「デイヴィッド・ホックニー」展
#20231105-282
2023年11月5日(日)
会期が長い展覧会こそ、危険だと知っているのに。
またやらかしてしまった!
観たい観たいと思っていた「デイヴィッド・ホックニー」展がもう終わる。
いや、7月から開催していたのだから、もうではない。
会期が長いと油断してしまう。はじまったばかりは混んでる、夏の暑い盛りはしんどい、もう少し暑さが落ち着いたら落ち着いたら…… と思っているうちに日は過ぎていく。
「明日で終わっちゃう……」
美術館のWebサイトにある作品画像を眺めながらつぶやくと、むーくん(夫)がスマートフォンから顔を上げた。
「行ってこいよ。明日のノコ(娘小4)の習い事には俺がついて行くからさ」
「でも、最終日だよ。きっと激混みだよ。人がいっぱいいるなかで作品観るの苦手」
そんなことをいうなら、さっさと夏休み明けの平日に行けばいいのに、と心のなかで自分に突っ込む。
「でも、やっぱり観たいいいいい」
「行け! 俺らと一緒に出て、朝一番開館前に並んどけ! チケットももう買え!」
ひいいいいいい。
むーくんに気圧され、最終日のチケットを購入する。
あぁ、入館までどのくらいかかるんだろう。
最終日当日の朝。
家族3人一緒に家を出て駅へ向かう。父娘は習い事へ、私は逆方向の電車に乗り、東京都現代美術館へ。
勝手知ったる商店街を足早に抜け、美術館へ向かう。すでに長い列ができている。だが、まだ開館前だ。この列の先頭は美術館の入り口だと思えば、そう長くはないかもしれない。
10時開館が15分前の9時45分に入口が開いた。
人々が館内へ流れ込む。チケット購入者と購入済者で列が分かれる。蛇行する列の後ろにつく。少しずつ少しずつ列は進み、10時直前には展示会場へ入れてしまった。結局待ったのは20分ほどだった。
展示は3階と1階の2フロアで、撮影可能エリアは1階のみ。
人の多さにせっかく来たが、観る気力が失せていく。でも、立ち止まってじっと作品と向き合う人たちのあいまからチラッチラッと観ながら進むうちに、先頭に出てしまったらしい。視界が開け、気持ちよく作品を味わえる。
そこからは、私のペース。
後半は、iPadで制作した新しい作品が加わってくる。制作過程をそのままたどれる動画はホックニーの手の動きを追えて目が離せない。描いて、色を置いて、さっきの線は消して、また描く。
毎朝描くという窓辺の花の作品に日々のうつろいが見える。
そして、長い長い絵巻物のように延々と続く全長90mの「ノルマンディーの12か月」は圧巻だ。
作品に沿って歩くと、ホックニーの視点も定まっていないことに気付く。近くを見、遠くを見、そして巡る。
人の目はカメラではない。じっと凝視している瞬間ですら、わずかに視線は揺らぐ。
絵画の技法はいろいろあるが、私は絶え間なくあちこち見てしまう目の動きをなぞるように描かれた作品のほうが「そのまま」であるように感じた。
そこにあった時間を切り取ってきたかのようだ。
それに見合った作品の大きさは絵画にのまれたようで、その場にいるような錯覚に陥る。
これはスマホの小さな画面ではわからない。どんなに解像度が高い画像であっても圧倒される一体感までは無理だ。
あぁ、来てよかった。
心のなかで、背を押してくれたむーくんを拝んでしまう。
作品の前に立たないとわからない。
これだけゆったり観ても後ろの集団が追い付いてこない。
私は時間の流れさえも抱えた作品の前を何度も何度も往復する。
ショップもまだ空いていて、絵葉書もゆっくり選べた。
鑑賞時間1時間。
その後、館内2階のカフェで少し早いランチを取る。
昼過ぎには習い事を終えたノコとむーくんと合流することになっている。
それまでは、しばし「私時間」だ。
明るい陽射しが差し込む店内でコーヒーを飲み、鯖サンドをかじり、売店で購入したホックニー特集の美術雑誌を広げる。
あぁ、来てよかった。
もう、ただ、それだけ。
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