめた幼い頃から穏やかに寄り添い、ノコの気持ちを「こうなんだね」「ああなんだね」とラベリングできたのならいいけれど、まだ一緒に暮らして3年目。ノコは言葉を習得してから我が家に来た。
首をそらし、明るい春の空に浮かぶ雲を私は見る。
それから、目を落とし、雨の日の公園で靴底にえぐられた泥を思い浮かべる。
話せることと適切な言葉を選べているかは、切なくなるくらいに”雲泥の差”なんだ。