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虫を連れて、雑踏を歩くと人が割れる。
#20230504-121
2023年5月4日(木)
ノコ(娘小4)と駅のトイレから出ると、いつのまにか長蛇の列になっていた。
こんなになる前に済ますことができてよかったと思いながら、列に沿って歩いていると並ぶ人たちの視線があるところに集まっているに気付いた。
通路つきあたりの壁の下。
「いやねぇ、なんでこんなところに」
「どっか行ってくれないかしら」
「こっち来ないわよねぇ」
顔をしかめ、チラチラと見ながらささやきあっている。
足を止め、首をひねって集まる視線の先に目をやると、小さな小さな明るい黄緑色。
クビキリギス!
あぁ、あぁ、なんでこんな駅構内の深いところまで来ちゃったかな。
しゃがんで手早く捕まえる。
ノコが私の手元をのぞきこむ。
「ママ、どうしたの?」
「クビキリギスがいたよ。外の草のあるところまで連れていこう」
ノコはその大きさにちょっと驚いたが、捕まえているのが私だからか騒ぐことはない。
「暴れ出してケガしたらかわいそうだから、急ぐよ。ついてきて!」
私は足早に改札へ向かう。
指先に力が入り過ぎないよう、でも逃がさない程度の力で持ったまま、足を急がせるのは結構大変だ。
G.W.の都心の駅構内は人でごった返していて、ぶつからないように歩くのも厄介。ちらちらとノコがついてきているか目をやりながら、指先の力加減、進行方向に気を配る。
明らかに駅構内を行き交う人々と違うスピードで歩く私は浮いていて、前方から来る人たちはすぐに私に目を向けるが、手にあるものに気付くとその避け方が激変する。私の進行方向からすうっとそれようとしていたのが、ガッと大きく逃げる。
人々が左右に分かれる。
まるで聖書に出てくるモーゼの十戒。海割りのようだ。
早く外へ逃がしてあげて、と思ってくれているのか。
いや、多分、虫を嫌悪してだろう。
そんなに嫌か、と苦笑が浮かぶ。
人々が避けてくれたおかげで、思いのほか早く改札にたどりついた。
ちょうど手のなかのクビキリギスがしびれを切らしたのか暴れだした。
ノコも改札を出たのを確認する。
そして、一番近い草むらへクビキリギスを放す。
ところが、クビキリギスは草のなかに消えず、しばらく私の手の甲にのっていた。
「ママのこと、好き?」
ノコがのぞきこんだ途端、クビキリギスが大きくジャンプ!
ギャッとノコが声を上げて、私の背後へ逃げた。ノコは私が虫好きだからかあからさまに虫を嫌わないが、好きでもない。虫が好きで虫に詳しいママのことは自慢だが、ノコ自身は虫が怖くもある
「急にジャンプするからびっくりしたね」
ノコは驚いたのが恥ずかしいのか、草むらに向かって「おーいおーい」と呼びかける。
これでまたビョコンと跳ね出てきたら叫ぶくせに、姿が見えないと強気だ。
ふふふ。
ノコの反応がおもしろい。
虫を好きになってくれ、とはいわないが、まぁ同じ世界にいる生き物として理由なく毛嫌いしないでほしいかな。
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